『患者さんを「クレーマー」にしないための
インプラント治療の説明書と同意書の作り方』
異業種の方々による共著においては得てして文面が独善的になりやすく、仕上がったものに齟齬を生じて脈絡が途切れることが多い。しかしながら、本書は外見がよく似ていらっしゃること以上に、それぞれの分野のエキスパートのご兄弟の強みか、意思の疎通によどみがないことが特徴であろう。
常識的には信じられないことまで訴訟の対象となる国とは異なるものの、わが国の歯科領域にあっても訴訟は増加傾向にある。ことに自費診療に関するものが多くを占めており、なかでも、インプラント療法が増えていくことが予想される。その背景には、歯の欠如部位への修復法の一選択肢でしかないインプラント療法が、あたかも最善であり、一生にわたり使えるかの錯覚を患者に抱かせる医療従事者側の誘導、あるいは患者の理解がないままに治療が進められる結果かもしれない。
「インプラント治療は『長丁場』です」と文中にもあるように、患者との付き合いは長きにわたることが多く、そのスタートは患者とのコミュニケーションから始まる。歯科医師の甘言に乗る患者もいるであろうが、当初は医療従事者に対して猜疑心を抱いて来院する患者も多いであろう。一部の方を除き法律に関しては疎い人間が多い歯科医師にとり、治療に際してどのようなことに注意するべきか、さらには問題を抱えそうになった場合のシナリオの構築にも大きな助けとなる内容が網羅されている。本書では問題回避について隙間のない書面の作成法が記されていて有用なことは論を待たないが、患者とともにスタート台に立つ前に歯科医師が備えていなければならない医療従事者のモラルに触れていることに感銘を受けた。歯科学生に対する教科書として、さらには各診療施設における常備書として本書を推薦したい。
インプラント療法に特化した本書は、それに従事する歯科医師にとってはきわめて有益なものであるが、インプラントと同様に訴訟の対象となる可能性の高い、矯正歯科ならびに審美歯科治療に関する続編の刊行をも期待している.
評者:小宮山彌太郎
(東京都・ブローネマルク・オッセオインテグレイション・センター)
宗像 雄/宗像源博・著
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:6,000円(税別)
『下野先生に聞いてみた2-
エンドの疑問に答える、指針がわかる』
アンダー根充とオーバー根充はどちらがよいのだろうか?歯科医師なら誰でも一度は考えたことのある疑問であろう。根拠を示しながら正解を答えるのは難しい。
さて、『下野先生に聞いてみた2─エンドの疑問に答える、指針がわかる』が発刊された。2017年のペリオ・インプラント編に続く第2弾である。本書は「臨床的疑問」と「基礎からの回答」という構成で、「エンド」、「力・歯の移動」、「口腔外科」、「移植・再植」、「疼痛」に分類された56テーマが取り上げられている。テーマとしては、「リバスクラリゼーション」、「MTA」、「根尖炎症の広がり」、「BRONJ(ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死)」など、多岐にわたり、エンド以外の話題も豊富である。臨床家が知りたい素朴な疑問、ややマニアックな質問に対して、きれいなイラストなどの図説を使いながらエビデンスに基づいて簡潔明瞭に下野先生が回答している。
どんな疑問にでも直接答えてくれる文献があるわけではない。たとえば、「デンティンブリッジにはトンネル状の欠損がある」ということが発見されている。デンティンブリッジの欠陥は直接覆髄にとっては不利な条件である。デンティンブリッジは価値がないのか、という疑念が湧く。これに対して下野先生は、デンティンブリッジの性質を熟知し、臨床手技にも精通した回答を示している。基礎の先生が臨床の手技に裏打ちを与えてくれることほど心強いことはないだろう。
エンドの臨床は変化が激しい。接着は進化し、マイクロスコープ、CBCT、MTAが導入された。リバスクラリゼーションという新しい概念も生まれている。つねにそのような最新の臨床情報を取り入れ、調査して基礎の立場から臨床を解説してくれる。時代が変わっても基礎は変わらないから臨床の発展に柔軟に対応して解説できるのだろう。これが下野先生の凄みである。講演のたびに先生は受講者、とくに若い先生の質問に真摯に向き合い、楽しそうにディスカッションしている。その成果が「下野先生に聞いてみた」シリーズに結実している。歯科医師になって日が浅い先生の質問にも気軽に答えてくれるその姿は、偉大な研究者というより、気さくな先輩といった風情である。
さて冒頭の質問は本書の最初に出てくるテーマである。答えが気になる先生はぜひ本書を手に取って、自分で確認してほしい。
評者:吉岡隆知
(東京都・吉岡デンタルオフィス)
下野正基・著
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:5,800円(税別)
別冊Quintessence DENTAL Implantology
『最新インプラント補綴─デジタルとアナログの融合─』
進化したインプラント補綴の現況を知るために読んでほしい1冊である。
デジタルの進化を表すときに「ドッグイヤー」という表現が使われて久しい。イヌの1年が人間の7~8年に相当することから進化の早さを表現するためにとくにIT業界で使われる。新しい製品、技術革新がわれわれの手許に届いてきたときにいつも考えることは「どのタイミング」でこれを取り入れるかである。
PC、スマホ、新しいデジタル技術と同様に歯科においてもエックス線診断、口腔内スキャナー、顎運動のデジタル解折、そしてPC画面上での解析やシミュレーションなどの技術は日々進化している。
歯科界におけるデジタルの進化の現況を知ることは大切である。デジタル技術は日々正確さを増しており、その勢いはとどまることを知らない。そして一方で現在のところまだまだ限界が多いのも事実である。
いうまでもなく本書はわが国のインプラントのスタディグループの最高峰の1つであるOJの年次大会の内容をまとめたものである。今回は前述したデジタル技術の現況を研究面から、あるいは臨床面からの双方から解説する内容となっている。インプラント治療の潮流をいつも反映してきたOJ年次ミーティングであるが、過去においては1本のインプラントの仕上がり、美しさを競い合う時代、また硬組織、軟組織の増大の達成度を競う時期もあった。そして現在ではこれらによって培った技術をベースにしてより効果的な、そして長期予後を見込める一口腔単位での治療のなかでインプラント治療を行うという発表内容へシフトしてきたようである。年々レベルが上がっている正会員コンテストでも技術はもちろんのこと、会員発表でも一歯単位でのインプラントの発表は影を潜め、さまざまな趣向をこらした硬軟組織のマネジメントの手法の分析整理であったり、デジタル技術の有効活用であったり、顎関節異常をともなう症例に対してインプラント治療を応用した症例が呈示されていたりと、バラエティに富んでいる。
多くの豊富な内容は進化したデジタル技術とともに現在のインプラント治療、インプラントを応用した歯科治療を理解するために非常に有用な1冊となっているのでぜひ一読してほしい。
評者:水上哲也
(福岡県・水上歯科クリニック)
三好敬三・監修
寺本昌司/岩田光弘/小川洋一/
勝山英明/高井康博/中川雅裕/
松井徳雄・編集
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:4,800円(税別)
(ザ・クインテッセンス2019年4月号 QUINT SHORT LIBRARYより)