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一般診療所で実践する睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療はおもしろい!第六回:来るもの拒まず

一般診療所で実践する睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療はおもしろい!第六回:来るもの拒まず
一般診療所で実践する睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療はおもしろい!第六回:来るもの拒まず

初診時

「CPAPの違和感が強いため離脱及びスプリントの製作を切望されています。上顎に歯はなく、下顎は9本程あります。よろしく御高診ください」 このように診療情報提供書には記されておりました。どうやら、歯を維持源とした通常の口腔内装置(以下OA:Oral Appliance)では対応できなさそうです。 紹介医によりますと、他院で重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)と診断されて、経鼻的持続陽圧呼吸療法(以下CPAP:Cotinuous Positive Airway Pressure)を始めて以降、良好な管理ができていたそうです。昨年の秋より、その病院から加療継続依頼を受けてOSAS管理を引き継いだとのことですが、初診時に患者さんが「冬の寒さが近づくにつれて鼻水が徐々に増えて、鼻呼吸がしづらくなってきたうえに、もともとCPAPに違和感を感じていたから、なんとかこれを離脱したい」と訴えられたそうです。 さっそく口腔内を診察すると、確かに上顎は残存歯がなく、下顎は右下3番から左下6番まで計9本しかありません。そのうえ、舌が舌房より明らかに大きい印象を認めました。 写真①~③ 初診時の口腔内。 「先生、いつも通りお得意のひらめきでやってみましょうよ!」 歯科助手さんの明るい一声から、「どうしたら奏効するOAが出来るのか」と悩んでいてもしかたないと気持ちを切り替えて、さっそく製作に取りかかります。まずは顎や舌の動き、顎堤の形状や残存歯の状況をよく観察し、普段の寝る体勢や生活習慣などを詳しく聞きます。次に、残存歯のアンダーカットに多少の維持力を期待するためにも、歯石などの汚れを歯科衛生士さんに除去してもらいました。印象採得後、歯科技工士さんと模型を作りつつ、今回はどんな設計にすればよいか、いつも通り試行錯誤します。 写真④~⑥ 印象採得後の模型。 まずは、下顎のスプリントを本連載で供覧した通りに製作し、装着していた総義歯の設計を参考に、上顎は通常の咬合床を製作してみました。 写真⑦、⑧ スプリントと咬合床を製作。

2週間後:顎位決定

「いびきをかくマネをしてください。次は顎を前に出したままいびきをかいてみましょう。」 このように指示して、実際に自分でもいびきをかくことができない位置を探してもらいます。顎位が決まったら、これらを用いて咬合採得のごとくロウ堤に印記して、上下を仮固定します。 写真⑨、⑩ ロウ提に印記して仮固定する。 次に、これを患者さんが自力で着脱できるか確認します。そして、装着中でも下顎ごと挙上された大きな舌が前方に避けられる空間を確保するために、あえて前歯部をくり抜いて舌房の大きさと形状を確認しました。 写真⑪~⑭ 前歯部の空間を確保し、舌房の大きさと形態を確認。 「誰が見ても入れ歯っぽくない色にしてみましょうよ」 これは若い歯科技工士さんの発想から生まれた名案でした。大方の患者さんは「入れ歯は寝るときは外すもの」と考えているため、装着してから寝ることに難色を示されることがありますが、「これは入れ歯ではありませんから」と一言お話するだけで了解を得やすくなるのです。この患者さんに提供したOAにクリアレジンを採用したことで、外見がより入れ歯らしくなくなっただけでなく、装着中の舌の位置や形状も観察しやすくなりました。 写真⑮~⑰ クリアレジンを採用したOA。

4週間後:装着開始

写真⑱~⑳ OAを装着すると自然に舌尖部が隙間から出てくる(⑳)。

5週間後:経過確認

「朝まで外れずにちゃーんと寝れてますよ」 特に苦しさもなく、終夜連日装着しながら睡眠出来ているとのことです。OAの吸着は良好で、粘膜に傷もなく、顎関節症の出現も一切認めません。義歯も変わらず使えているとのことです。今後このOAがどの程度奏効しているのか、紹介医にOSASの再評価をお願いする方針です。 私がOA治療依頼を初めて受けた2009年10月から2020年3月10日現在までの10年強の期間で、製作から終夜連日にわたる装着まで確認出来た患者さんは合計82名です。当初は、私の主たる勤務先である総合病院の歯科口腔外科外来だけで対応しておりましたが、当院が患者さんの自宅や職場から遠方であったり、診療時間内は仕事から出られないといった理由で、結局来院すらできないという事例が続いていました。そこで、患者さんの自宅や職場、勤務時間などを考慮して、私が出勤している医療機関のなかでもっとも動線の良いところに来院を指示するようになり、現在はすべての依頼に対応できております。 本連載の舞台となったこの診療所において、2014年10月よりOA治療に対応し始めてから現在までの5年半弱もの間で対応した患者さんは合計33名です。なんとその約85%に相当する28名の患者さんは、紹介医が最初に依頼したかかりつけ歯科から「OA治療の経験がない」もしくは「残存歯が少ないから作れない」と断られたため、あらためて当診療所の私宛てに依頼されていたのです。さらに、そのうちの11名は重症のOSASで、本来ならばCPAPの適応であったものの、これを導入できなかった、もしくは導入後に中止せざるを得なくなったから、OA以外の手段がなかった、と紹介医はコメントしていました。そのため、紹介医と患者さんにとって、私が最後の砦であると期待されていることを常に念頭に置き、たとえ歯がなかろうと、手が動かなかろうと、認知症が進行していようと関係なく、義歯を製作するのと同じように、スタッフ皆の協力を得ながら個々に合ったOAを製作してきたのです。その結果、上記11名のうち9名に対して、製作したOAの装着下で紹介医によるOSAS再評価が行われており、6名が軽症値、3名はほぼ軽症に近い中等症値へと著しい改善が証明され、現在もOA単独で管理されております。 OSASは、現代病の1つとしてその名が世間にますます浸透してきております。神奈川県内の某バス会社では、ある交通事故の発生を契機に改定された社内規定により、運転業務を担う職員全員に対して、定期的にOSASの評価を行うようになったそうです。こういった取り組みが今後さらに広まることで、OA適応と診断される患者さんはますます増加していくことでしょう。そのため、特定の病院歯科だけでは対応しきれるわけがありません。これだけOSASの医科歯科連携治療が望まれているにもかかわらず、残念ながらどこの地域でもOA治療に対応できる歯科診療所はまだまだ少ないのが現状です。 OA治療は、歯を喪失したところに入れ歯やブリッジ、インプラントといった欠損補綴治療を行うのと同じように、そのまま寝ると塞がってしまう気道をずっと開通させているための装置を我々歯科が作って、医科とともにOSASを管理する医療技術です。たとえ自分にOA製作経験がなくとも簡単に断らず、まずは依頼を受けて、スタッフたちと一丸となって知恵を出し合って進めれば、皆で臨床を楽しめるきっかけづくりにもなります。なによりこのチャレンジ精神こそ、自分たちの知らぬ間に地域の医療機関や患者さんたちの良き口コミにつながり、そしてみずからに何かしらの形となって返ってくるのです(了)。

著者横溝 一郎

社会福祉法人東京有隣会 有隣病院歯科口腔外科 歯科口腔外科医長

略歴
  • 2003年、日本歯科大学歯学部卒業後、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面外科学分野入局。
  • 2009年より現職。
  • 現在、大学病院は非常勤として勤務するかたわら、神奈川県内の診療所にも勤務。
横溝 一郎

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