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子どものための歯科って? Vol.3―子どもの不正咬合をケアする方法とは―

子どものための歯科って? Vol.3―子どもの不正咬合をケアする方法とは―
子どものための歯科って? Vol.3―子どもの不正咬合をケアする方法とは―

「子どものための歯科って?」シリーズ。前回「まりこ小児歯科」の重岡真理子先生から、「生涯の歯の健康のためには、子どもの頃からの口腔ケアが大切」とうかがいました。そこで私たちは、子どもたちに「お口のお手入れ」を楽しんで知ってもらうために、「紙芝居」を制作することにいたしました。関西で「プロの紙芝居屋」として活躍する岩橋範季さん(通称ガンチャン)とともに、京都で長年「子どもの不正咬合」の予防に取り組む小佐々歯科診療所を訪ねて、どのようなシナリオを作れば良いかアドバイスをいただきました。

京都の北山にある小佐々歯科診療所は開業が1975年、今年で開業44年を迎える地域に根ざした歯科クリニックです。院長の小佐々晴夫先生は、開業以来、「子どもの不正咬合の予防」に取り組まれてきました。

ーー小佐々先生、私たちは子どもたちに楽しみながら歯のケアの大切さを知ってもらうために、紙芝居を作りたいと考えています。そのシナリオを今考えているのですが、どんな内容を盛り込んだら良いでしょうか?

「歯に関する紙芝居ですか! それはとても素晴らしい試みですね。ぜひシナリオづくりを手伝わせてください。生涯にわたって健康な歯を維持するには、何より『予防』が大切。そのことは歯科医師だけでなく、お子さんを持つ多くの保護者の方々にも知られるようになりました。しかし、そこに大きな『抜け』があることは知られていません」

ーーいったい「抜け」とは何なのでしょうか?

「歯科の3大疾病といえば、う蝕、歯周病、そして不正咬合です。前者2つのう蝕と歯周病に関しては、毎日のブラッシングによるプラークの除去、そして定期的な歯科診療を受けることで予防できることが近年常識となっています。ほとんどの歯科医でも、この2つをお子さんを持つ保護者ために勧めているはずです。ところが、3つ目の『不正咬合』に関しては家庭でも、多くの歯科医でも、予防のためのケアがなされていないのが現状なのです」

小佐々先生によれば、現代の子どもの10人中7、8人、70〜80パーセントもの子どもに不正咬合が見られ、歯並びがそろっていないまま生活をしていると言います。

「不正咬合の原因は遺伝もありますが、8〜9割は後天的な生活習慣が原因といわれています。不正咬合は放っておけば、さまざまな健康上のリスクをもたらします。一つはちゃんと噛めないことから、食べ物の消化吸収が悪くなり、人間の成長にとってもっとも重要な子ども時代の栄養摂取に悪影響を与えます。また、噛み合わせが悪いことで食べ物のカスも残りやすくなり、掃除も難しくなるので、う蝕や歯周病になりやすくなります」

ーーほかにも不正咬合が健康に与えるデメリットはありますか?

「幼少期の不正咬合をそのままにしておくことは、将来のお口の健康の悪化につながるだけでなく、舌が口腔内の適正な位置に保たれず、またすきっ歯から空気が漏れたりするため、発音も不明瞭になります。その結果、コミュニケーションにも悪影響を与えます。また歯並びが悪い子は劣等感を抱きがちです。笑顔が少なくなり、友だちとの関係がうまく構築できないことから、不登校になる例もあります。不正咬合は噛みしめる力が弱くなるため、運動能力にも悪影響を及ぼします。子どもの不正咬合は、学力や運動能力の発達にも大いに関係するのです」

ーーなるほど……それは問題ですね。欧米では、歯並びの良し悪しがビジネスや人付き合いでの印象を大きく左右することから、幼少期に矯正治療をすることが一般的になっていますが、日本では歯並びが悪いまま大人になる子どもが少なくありません。数十万円の費用がかかる矯正治療を受ける前に、幼い頃から「不正咬合を防ぐような生活習慣を身につけること」が大切なんですね。

「そのとおりです。人間は本来、『噛んで食べ物を食べる生き物』です。昔の人は、繊維質の野菜や火で炙った肉を何度も咀嚼して細かくし、それを食べて栄養にしてきました。その体の仕組みは、何万年も前から進化していません。ところが最近は、ハンバーグやカレーのような『よく噛まなくても食べられる食べ物』が急速に一般家庭に普及したために、日常の食事で噛む回数が激減しているのです」

ーー確かに私たちも普段、あまり硬い食べ物を食べていません。

「粉ミルクで育つ赤ちゃんが増えたことも、不正咬合増加の一因と考えられます。哺乳瓶のなかには、下に向けるだけで重力でミルクが出てくるものがあります。またそれほど力を入れずに吸っても、ミルクが飲めます。それに比べてお母さんのおっぱいは、舌と唇でしっかり乳首をくわえて力強く吸わなければ、母乳が出てきません。まだ歯が生えていない赤ちゃんは、そのおっぱいを飲む動作で、舌や唇まわり、顎などの筋肉が鍛えられ、正しい舌の位置を覚えるのです。さらに母乳を飲んでいるとき、赤ちゃんは必ず鼻で呼吸しています。乳児期に鼻呼吸が習慣化することで、将来の不正咬合の大きな原因となる『ポカン口』を防ぐことができます」

ーー大人でも普段、気を抜いてテレビなどを見ているときに「ポカン」と口を開けてる人は珍しくないですね。

「ポカン口の人は、鼻ではなくて口で呼吸をしています。不正咬合の子どもの半分以上が普段の生活で「ポカン口」が習慣になっていて、そのまま成長してしまうのです。ほかにも不正咬合を起こす生活習慣には、『頬づえ』と『横向き寝』『うつ伏せ寝』があります。学校で授業を受けているときに、頬づえをついていたり、毎晩うつ伏せで寝ていると、歯に弱い力がかかり続けます。歯列矯正と一緒で、歯は弱い力が継続的にかかると動いてしまうので、頬づえによって歯並びが悪くなるのです。」

ーー不正咬合の怖さについて、よく理解できました。幼少期から不正咬合を防ぐためには、家庭でどんな習慣を身につければ良いでしょうか?

「私が子どもを持つ保護者の方々にアドバイスしている習慣は、次の4つです。

1. 普段からよく噛んで食べること。柔らかい食事ばかり食べずに、しっかり噛む必要があります。野菜や肉を、しかも口唇を閉じて一口30回以上噛んで食べるようにしましょう。

2. 頬づえや横向き寝、うつ伏せ寝など、顎に力がかかる生活習慣を改める。

3. 背筋を伸ばして、普段から姿勢を正しくする。ポカン口の小学生はたいてい猫背。ぴしっと背を伸ばすと、自然に口元がひきしまります。

4.お口の運動をしましょう。昔の子どもは口笛を吹いたり、風船を膨らましたり、玩具の吹き戻しで遊んだりなど、自然に口や舌の筋肉が鍛えられる遊びをしていました。そういう遊びを今の子どもがしなくなったことも、不正咬合が増えている原因と考えられます。気軽にできるお口の運動として、口の中で歯の外側をぐるぐる舌で5回ずつ、左右になめるのも効果的です。

口の周りの筋肉を鍛えるおもちゃ

500mlのペットボトルに水を入れて持ち上げる運動も効果が期待できます

この他にも小佐々先生の医院では、不正咬合予防のために、福岡の内科医である今井一彰先生が考案され、書籍にもなっている「あいうべ体操」も勧めています。 あいうべ体操とは、「あ〜」「い〜」「う〜」「べ〜」の発音をするときの口の動きを大きく30回ほど繰り返す運動で、舌や口蓋周辺の筋肉が鍛えられ、口呼吸の習慣を治す効果があると言われています。

デンタルライフデザインでは、小佐々先生のアドバイスにもとづき、子どもの不正咬合を防ぐための「紙芝居」の作成を現在進めています。間もなく、その紙芝居を本サイトで公開し、全国の歯科医の皆様にダウンロードしていただく予定です。ご期待ください!

小佐々晴夫(こささ・はるお)

1967年 九州歯科大学 卒業 1969年~ 「pd診療」を発明したDr.Daryl Beachに師事 1969年~1975年 綾部市に小佐々歯科医院を開設 1975年~現在 京都・北山に小佐々歯科診療所を開設 「人間の固有感覚にもとづくpd診療」のの熟練者として知られる。 (pd診療についての詳細はこちら https://pd.dental-plaza.com/) 2015年〜pd普及の会の主催。ベーシック、アドバンス予防矯正 1.5日コースを東京、大阪、福岡で年6回(ベーシック3回、アドバンス3回)開催中。 著書に『はっ!とするハのおはなし』斗夢書房、『感染予防ABC』ぱすてる書房、『GPだからできる不正咬合予防のための診療―普遍的原理と予防矯正の実際―』東京臨床出版などがある。

小佐々歯科診療所 http://www.kosasa.jp/

著者大越 裕

神戸市在住。
2社の出版社を経て、2011年フリーに。
ビジネス・サイエンスを中心に様々なテーマの取材記事を各種メディアに執筆。
理系ライターズ「チーム・パスカル」所属。
http://teampascal.jimdo.com
大越 裕

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