TOP>コラム>診療室の片隅でのつぶやき第4回:「対話をめざした会話」の先にある「インフォームド・コンセント」

コラム

診療室の片隅でのつぶやき第4回:「対話をめざした会話」の先にある「インフォームド・コンセント」

診療室の片隅でのつぶやき第4回:「対話をめざした会話」の先にある「インフォームド・コンセント」
診療室の片隅でのつぶやき第4回:「対話をめざした会話」の先にある「インフォームド・コンセント」
患者さんが辿ってきたライフサイクルの違いで、受けてきた歯科治療が異なり、口腔内の多様性が生じたことに結びついていることは前回お話ししました。そのためにどの世代の患者さんの歯科治療にあたる場合であっても、個々人のライフサイクルへの理解が必要で、それらの方々に寄り添う会話と対話に基づくインフォームド・コンセントが重要になります。

言葉というのは千変万化であり、現在の情報に溢れた社会(新聞、書籍、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットなど)では情報量、情報の質と受け手側の理解に大きな隔たりが生じることは少なくありません。それゆえわれわれ医療者サイドで必要とされる説明義務において、伝えた(説明した)≠伝わった(理解がえられた)であるということを念頭におかなくてはなりません。このことは経験を重ねるとともにおざなりになりやすくなるため、気をつけなくてはならない事項です。

ここで私が大学院生の4年間でお世話になっていたバイト先の話をしましょう。団地内の歯科医院(2年半)、ユニットが15台ある東京郊外の歯科医院(11か月)、都内ショッピングモール内の歯科医院(1年)と、計3ヵ所でいろいろな経験させていただきました。それらの歯科医院で院長先生が言い放った言葉はたくさんありますがキリがないので、特に忘れられない以下の2点を取り上げます。

1)「目配り、気配り、金配り」
2)「うちの患者さんはデンタルIQが高いから」

1)については歯科医院経営を考慮する意味では妥当(?)かと思われますが、治療最中に通りがかり際に言われるものだからたまったものではありません。ある種患者さんにはマイナスな意味で捉えられていたことだと思います。2)に関しては、自分の歯科医院に来院する患者さんは「デンタルIQが高い人しか集まらないから保険外の治療を選択する」みたいなことをいっていましたが、純然たる根拠は何もなかったようです。デンタルIQのチェック項目はいろいろなところで出しているようですが、患者さんの口腔内への興味と理解がどれほどかは表しようがありません。これらはいろいろな意味で考えさせられる良い機会だったと思います。

前述したように、情報に溢れた現代社会においてデンタルIQ向上のためにはいろいろな手段で入手できます。しかし間違った情報や認識の修正・教育は、われわれ歯科医療者による相互理解が成り立つようにする必要があります。

対話(dialogue)は会話(communication)の延長上にあり、インフォームド・コンセント(informed consent)はさらにその延長上にあります。医療者が正しい知識をどんなに伝えようとしても、相手の理解できる共通言語をもてないかぎり、お互いの認識にズレが生じ、時として紛争となることも少なくありません。そのためには何をするべきでしょうか。


図に示す項目は、相手を理解するための質問みたいなものです。人によっては、きっと「そんなのはアンケートでやった方が早いし無駄が省ける」とおっしゃるでしょう。しかし、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)が2003年に成立してから、個人的な事を語っていただくのが難しくなり拒否されることも多々あります。そこで会話という形で語っていただく事で、一つ一つのピースを合わせて作り上げるジグソーパズルのように相手を理解することが大切になります。もちろん相手に語っていただくだけでなく、そのきっかけになりそうなことであれば自分のことも語る必要性は出てきます。しかしこれが相互理解を深めるための第一歩であり、私はそれを引き出すための準備として、古きものから新しきものを知るために会話に使えそうな日本を紹介する本を読むようにしています。

患者さん個々のライフサイクルの理解に努め、尊重することを出発点として、まずは対話を目指した会話から始めてみてはいかがでしょうか。

参考文献および書籍など:
1.公益社団法人日本看護協会.インフォームドコンセントと倫理
https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/text/basic/problem/informed.html
(2020年8月12日アクセス)
2.社団法人日本歯科医師会.信頼される歯科医師II 歯科医師の職業倫理 第2章 患者を尊重した歯科医療.2008;10.
https://www.jda.or.jp/jda/about/pdf/trusteddentist2.pdf
(2020年8月12日アクセス)
3.大槻純子.学生の目で見たインフォームドコンセントの問題点.非医療従事者に対して行ったアンケート調査より.福岡歯大誌 2003;30(2):79-81.
4.羽賀俊明.歯科相談に見るインフォームド・コンセント.生命倫理 2003;13(1):175-180.
5.講談社インターナショナル[編].英語で話す「日本」Q&A 1996.
6.丹羽基二.地名でわかるおもしろ起源(ルーツ)―出身・郷里・住んでる所 あなたは一体どこから来たのか.青春出版社,1996.

著者本村一朗

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 助教

略歴
  • 1991年、昭和大学歯学部卒業
  • 1995年、同大学大学院修了
  • 1995年~2004年、東京医科歯科大学 歯科生体材料学分野 助手
  • 2004年~東京医科歯科大学高齢者歯科学分野 助教
  • 大学院生時代補綴科に所属後、基礎系(歯科生体材料学分野)を経て、
  • 現在の高齢者歯科学分野(有病者高齢者への歯科治療を行うスペシャルケア外来1)に所属。
  • 研究は工学部などとの連携による開発研究が主。
本村一朗

tags

関連記事