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脱水と経口補水液 その3

脱水と経口補水液 その3
脱水と経口補水液 その3
体内の水分量が減少すると、口渇中枢が刺激され水を欲する。
では、真水ばかりを飲み続けるとどうなるだろう?

(図1)

確かに、口渇は癒される。
しかし・・・である。
血漿などの細胞外液の水分量は増えるが、細胞内まで届かない。

(図2)

そこで細胞外液中のナトリウムイオン濃度が低下し、低ナトリウム血症に陥る。
すると全身倦怠感・吐き気や嘔吐が出現し、さらに低下すると意識障害から昏睡に陥る。
(注1)
(注1:血清ナトリウム濃度130mEq/L以下で、全身倦怠感・悪心・嘔吐・傾眠傾向が現れ、125mEq/Lを切ると意識障害や昏睡を引き起こす)
これが"水中毒"だ。
繰り返すが、細胞内への水分の供給には、ナトリウムイオンなどが不可欠である。

では、スポーツドリンクを飲み続けるとどうなるだろう?
さてスポーツドリンクの開発は、多量の発汗に対し電解質を補給するため、体液に近い組成の飲料を作り出すことから始まった。
しかし、それでは口当たりが悪く商品にならない。
そこで、塩分濃度を減らし砂糖などを加えた。

(図3)

そのためスポーツドリンクの組成には、明確な基準がない。
飲みやすさを追求するあまり、本来の目的から離れてしまったのである。

確かにスポーツドリンクは、口当たりがよい。
しかしその分、大量摂取の可能性がある。

(図4)

飲み続けると体内の水分量が増えるが、塩分濃度が低いため、水と同様に低ナトリウム血症となる。
(注2)
(注2:スポーツドリンクは、ナトリウム濃度が低いため、真水より低ナトリウム血症の発現は遅れる)
一方、糖分濃度が高いので高血糖状態となる。
すると血液の浸透圧が高まり、さらなる口渇の誘因となる。
スポーツドリンクの過剰摂取は、悪循環を引き起こしやすいのだ。

また高齢者は、耐糖能が低下しているので高血糖が持続する。
そのため、意識障害や昏睡などの可能性もあり、飲み過ぎには注意が必要となる。
いずれにせよ、スポーツドリンクだけでは、脱水は改善しないことがわかる。

さて9月に入っても暑い日が続く。
運動会のシーズンになると脱水や熱中症が心配だ。
予防のために、スポーツドリンクを推奨する学校が多い。
しかし、過剰摂取はトラブルの原因となりえる。
歯科医師も、この点についての理解を深めておく必要である。

ではスポーツ選手は、どのような対策を講じているのだろう?


続く

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著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
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岡崎 好秀

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