体内の水分量が減少すると、口渇中枢が刺激され水を欲する。 では、真水ばかりを飲み続けるとどうなるだろう? (図1) 確かに、口渇は癒される。 しかし・・・である。 血漿などの細胞外液の水分量は増えるが、細胞内まで届かない。 (図2) そこで細胞外液中のナトリウムイオン濃度が低下し、低ナトリウム血症に陥る。 すると全身倦怠感・吐き気や嘔吐が出現し、さらに低下すると意識障害から昏睡に陥る。 (注1) (注1:血清ナトリウム濃度130mEq/L以下で、全身倦怠感・悪心・嘔吐・傾眠傾向が現れ、125mEq/Lを切ると意識障害や昏睡を引き起こす) これが"水中毒"だ。 繰り返すが、細胞内への水分の供給には、ナトリウムイオンなどが不可欠である。 では、スポーツドリンクを飲み続けるとどうなるだろう? さてスポーツドリンクの開発は、多量の発汗に対し電解質を補給するため、体液に近い組成の飲料を作り出すことから始まった。 しかし、それでは口当たりが悪く商品にならない。 そこで、塩分濃度を減らし砂糖などを加えた。 (図3) そのためスポーツドリンクの組成には、明確な基準がない。 飲みやすさを追求するあまり、本来の目的から離れてしまったのである。 確かにスポーツドリンクは、口当たりがよい。 しかしその分、大量摂取の可能性がある。 (図4) 飲み続けると体内の水分量が増えるが、塩分濃度が低いため、水と同様に低ナトリウム血症となる。 (注2) (注2:スポーツドリンクは、ナトリウム濃度が低いため、真水より低ナトリウム血症の発現は遅れる) 一方、糖分濃度が高いので高血糖状態となる。 すると血液の浸透圧が高まり、さらなる口渇の誘因となる。 スポーツドリンクの過剰摂取は、悪循環を引き起こしやすいのだ。 また高齢者は、耐糖能が低下しているので高血糖が持続する。 そのため、意識障害や昏睡などの可能性もあり、飲み過ぎには注意が必要となる。 いずれにせよ、スポーツドリンクだけでは、脱水は改善しないことがわかる。 さて9月に入っても暑い日が続く。 運動会のシーズンになると脱水や熱中症が心配だ。 予防のために、スポーツドリンクを推奨する学校が多い。 しかし、過剰摂取はトラブルの原因となりえる。 歯科医師も、この点についての理解を深めておく必要である。 ではスポーツ選手は、どのような対策を講じているのだろう? 続く 関連記事 脱水と経口補水液 その1 脱水と経口補水液 その2 脱水と経口補水液 その3 脱水と経口補水液 その4 脱水と経口補水液 その5
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
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