第4回では、医療者サイドで必要とされる説明義務において、「伝えた(説明した)≠伝わった(理解がえられた)」であるということを念頭におき、相互理解が得られるように努める必要があることをお伝えしました。 皆さんは患者さんへの説明にはどのような伝え方の工夫をしていますか?歯科診療の説明をするにあたり、世の中には多くの説明用ツールが存在していますがそれだけで伝わっているのでしょうか。歯科医療者側としては、ごく当たり前のことも患者さんにとっては馴染みのないことがほとんどです。もちろん専門用語などもすぐに調べられるような環境がそろっていても、それを活用できるかについては世代によって分かれることでしょう。そのため前回のような会話による情報収集が大切になり、世代や個々人に合わせた対話が求められています。 2020年度、私は歯学部附属病院内の「歯科医療相談室」で患者さんからの相談を受ける業務にも従事しています(毎週決まった曜日の2時間開室)。実際にこの相談室に来室されるような方は、担当医との対話に齟齬が生じて行き詰まった場合が多いと感じます。また、第3回でも示した平成28年歯科疾患実態調査の「処置歯に占める充填歯・クラウンの割合」(図1)に示したように、60歳代以上の歯科治療を多く受けている世代からの相談も多いと感じています。その点もふまえると、よりていねいで理解を促す説明を行う必要があると考えられます。ではどのようにするのが良いのでしょうか。もちろん、説明用模型(図2)などを用いても良いのですが、身近なものやその患者さんが体験したであろう(これらについては会話から引き出していく)ことをベースに考え、具体的なものに例えることで理解をより深めてもらえます。 図1 処置歯に占める充填歯・クラウンの割合 図2 説明用模型の例 例) ・義歯修理(増歯・増床) → 家を増築・改築 ・義歯新製 → 家を新築 ・歯周病で歯が揺れてくる → 砂山に立てた棒倒し ・延長ブリッジ → プールの飛板飛込み台 図3 具体的な説明の例え 図4 歯の役割説明用 図5 歯の構造説明用 本欄や図3に挙げたものはほんの一部ですが、もっとたくさんの良い伝え方もあると思います。また会話から入手した情報の中にその患者さんの職業などがあれば、それについて自分で調べたうえで何か使えそうなものを応用するとさらに理解していただけると思います(相手の専門分野を知ることで共通言語ができやすい)。また、口腔内のことについて模式図など(図4、5)を用いて説明し、さらなる理解を深めていただいたうえで口腔内と身体の健康について考えていただき、良い人生が得られることが望まれます。皆さんなら、どのように伝えますか? 参考: 1.厚生労働省、平成 28 年歯科疾患実態調査 (https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html) 2020年9月1日アクセス 2.日本複合材料学会[編].おもしろい複合材料のはなし.日刊工業新聞社,1997. 3.コミュニケーション・サポート・ツール「メドバイザーデンタル」: https://www.dental-plaza.com/article/medvisor_g3/feature/index.html (2020年9月1日アクセス)
著者本村一朗
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 助教
略歴
- 1991年、昭和大学歯学部卒業
- 1995年、同大学大学院修了
- 1995年~2004年、東京医科歯科大学 歯科生体材料学分野 助手
- 2004年~東京医科歯科大学高齢者歯科学分野 助教
- 大学院生時代補綴科に所属後、基礎系(歯科生体材料学分野)を経て、
- 現在の高齢者歯科学分野(有病者高齢者への歯科治療を行うスペシャルケア外来1)に所属。
- 研究は工学部などとの連携による開発研究が主。