2020年7月といえば、世界各国より多くの方々をお迎えして東京オリンピックで賑わっているはずでした。しかしながら周囲を見回してみると、目に見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威に世界中で対応を迫られているのが現状です。 日本の歯科業界においても、これまでに(1990年代バブル崩壊、2000年代リーマンショックなど)直面したことのない危機に遭遇していることは明白で、これまで当たり前におこなってきたことができないというジレンマに陥っている関係者も多いことと察します。コロナ禍における現状で、さまざまなメディアで取り上げられたエアロゾルによる感染リスクが高い場所の中に歯科治療が取り上げられたため、ただ漠然と歯科治療を受けるといっても患者さんにとっては多くの不安を抱えるだけとなり受診を控えられています。2020年7月2日現在、東京都でCOVID-19陽性者が5月以来100人を超える状況下ではなおさらです。医療の分野ではCOVID-19に対するワクチン開発を含め、一丸となった対策を模索しています。歯科医療においてもさまざまな変化が求められ、インフルエンザと同様な「with コロナ」の時代に対応していく必要があります。対応・変化すると言っても感染症対策に関するベーシックな部分をきちんと押さえたうえ、これまでの画一的な対策を講じるだけでなくコスト面を考慮した患者さんの治療場面に分けていくことを考える必要性も生じています。 そこで、第1回は「with コロナで皆さんはどう変わりたい?」をテーマに考えてみたいと思います。 最近、ある歯科関連業者の方とお話ししたのですが「ある先生のところでは国民健康保険診療をメインにやっていて、『新型コロナの影響で患者さんの受診率が下がって経営が苦しい。』と言っていた。でもほかの先生のところでは『患者さんが少なくなった今だからこそできることがある!』と、使用歯科機材の拡充と歯科材料の見直しで、今まで購入していた安い商品よりも安定した治療効果が望めるものに変更していましたね」と。 前者の先生のように患者さんの来院数が見込まれないのであれば、後者の先生のようにできるのは望ましいのですが、歯科医院や病院の方針を変えていくのは容易ではありません。そこでまずは、見えない現状を「見える化」することから始めてみるのが良いようです。 課題解決のため、「見える化」するためにアイデアを練るためには、「制限なくアイデアを発想する」、「アイデアを形にしてみる」、「アイデアの評価と選択」が必要になります。はじめとしては、「制限を設けずに発想する」ことが求められます。いろいろな手法があるので自分の目的に合った方法を選んでいただくと良いと思います。私の場合は、20年以上使い慣れた「マンダラート」を活用しています。ご存じの方もいるかと思いますが「マンダラート」とは仏教に登場する曼荼羅(マンダラ)模様に由来するもので、曼荼羅とアートを組み合わせた造語です。曼荼羅とは、仏教(密教)の世界観を、視覚的にわかるよう表した絵画のことです。マンダは「本質」、ラは「満たす」「成熟させる」「持つ」という意味があります。 「マンダラート」はマス目状のフレームの中心にテーマを設定し、そこから連想されるアイデアやキーワードを、周辺のマスへと書いていく手法です。マス目を用意することで強制的に一定量のアイデアを出力できることがメリットです。視覚的に書き出すことでより柔軟な発想を行うためのツールとなります。 海外で活躍するメジャーリーガー、大谷翔平選手が高校生の時に使った「目標達成表(マンダラート」を実践していたことはマスコミなどに取り上げられています。高校一年生の時に夢に向けて作った「目標達成表」で、中心として8つの要素が選び出されています。ドラフトで1位を多くの球団に指名してもらうために、その目標を中心として8つの要素を選出。それぞれの項目を達成するために求められるものを周囲のマスに書き込む。このようにして、どのようにすれば夢を叶えられるのか、72のやるべきことが達成目標として具体化していきます。 それでは次に「with コロナ」における目標管理を「マンダラート」で見ていきます。ここでは「with コロナ」を中心に置き、考えていく環境を周囲に配置しています。このあとさらに周囲へ配置された環境を中心としたマス目を展開していきます。最初からすべてを埋める必要はありません(ここでもすべてを埋めていません)。まずは書き出してみて、眺めて他に思いついたものがあれば置き換えてみます。時間とともに変化していくことは現状が変わることと一緒で特には問題ではありません。 皆さんならどのように埋めていきますか?書くことで何か閃けばきっと何かが変わるはずです。 参考書籍ほか 1.『ビジネスフレームワーク図鑑 すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70』 株式会社アンド、翔泳社.2018. 2.『マンダラMEMO学 Mandal-Art 脳のOSを創る』 今泉浩晃、オーエス出版社.1998. 3.『花巻東リポート第2回 大谷を怪物にした花巻東高校の「目標達成用紙」』https://newspicks.com/news/893396/
著者本村一朗
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 助教
略歴
- 1991年、昭和大学歯学部卒業
- 1995年、同大学大学院修了
- 1995年~2004年、東京医科歯科大学 歯科生体材料学分野 助手
- 2004年~東京医科歯科大学高齢者歯科学分野 助教
- 大学院生時代補綴科に所属後、基礎系(歯科生体材料学分野)を経て、
- 現在の高齢者歯科学分野(有病者高齢者への歯科治療を行うスペシャルケア外来1)に所属。
- 研究は工学部などとの連携による開発研究が主。