"口腔機能発達不全症"の診断をするうえで、歯科医師には大きな欠点がある。 それは、子ども達が食べている様子を見る機会が少ないことだ。 だから、どの食べ方が正常で、どれが異常かわからない。 そこで一つ、読者にお願がある。 もし学校歯科医なら、歯科健診の際に給食風景を見学してはどうだろう。 携わっていなければ、子どもが通園・通学している施設、あるいは、教育や保育関係の知り合いや患者さんにお願してはどうだろう。 なかでもお勧めなのが保育園の見学だ。 2・3歳児に、不自然な食べ方をしている子が多い。 園には、必ず数名いるはずだ。 しかも、現場の保育士は困っている。 もちろん、最初から食べさせ方を提示することは難しい。 歯科医師がこの問題について考える"きっかけ"になれば十分だ。 さて、その代表が"常に口がポカ~ンと開いている子ども達"である。 ここで彼らが、どのような食べ方をしているか紹介する。 5歳女児がバナナを食べる様子を動画撮影し、一部を静止画像にして分析した。 まず図と照らし合わせながら、ご覧いただきたい。 ①:バナナを前歯でかじる寸前。口唇が少し開いている。 ②:バナナをかじる瞬間。 ③:口に入れ右側の臼歯で噛んだが、口唇はしっかり閉じていない。 ④:口を開けたが、中にはバナナが見える。 ⑤:もう一度噛んだが、口唇はしっかり閉じていないため少しバナナが見える。 ⑥:口を開けた。中にはバナナが見える。 ⑦:⑤と⑥を数回繰り返し、始めて口唇を閉じて嚥下する。 ⑧:前歯でバナナをかる。(①~⑦を繰り返す。) この動画から次のことがわかる。 1:食べている間、常に口のバナナが見える。 2:嚥下する時のみ口唇を閉じる。 3:閉口時でも口唇が開いている。 通常、私達は口唇を閉じて咀嚼する。 しかし、この女児は"パクパク食べ"しかできないのだ。 さてこの様子、小学校1年生を受け持つ担任の教師に見ていただいた。 すると、「わかりました!給食で食べるのが遅い子は、みんなこのような食べ方をしています」と言われた。 なるほど!歯科医から見て"口ポカ~ンの子"は、教師から見ると"食べるのが遅い子"と見えるのだ。 「このような子は、クラスに何人いますか?」とお聞きした。 すると「20人中に2名います」との返事だった。 小学校1年生では、約1割にこの様な問題を持つ子がいることがわかる。 そこで教師にお願いし、"その2名のロウソクを吹き消す様子"を撮影していただいた。 すると ①:ロウソクを吹く前 ②:吹く前に、少し口を小さくして息を吸う。 ③:口を開けたまま、吹き消そうとした。 ④:吹き続けるが、火は微動だにしない。 驚くことに、"ハア~"の口で吹き消そうとしたのである。 これでは、消えるわけがない。 さらに"うがいの様子"もお願いした。 すると ①:コップの水を口に入れた。 ②:含んだ途端、吐き出した。 この間わずか1秒。 女児は、ブクブクうがいができなかったのだ。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
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