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ウィズコロナ&
アフターコロナ時代における
歯科医院での感染予防と管理VOL3:
手指衛生

2020/6/14 臨床ライブラリ

皆様は、「感染管理の入口は手洗いから」という表現を耳にされたことがおありでしょうか?幼稚園や小学校でも、手洗い場で"Happy Birthday to you"と歌いながら子供たちが手を洗っている場面がニュース番組で取り上げられたりしています。何らかの病原性微生物による世界的な感染症拡大が生じると、何キロも歩いて水くみに出かけたり雨水を利用して手を洗っていたりというアフリカ諸国での状況が報道され、「パンデミック」を収束させることの深刻さを考えてしまいます。

新型コロナウイルスによる感染症拡大により、医療現場だけでなくスーパーマーケットや金融機関の入口に手指消毒用のアルコールが置かれていたり、担当者が来店者の手指にスプレーしていたりという姿を見かけます。しかしながら、その品質が保証されているのか否か、非常に疑問に感じます。歯科医療施設において、マスクやグローブとともに消毒用エタノールも医療資源枯渇の一つとなった時期がありました。皆様の施設でも、アルコールワッテが作れず、困惑された方もいらっしゃるでしょう。また、手指衛生用の擦式アルコール製剤が不足し、通常であればアルコールを用いていた場面でも、流水と石鹸で対応された施設もあるはずです。

今回のテーマとして、「予防」を取り上げたのは、VOL.2で取り上げた「標準予防策」の中に、「既知および未知の感染症から患者と医療従事者を守る」という目的について、新たな視点でとらえる必要があるからです。それは医療従事者が排除しなければならないとされる病原性微生物の特性とそれへの対処法の根拠です。例えば、新型コロナウイルスは、中心に遺伝情報が詰め込まれたRNA(ribonucleic acid リボ核酸)の外側に蛋白質でできている「カプシド」という殻があり、さらにその外側には脂質でできた「エンベローブ」や蛋白質の「スパイク」が取り巻いています 1)。この組成を考えれば、蛋白質を変性させ、脂質を溶解できればウイルスを不活性化することにつながります。細菌が生物であるということを疑う方は少ないでしょうが、ウイルスはいかがですか?生物としての条件には、①自己複製能があること、②代謝すること、③細胞膜で仕切られていることという条件があり、自己複製能はあり増殖可能で、膜で仕切られてもいますが、代謝はしないとされており、生物と無生物の中間として位置づけられています 2)。つまり、ウイルスの病原性を排除するためには、死滅させるのではなく不活性化させるという表現が適切になります。その方法としてはカラダをバラバラにして活性を発揮できない状態にすれば良く、その組成となる蛋白質と脂質をアルコールや界面活性剤で変性したり溶解すればいいということになります。そのために石鹸やアルコールを用いて手指衛生を行い、不潔な手指を介して粘膜から体内に侵襲しないような予防が重要となります。

令和2年4月6日に厚生労働省医政局歯科保健課からだされた「歯科医療機関における新型コロナウイルスの感染拡大防止のための院内感染対策について」という通達では、「一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)」の内容に基づき、歯科診療実施上の留意点について説明されています。その質問1では、「歯科診療時の手洗いは、消毒薬を含む洗剤を使用して行う方が、擦り込み式消毒薬を用いるよりも院内感染を防止することができますか?」とあり、回答には、「院内感染防止の観点からは、診療前や唾液・血液が付着している可能性がある場合には消毒薬を含む洗剤と流水で手洗いを行うことが強く勧められます。」とし、さらに解説には、「CDC(米国疾病予防管理センター)の手指衛生ガイドラインでは、手が目に見えて汚れているとき、有機質で汚染されているとき、血液やその他の体液で目に見えて汚れているときには、非抗菌石鹸と流水、あるいは抗菌石鹸と流水で30~60秒間手を洗うことを強く推奨しており、手に目に見える汚染がない場合は、臨床における処置の前後においてアルコールベースの擦り込み式消毒薬を使用して手指消毒を行うことも強く推奨している」としています 3)。

では、実施に有効な手指衛生のためのポイントを考えていきましょう。まずは、「どのような時に」という問題です。その答えは、①患者への接触前、②清潔操作の前、③体液に曝露されたおそれのある時、④患者への接触後、⑤患者周辺環境への接触後というWHO(World Health Organization世界保健機関)が提唱する「5つのタイミング」にあります 4)。また前述のCDCのガイドライン同様にWHOからも手指衛生ガイドラインが出されており 5)、状況設定により「石鹸と流水」か「擦式アルコール製剤」かの使い分けが推奨されています。特に擦式アルコール製剤を使用する場面としては、患者に接する前後、手袋装着・非装着に関わらず処置に侵襲的器材を扱う前、体液あるいは浸出液・粘膜・正常でない皮膚に触れた後、滅菌手袋あるいは未滅菌手袋を脱いだ後等としており、アルコール製剤使用時には、3~5mlの必要量を手のひらに取って30秒間擦り込み、十分に乾燥させます。アルコール製剤を選択する際には、サラッとした漿液性のものよりも、「ピュレル」のように皮膚上に接着しやすく保湿効果もあるジェルタイプをお勧めします。

次の患者さんがお待ちだったり記録作成に追われたりしていると、手指衛生がなおざりになりがちですが、効率を上げるためにも、手指衛生を実践しながら気持ちを落ち着けることも必要になるのではないでしょうか。

参考文献 1)WHO_COVID-19_Coronavirus_Animation_EN 2020年 World Health Organization 2)口腔微生物学-感染と免疫-第6版 石原和幸他編著 2018年 株式会社学建書院 3)厚生労働省委託事業「歯科診療における院内感染対策に関する検証等事業」一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版) 2019年 厚生労働省webサイト 4)世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン 2009年 WHO
近著 「よくわかる歯科医院の消毒滅菌管理マニュアル」 ~無駄なく無理なく導入できる現実的な実践法~ 書き込み式 歯科衛生士のための感染管理の基本