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ウィズコロナ&
アフターコロナ時代における
歯科医院での感染予防と管理VOL2:
飛沫感染対策としての
個人防護具の適切な使用方法

2020/6/8 臨床ライブラリ

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)への感染拡大により深刻な社会的ダメージが生じ、その感染による呼吸器系疾患をはじめ、「サイトカインストーム」による血栓形成により状態が深刻化するケースも報告されています。歯周治療においても「サイトカイン」は頻出する用語で、細胞から分泌される糖タンパク質からなる液性因子であり、①細胞の成長に働くもの、②造血細胞の分化・増殖に働くもの、③炎症・免疫系に働くものに分類されます 1)。新型コロナウイルスが体内の細胞に吸着・侵入し、カプシドという殻を脱ぎ捨てて遺伝情報が組み込まれたRNA(ribonucleic acid リボ核酸)の転写・放出により細胞外へ放出されて増殖します。この時、自己防衛能として免疫作用が発動されますが、過度な対応により問題のない血管壁まで攻撃して血栓が形成されてしまうという機序が報告されています 2)。

このように病原性微生物への感染による感染症の発生を抑制するためには、その感染経路を明確にして遮断することが必要です。この感染経路には、「接触」、「空気」、「飛沫」があり、新型コロナウイルスの場合には飛沫により発生するエアロゾルとさらに微粒子のマイクロエアロゾルが問題視されています。しかしながら歯科の臨床現場においては、歯および補綴物の切削や予防処置において飛沫発生が生じ、作業者の安全性確保が求められます。そこで基本となるのが「標準予防策の遵守」です。ADA(The American Dental Association米国歯科医師会)は1985年に血液・体液・排泄物を対象として医療従事者を既知の感染症から守るという「ユニバーサルプレコーションズ」の遵守を提唱しましたが、その後、1996年にCDC(Center for Disease Control and Prevention米国疾病予防管理センター)より提唱された「スタンダードプレコーションズ標準予防策」を推奨しました 3)。この標準予防策では対象を飛沫・接触・空気と設定し、目的には従来の医療従事者に患者を加え、また現時点では明確に把握されていない未知の感染症に対しても予防をすることが盛り込まれています。標準予防策には、「全ての患者の血液・体液・喀痰・便・尿・膿・粘膜・傷のある皮膚を感染性ありとし、これに触れる時は、個人防護具(手袋・マスク・ガウン・ゴーグルかフェイスシールド)を着用する。また、これが付着した廃棄物は、医療廃棄物とする」という定義があります。

令和2年4月6日に厚生労働省医政局歯科保健課からだされた「歯科医療機関における新型コロナウイルスの感染拡大防止のための院内感染対策について」という通達では、「一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版) 」の内容に基づき、歯科診療実施上の留意点について説明されています。その中で、「すべての歯科診療において医療従事者がマスクや個人防護用具(メガネ、フェイスシールド等)を使用すると、使用しないよりも医療従事者の感染を防止することができますか?」という設問に対し、「医療全般において処置の過程で目/鼻/口の粘膜に体液などによる汚染(血液やその他体液、分泌物の飛散)が予測される場合は、粘膜からの血液媒介ウイルス感染防御のため、マスク、ゴーグル、フェイスシールド等の個人防護用具(PPE: Personal Protective Equipment)の使用を標準予防策として勧められます。個人の眼鏡やコンタクトレンズは十分な眼の保護用具としては考慮されません。歯科治療時は、患者の唾液や血液・歯や材料等の切削片が飛散するため、個人防護用具(PPE)の使用が勧められます。」と回答されています 4)。ただし、眼鏡を使用する際には、その上から使用できる「ホギーアイガード」のようなゴーグルを重ねて着用します。

PPEとされるもののなかには、その材質や特性についての基準が設けられており、ガウンにはAAMI(The Association for the Advancement of Medical Instrumentation®米国医療機器振興協会)、マスクにはASTM(American Society for Testing and Materials米国試験材料協会)、ゴーグルにはJIS(Japanese Industrial Standards日本産業規格)、グローブにはWHO(World Health Organization)やCDCの基準が設けられており、適切なものを選択しなければなりません。

また、PPE使用において最も重要な注意点は、処置の終了後に脱ぐ際に自分自身や周囲を汚染しないということです。使用済みPPEには目視できないほど微細な汚染物が付着している危険性があり、フェイスシールド・キャップ・ガウン・グローブ・マスクを使用した際には、マスクのイヤーループ(耳にかける部分)はキャップ内に被覆されているため、グローブをはずしてから「ピュレル」のような擦式アルコール製剤で手指衛生を行ってから汚染されていないイヤーループの部分のみを持ってはずします。非常時なり医療資源の枯渇が生じてマスクの入手が困難となる場合も予想されますが、マスクの上からフェイスシールドを用いることで飛沫被ばくを軽減し最小限の交換で対応することになりますが、可能な限り単回使用を心がけたいものです。

歯科医師の先生が難抜歯をされたり歯科衛生士さんが超音波スケーリングをなさると、大量の飛沫が発生して被爆します。PPE使用に対して、「そんな大げさなことをすると患者さんが怖がる」と懸念される関係者もいらっしゃるかもしれませんが、一般の方々の感染症に対する意識レベルが上がりつつあり、その必要性を適切に伝えることができれば、患者さんに安心してお口をあいていただけるような信頼関係が構築されると考えます。自分たちも患者さんも守るという標準予防策の原点の再確認が求められている時代になっています。

参考文献 1)医歯薬系学生のためのビジュアル生化学・分子生物学 大塚吉兵衛・安孫子宣光共著 2014年 日本医事新報社 2)COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression Puja Mehta, Daniel F McAuley, Michael Brown, Emilie Sanchez, Rachel S Tattersall, Jessica J Manson,et al. Published Online March 13, 2020 https://doi.org/ 10.1016/S0140-6736(20)30628-02020 3)Practical Infection Control In Dentistry John A. Molinari, Jennifer A. Harte 2010年 Lippincott Williams & Wilkins 4)厚生労働省委託事業「歯科診療における院内感染対策に関する検証等事業」一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版) 2019年 厚生労働省webサイト
近著 「よくわかる歯科医院の消毒滅菌管理マニュアル」 ~無駄なく無理なく導入できる現実的な実践法~ 書き込み式 歯科衛生士のための感染管理の基本