Dental Life Design

あなたのデンタルライフを彩るメディア

診療室の片隅でのつぶやき第3回:
患者さんの多様性を考える

2020/7/29 デンタル〇〇デザイン

2020年7月現在、私が所属している診療科(スペシャルケア外来第1診療室)の患者さんの多くは65歳以上の有病者(心疾患、循環器疾患など)です。それらの患者さんに対して、全身状態の医学的管理を施し、歯科保存領域、歯科補綴領域、口腔外科領域の包括的歯科診療を行います。症例によっては他の診療外来・治療部、医科診療科の協力を仰ぎながら治療を行っています。また周術期の口腔内診査、口腔ケア、抜歯など必要な処置なども行っています。

実際、ヒトは加齢により身体に何らかの不具合が生じてくる可能性が高くなってきます。もちろんそれはこれまでの歩んでこられた人生での蓄積であったり、もって生まれた要因であったりとさまざまです。そのような患者さんの現在を理解するためにはどうしたらよいのでしょう。そのあたりについては、環境である時代背景なども考慮するようにしています。たとえば厚生労働省が公表している「我が国の人口動態」をみてみます(最新版は平成28年調査、平成30年報告)。私はその中の人口年齢構造ピラミッドに、大雑把ですが日本国内に影響を与えた出来事を赤字で追記してチェックしています。実はそれが患者さんとの対話、これまで行われてきた治療やこれからの治療方針の立案に、思いがけず役立つことがあるからです(図1)。


図1 人口の年齢構造ピラミッド(平成28年度調査)と日本国内の出来事

口腔内の現状を作り上げてきたのはその人の人生そのものと言っても過言ではないでしょう。口腔内を観察すると、あれこれとこれまでの経過を想像してしまうのはきっと私だけではないと思います。咬合平面の乱れがあっても、そのまま補綴物が入っているなど状況はさまざま(ほとんどの場合は患者さんの都合でそのまま治療が終わっていたりすることが多いと考えられますが……)。その最たる例を図2に示します。

初診時のパノラマX線画像を見ると分かるように、多数の補綴物と咬合平面の乱れが認められます。口腔内画像(正面観)では、歯周病を安定させる前に補綴物を入れたのか、入れた後で隙が生じたのをリカバリーしようとしたのか、陶材焼付鋳造冠の間をコンポジットレジンで埋めてありました。年齢的に60代半ばの方でしたので今後のことも考慮し、徹底的なP処置と咬合平面修正と咬合安定に努めるような治療を行いました。


図2 患者さんの口腔内から、これまでの治療とこれからの治療を想像する

高齢者ではこのような患者さんは少なくありません。このことは平成28年歯科疾患実態調査にもデータで現れています。処置歯に占める充填歯・クラウンの割合を示したグラフでは、60歳代以上でクラウンやブリッジが50%を超えるのは、より歯科治療を受けている世代であるためと考えられます(図3)。また調査対象者の中で、一本でも歯が欠損している人がどのくらいの人数いるのかを現した喪失歯所有者率に歳おける年次推移のグラフでは、5歳ごとに区切ったそれぞれの群内で比較すると、平成5年と比べ平成28年のデータは下がっています。このことは喪失歯がない人が多くなってきていることを意味します。年齢が下がるとともにその傾向は顕著になります(図4)。歯は不具合を生じ、処置をして機能回復させたとしても、一度削るなどの行為で歯の寿命は短くなるといわれていますが、平成28年の時点で45歳以上の人たちは早い段階で歯科治療を受けてきたため、喪失歯所有率が多いことにつながっていると推察されます(歯科医師数や歯科医療の健康保険適応の時期などにも関連か)。


図3 処置歯に占める充填歯・クラウンの割合


図4 喪失歯所有者率の年次推移

先にも述べましたが、患者さんそれぞれがたどってきたライフサイクルの違いで、受けてきた歯科治療も違ってくる多様性が生じているのが現状です。もちろんその時その時でどの先生方もベストな治療をされてきたことでしょうし、これまでされていた治療は尊重します。超高齢社会と言われる現在、多くのリスクをもつ患者さんはこれまでに数多くの歯科治療を受けてきた世代でもあるため、しばらくはその対応に追われることが予想されます。そのためには患者さん個々人との対話にひと工夫が求められることでしょう。

その対話については次回に。


参考文献
1.厚生労働省.平成 28 年歯科疾患実態調査
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html)2020年7月28日アクセス
2.厚生労働省.平成30年我が国の人口動態
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/81-1a2.pdf)2020年7月28日アクセス