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スポーツデンティスト

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マウスガードをするスポーツ選手を見かけるようになり、歯科とスポーツの関係について近年注目されはじめています。日本スポーツ協会公認スポーツデンティストという資格が誕生し、その活躍が期待されています。今回はスポーツデンティストである、池元歯科医院の池元泰先生にお話を伺いました。

−−まずはじめに、スポーツデンティストとはどのような職能なのか、教えていただけますでしょうか。

スポーツデンティストは、2013年に始まった日本スポーツ協会と日本歯科医師会が主催する資格です。歯科医師の専門知識を活かして、スポーツ選手のデンタルチェックを行い、ケガの診断・予防や噛み合わせの適合などをサポートします。スポーツ大会などに、医師と共に運営スタッフとして参加することもあります。
歯科医師の免許取得4年後から受講することができ、2年間かけて講習を受けた後に、審査を受けることで合格が認められます。この資格がはじまった背景には、近年、スポーツの世界で「噛み合わせ」や「マウスガードの有無」が選手の練習・試合中のケガや、競技のパフォーマンスに大きな影響を与えることが知られてきたことがあります。

−−確かに、運動で力を入れるときには奥歯を噛み締めますね。マウスガードといえばボクシングなどの格闘技のイメージがありますが、他の競技にも広がっているのでしょうか。

スポーツをする中で、選手が歯牙に障害を受けたり、口腔内の怪我をする事例は珍しくありません。最近の小学校1年から高校3年の運動競技者を対象とした調査では、年間に野球が179名、バスケ49名、サッカー34名、ソフトボール38名、バレーボール20名、陸上16名、テニス10名、バドミントン7名、体操・器械体操では7名の少年少女が怪我を負っていることがわかりました。とくに多いスポーツである野球では、ボールやバットが口に当たることで、歯が欠けてしまうケースが目立っています。
それに対して、激しいコンタクトスポーツの代表格であるラグビーでは、年間7名しか受傷者がいないこともわかりました。これは、青少年世代でもマウスピースの装着が義務化されたことが理由であると考えられます。ほかにも空手やアメフト、ホッケー、ラクロスなどの競技では装着が義務づけられるようになりました。

−−マウスガードはケガ予防に、それほどの効果があるんですね。

はい。歯牙に被せることで、歯そのものや口腔組織のケガの予防をするのとともに、下顎を固定・安定させることによって、深刻な障害を引き起こしかねない頸部の損傷や、脳震盪の予防にも効果が期待できます。ただし、その十分な機能を発揮するには、歯科医院で一人ひとりに合わせたカスタムメイドタイプのマウスガードを作る必要があります。

−−パフォーマンス向上には、どういう影響を与えるのでしょうか?

運動しているときは、下顎がどこかの位置に固定される必要があります。しっかりと上下の歯が噛み合うこともあれば、舌や唇が補助的に使われて、変異した位置で固定される場合もありますが、とくにラグビーのスクラムのときのような静止状態や、ゆっくりとした動きのときは、歯を強く噛みしめることで、強い筋肉の力が発揮されます。一方で、速いスピードの動きのときには、顎の噛み締めによる増強効果は生まれませんが、運動しているときにはさまざまな顎位をとるため、顎を瞬時に動かせる整った歯並びをしていることが、高いパフォーマンスを生み出します。スーパーアスリートになるには、顎を正しく使うことが大切なんです。 クレー射撃の日本代表選手の中には「噛み合わせが向上することで力まずに集中力が向上した」と効果を実感し、ある大会では入賞を果たした選手もいるほどです。マラソン選手やプロ野球選手のなかにも、歯の矯正後に成績が向上した人がおり、パフォーマンス向上のために噛み合わせを改善する選手は増えていますね。

−−池元先生ご自身は、どのような経緯でスポーツデンティストになられたのでしょうか?

私自身、小学校から大学まで、ずっと野球に取り組むスポーツ少年でした。歯科医師になってからもスポーツが好きでさまざまな運動を続けていますが、学校歯科医を勤めるようになったあるとき、地元の歯科医師会から「スポーツデンティストの講習があるので、希望者を募集します」と声がかかったのです。 自分の知識やスキルを活かして、子どもたちのスポーツ能力向上に貢献できるなら、ぜひやってみたい、そう考えて、手を挙げました。申込書類には、「学校歯科医として活動していること」「野球などのスポーツをしてきて、現在も続けていること」を記載しました。
スポーツデンティストになるには、2年間かけて講習を受ける必要があり、講習の多くは土日をまる一日かけてみっちり行われます。スポーツ医師と共通の「公認スポーツドクター養成講習会」で整形外科などについての基礎知識を25時間学んだあとで、スポーツ歯科医学の専門知識を23時間学習します。講習の中には、実際のマウスガードの製作実習も含まれています。

−−スポーツデンティスト全体としては、どのような取り組みや活動が始まっているのでしょうか?

今年でスポーツデンティストの創設から8年となり、4期目を終えました。2018年11月現在で、全国にスポーツデンティストは352名がいます。一方で、まだまだその仕事と重要性の認知は全国のスポーツ現場に広まっているとはいえず、活躍する場が少ないのが、いまの課題ですね。
現在、2019年開催のラグビーワールドカップの熊本会場や、ハンドボールの女子世界選手権大会で、歯科的なサポートをすることが決まっています。そのほかにも九州地区で行われるラグビー大会で、スポーツデンティストがメディカル面でのサポートを行うことが予定されています。

−−スポーツデンティストになる方には、先生のようなスポーツの経験者の方が多いのでしょうか。

基本的に、歯科医師会から推薦を受ければスポーツデンティストの資格を得ることはできるため、スポーツ経験のない方でもスポーツデンティストになっている方もいます。そういう方は、自分自身がスポーツをするより、見るほうが好きで、仕事を通じて競技に関わりたいというのが動機のようです。スポーツ全体で競技のレベルが上がるなかで、スポーツデンティストは競技力向上に資する存在として、これからさらに必要とされていくことは間違いありません。
私も現役の選手だったときは、野球漬けの日々を送っていました。今も競技が15時間に及ぶトライアスロンに参加するなど、スポーツを愛好しています。「砂糖が沢山含まれるスポーツドリンクを飲んだ後は、水でぶくぶくうがいをすることで、う歯を防ぐ」。そういう知識は歯科医師の世界では「常識」ですが、案外スポーツ現場では知られていません。歯科医師ならではのアドバイスを伝えることで、スポーツ選手をサポートしていきたいと考えています。

池元歯科医院 https://ikemoto.dental-net.jp/

池元泰先生

1993年
奥羽大学歯学部 卒業
同年歯科医師免許 取得

1999年5月
池元歯科医院 開院

・日本スポーツ協会公認スポーツデンティスト
・奈良県総合医療センター登録医
・市立奈良病院登録医
・奈良市立平城西中学校 学校歯科医
・奈良県警察協力歯科医

著者大越 裕

神戸市在住。
2社の出版社を経て、2011年フリーに。
ビジネス・サイエンスを中心に様々なテーマの取材記事を各種メディアに執筆。
理系ライターズ「チーム・パスカル」所属。
http://teampascal.jimdo.com
大越 裕

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