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歯科医院の医療法人化とは?
手続きや売上目安、メリットや注意点まとめ

2020/4/24 歯科医院経営

歯科医院を開業してから、順調に事業規模を拡大していく中で、「医療法人化」の検討を考えられるかもしれません。
医療法人化の手続きは複雑であり、個人事業での経営とはメリットが異なるため、慎重に検討することが望ましいでしょう。

今回は、歯科医院の医療法人化を検討する目安や、医療法人化のメリット・デメリット、注意点などについて解説します。

歯科医院の医療法人化とは?

医療法人とは、所有を目的として歯科医師が常時勤務する歯科医院を開設する法人のことです。 医療法人化とは、個人事業主として歯科医院を始めた事業に「法人格」を持たせることをいいます。 医療法人化を行うことで、個人事業主だった歯科医師は、歯科医院から給与をもらう給与所得者という位置付けになります。 個人事業主は、属人的で事業と家計の線引きがあいまいになりがちです。 事業規模の広がってきた段階で医療法人化を行うことで、会計を明確にしたり、節税につなげたりできます。

医療法人化の手続き

医療法人の設立申請は、歯科医師のみが行えます。 医療法人には、原則として理事3名以上、監事1名以上が必要です。 「〇〇会」といった名称が選ばれやすく、既存の歯科医院名との混同は避けた方が望ましいでしょう。 医療法人を設立するまでのおおよその流れは以下の通りです。 都道府県により異なりますが、一般的には仮申請から認可書交付まで5ヶ月ほどかかることが多いです。 1. 医療法人設立説明会の受講 2. 定款(案)の作成 3. 設立総会の開催 4. 設立認可申請書の作成・提出 5. 設立認可申請書の審査 6. 都道府県医療審議会への諮問・答申 7. 設立認可書の受領 8. 設立登記申請書類の作成 9. 登記完了(設立) 設立認可後も、都道府県や保健所、年金事務所、税務署、都県税事務所ほかでの手続きが必要となります。 詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。 【関連】歯科医院の節税対策とは?税金の種類や対策方法、ポイントまとめ

歯科医院を法人化する目安

法人化検討の目安の一つは、税金です。 個人事業主の場合、所得税・住民税・消費税などの税金を支払わなければなりません。 特に所得税は、収入から経費を差し引いた金額(事業所得)に累進課税率が適用されます。 所得税法では、課税所得金額に対する税率を以下のように定めています。 【参考】No.5759 法人税の税率|国税庁 (2020年4月現在) ・年課税所得800万円以下:15% ・年間課税所得800万円超:19% ただし、適用除外事業者(前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者)の場合は一律19%です。  また、事業所得には10%の住民税も課されます。 たとえば事業所得が2,000万円の歯科医院なら、法人税(800万円×15%+1,200万円×19%=348万円)+住民税(約10%※ 2,000万円×10%=200万円)で548万円の税金です。 ※住民税の内訳である「市区町村民税」「都道府県民税」は、自治体によって独自の税率を設けている場合もあります。 ただし、医業収入は税制面で優遇される「概算経費」(租税特別措置法第26条)という制度を利用できます。 この制度を利用するためには、「①社会保険診療収入:年額5千万円以下」「②医業収入にかかる総収入金額:7千万円以下」という要件を両方とも満たさなければなりません。 社会保険診療報酬の金額による概算経費の算出表は、以下の通りです。
年間の社会保険診療報酬(A) 概算経費
2,500万円以下 A×72%
2,500万円超~3,000万円以下 A×70%+50万円
3,000万円超~4,000万円以下 A×62%+290万円
4,000万円超~5,000万円以下 A×57%+490万円
たとえば、「年間の社会保険診療報酬4,000万円、社会保険診療報酬に係る実額経費2,000万円」の歯科医院だった場合は以下の計算になります。 ①社会保険診療報酬に係る実額経費:2,000万円 ②社会保険診療報酬に係る概算経費:2,770万円(=4,000万×62%+290万) 実際には2,000万円しか経費がかかっていませんが、概算経費の2,770万円を経費として計上できます。 つまり、770万円分を余分に経費として落とせるということです。 なお、概算経費の場合は、社会保険診療報酬以外の収入に対する必要経費は実額でなければなりません。 一方で、医療法人化すると法人税率は~23%ほどに、住民税などを足しても30%前後となります。 医療法人の場合は、社会診療報酬分の事業税を非課税にでき、生命保険の保険料2分の1を経費計上できます。 上記の概算経費を適用できるかどうかが、法人化検討の目安の一つです。 概算経費を適用できなくなると、課税額が急激に増えてしまうため法人化した方が望ましいでしょう。

歯科医院を医療法人化するメリット

医療法人化のメリットは、税制面だけではありません。 ■事業を永続的に続けられる 個人事業で運営する歯科医院では、院長に権利義務が法的に帰属するため、院長が何らかの理由でいなくなると歯科医院自体がなくなってしまいます。 一方で、医療法人であれば権利義務は法人に帰属するため、院長がいなくなったとしても解散手続きを取らない限りはなくなりません。 医療法人の方が、永続的に事業を続けるのに適しています。 ■支店を開設できる 医療法12条の規定により、個人事業の場合は、原則として院長が複数の歯科医院を管理することは認められません。 医療法人の場合は、分院として支店を開設できるため、複数の歯科医院を管理できます。 新たな支店を開設して事業規模を大きくするなら、医療法人化を選びましょう。 ■事業継承を簡略化できる 個人事業の場合は、院長から子どもや第三者に対して事業継承を行うために、歯科医院の財産を引き継がせる「事業譲渡契約書」の作成や、スタッフや債権者との契約を切り替える交渉などが必要となります。 医療法人の場合は、出資持分や理事長個人名義財産の移転といった手続きが別途必要になるだけで、事業の継承自体は代表者である理事長を交代するだけで完結します。 ■債務責任を有限にできる 個人事業の場合は、権利義務が院長に帰属するため、院長自身が歯科医院の債務責任(借入金を返す義務)をすべて負うこととなります。 万が一、歯科医院が借入金を抱えて倒産した場合は、私財を売り払ってでも返済しなければなりません。 医療法人の場合は、院長は出資金を限度として債務責任を負います。 たとえ法人が倒産しても、出資金の範囲内でのみ責任を負えば済みます。 ただし、医療機器のリース契約や土地建物の賃貸借契約などで理事長が連帯保証人となっている場合は、出資金を超えて債務責任を負うことになります。 小規模の歯科医院では、契約に連帯保証人を求められることも多いため、注意してください。

歯科医院を医療法人化するデメリット

医療法人のデメリットは以下の通りです。 ■複雑な手続きをしなければならない 医療法人は、定款の作成や役員選任、登記手続きといった手続きをしなければなりません。 設立のタイミングでは多様な申請手続きを行うため、時間や労力がかかります。 設立以降も、毎年の決算書や関係省庁への書類などを提出しなければなりません。 また、決算書作成のための細かな会計管理も求められます。 税務や労務に関する専門知識も必要となるため、専門家のサポートを受けることが望ましいでしょう。 ■簡単に解散できない 解散手続き自体は容易ですが、残余財産の扱いに注意しなければなりません。 法人を解散して残った財産は国・公共機構の預りとなり、役員などの個人には残すことができません。 ■利益配分を禁じられる 医療法人は、原則として非営利です。 たとえ利益が出たとしても、余剰金の役員分配は禁じられています。 ※毎月の給料は受け取ることができます。 また、利益のあった場合に、次年以降の給料を増やすといった方法もありますが、個人事業に比べると収入の増加にタイムラグが生まれるため、デメリットといえるでしょう。 さらに、原則として役員の給与を損益に計上できず、交際費にも上限ができます。 ■社会保険料の負担が増える 医療法人化後は、健康保険や厚生年金への加入義務が生じ、小規模企業共済や年金基金には加入できなくなるため、法人負担分の社会保険料が増えてしまいます。 ただし、健康保険に関しては「医師国保」や「歯科医師国保」の続行も可能です。

歯科医院が医療法人化するときの注意点

医療法人化する際は以下のポイントに気をつけましょう。 ■医療法人の形態 医療法人の形態は、社団医療法人と財団医療法人の2種類です。 社団医療法人は人の集まりで、財団医療法人はモノの集まりです。 社団医療法人は、社員(自然人と呼ばれる)の集まりで設立できます。 財団医療法人は、法人の目的に財産を提供することで設立でき、設立時に提供した財産はすべて寄付されます。 医療法人の99%は、社団医療法人です。 「財産を寄付したい」といった特別な理由でない限りは、社団法人を選びましょう。 ■役員の構成 医療法人には理事3人以上、監事1人以上の設置が必要です。 ただし、医療法人の理事やその親族、従業員は監事に就けません。 医療法人と取引関係にある顧問税理士なども監事に就くことはできません。 監事は、業務の監査機能を果たさなければならないからです。 また、もし3人未満の理事で医療法人を設立する場合は、都道府県知事からの特例認可を受ける必要が生じます。 理事3人以上で設立したにもかかわらず理事が3人未満になった場合も、特例認可が必要です。 ■社員の人数 社員数は原則として3人以上必要です。 法的制限はありませんが、医療法人制度の観点から好ましくなく、3人未満の場合には行政指導の対象となります。 また医療法人では、株主のように金銭を出さなくても社員になれますが、一般的に出資して社員になるケースが多いです。 社団医療法人の社員は、社員総会において一人一個の議決権を持ちます。 これは、株式会社における株主に相当します。 ■負債の引継 医療法人の設立時、個人事業での負債をそのまま引き継ぐ場合には、「負債残高証明及び債務引継承認願」を提出する必要があります。 負債の引継ぎ漏れには注意しましょう。 無条件に負債の引き継ぎを認められる訳ではなく、拠出する資産のための負債だけが対象となります。 たとえば、個人に帰していると考えられる運転資金の負債は引き継げません。 また、負債で購入した財産だけが引き継ぎの対象となるため、財産の取得日以前の借入日でなければなりません。 ■決算期のタイミング 医療法人の決算期は自由に決定することができます。 決算期のタイミングによって売上や利益が変わってくるため、税金の金額も変わる可能性があります。 また、個人事業の最終年と医療法人の第一期の両方で「概算経費」を適用することも、決算期次第で可能です。 決算日の設定は、十分に検討してから決めましょう。

十分に検討してから医療法人化を

医療法人化のメリット・デメリット、注意点について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。 一度医療法人化すると簡単には個人事業に戻せないため、慎重な判断が必要です。 事業規模が広がり、メリットを多く得られる場合は、検討してみてはいかがでしょうか。 【歯科開業支援コンテンツ】OneToOne Club