表紙をみただけでこの本のすばらしさが読み取れる名著『イラストで学ぶエンドのバイオロジー』
タイトルの『エンドのバイオロジー』。今まで聞いたなかでもっともすばらしい響きの書である。
評者が歯科医師になって歯内療法にバイオロジーが必要不可欠であると知ったのは、故下川公一先生からの学びがはじめである。それまでは、できるだけ早く一生懸命拡大して、デンタルエックス線上に白い不透過像の物質をできる限り多く詰めることに歯内療法の意義と評価を見出していたが、なかなか結果がでないことによる悩みと、患者とのトラブルに対する弁解と神頼み、そして自身の未熟さを痛感していた時期であった。
歯内療法をバイオロジーの観点からとらえて治療し始めることで、いわゆる歯内療法の対象が物ではなく、生体の一部としての医療行為を行うことで、よい結果を得ることができるようになり、自ずと患者との信頼関係が向上し、今では大好きな診療科目の1つとなっている。
しかしながら、生体の反応を理解するために基礎医学を一から再度学び、かつ臨床との兼ね合いを理解しながら歯内療法を行うことは決して容易なことではなく、臨床家にとってはハードルの高い内容となってしまう。
そこでこの『イラストで学ぶ』の表題はその高いハードルを一気に下げてくれた。たくさんのイラストとわかりやすい説明が、目にみることのできない生体のメカニズムを誰でも理解しやすい内容に構成されている。推薦の言葉にある清島保教授の「手に取ってページをめくってみてください。イラストの多さと平易な解説文に引き込まれることと思います」がこの書の特徴をよく表している。
著者の吹譯景子先生が「はじめに」の部分に「生体とメッセージのキャッチボール」が必要だと記している。まさしく故下川公一先生の「診断なくして治療なし」の格言を実践している先生の思いがここに表れている。すなわち病因と病態がわからないまま闇雲に根管内を触って、患者が痛くないというまで拡大と貼薬を繰り返すのではなく、生体が今どういう状態なのか、どうしてほしいと思っているのか、何をしてあげれば生体が喜ぶのかを考えながらこの書籍を読み解いていくとよりいっそう理解が増すことであろう。
また、この本のすばらしいところは「第7章 噛みくだいて患者さんに伝えよう」である。学術書としてだけではなく、歯科医師やスタッフだけでなく、患者にもわかってもらえるような配慮が至るところにみられることである。当医院でもスタッフに大好評である。
今回、書籍の内容は総じて根尖性歯周組織炎に対する診断から治癒までの必要なバイオロジーの知識をわかりやすく紹介してくれた。このお陰で多くの歯科医師が敬遠しがちであった歯内療法が楽しくやりがいのある診療科目の1つになることは間違いないだろう。この書が普及することにより1本でも多くの歯が助かることを期待したい。
評者:元 永三
(福岡県・ゲン歯科クリニック)
吹譯景子・著
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:5,000円(税別)・88頁
科学的根拠をもってより安全にインプラント治療を遂行できるようになる『正しい臨床決断をするためのエビデンス・ベースト・インプラントロジー』
小田師巳先生とは縁あってコースや学会のシンポジウムなどでご一緒させていただく機会が何度かあった。自身の臨床をつぶさに観察・分析し、問題があれば原因を追及して解決法を発見していく姿勢に一臨床家として共感している。また、彼から園山 亘先生がどれだけ聡明な先生であるかも聞き及んでいた。
本書の特徴は、読者が日常臨床で頻繁に遭遇するであろう症例に対し、「科学的根拠をもってより安全にインプラント治療を遂行できるようになる」という目的が一貫していることである。1章の「下顎臼歯部に対するインプラント治療」や3章の「インプラント-アバットメントの接合様式」においては、インプラント治療によって機能回復をより安全・効果的に実現するために必要な情報がコンパクトにわかりやすくまとめられている。2章「上顎洞底挙上術をともなうインプラント治療」では、治療計画を立案するうえで知りたいことを、自身の観察研究の結果も含めすべてのエビデンスを調べ上げようとする意気込みが感じられる。6章で扱うリッジプリザベーションは、臨床家のなかでもその是非が大きく分かれるところであり、単純そうにみえて実は奥が深い分野である。ここでも多くの文献を基にわかりやすく解説されており、本章を読めば科学的根拠をもって"正しい臨床決断"ができるようになるだろう。余談となるが、現在進行中と聞いているチタンメンブレンを応用したオープンバリアメンブレンテクニックの研究結果も楽しみにしている。
4章の審美領域および5章のGBRをテーマにした章では、インプラントのポジショニングや処置のタイミング、硬・軟組織のマネジメントについて解説されている。骨増生に関して術式とマテリアルの選択となる根拠が提示され、吸収性メンブレンを応用していかに安全に外側性の骨増生を行うかが検討されている。軟組織マネジメントにおいても増生された組織に対して組織学的な検討が加えられ、どのような効果があるのかが一目瞭然である。
7および8章の硬・軟組織マネジメントにおける合併症をテーマとする章においては、自らが経験した合併症とその解決のための努力が、実に全体の1/4のボリュームをさいて記されている。自分たちの苦い経験と反省を詳らかにすることによって少しでも読者の、ひいては医院を訪れる患者の利益を最優先していることがわかる。歯科治療は基本的に外科処置であり、知識と技術が要求されるため、論文だけを解説しても本書の目的は達成されない。著者の2人に敬意を表したい。
Covid-19が拡大して在宅時間が多くなった今、インプラント治療の実践にあたって不可欠な情報、有益なデータを本書から学びとる絶好の機会である。この災難が終息した暁には、両先生と夜の街の接待をともなわない店でインプラント治療について心ゆくまで語りあいたい、そう思わせてくれる1冊である。
評者:石川知弘
(静岡県・石川歯科)
小田師巳/園山 亘・著
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:12,000円(税別)・200頁
小児歯科の明るい展望をもたせてくれた1冊『子どもたちが上手に噛める・食べられる・呼吸できるようになる本「食」を軸にした乳幼児期からの口腔成育の実践』
本書は、小児歯科医院の成長の記録である。「乳幼児期からの生活習慣病予防」に向けた、包括的予防管理のための歯科医院を展開している著者。その著者が20年前、2台のユニットで開設し、その後第2診療室、第3診療室、キッズパーク、そして保育園の併設に至った小児歯科医院の成長の軌跡が描かれている。
本書は、医療管理の本である。歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、歯並びコーディネーター、保育士、歯科助手を抱える大規模組織を運営するための、経営のTipsがたくさん盛り込まれている。
本書は、ヘルスプロモーションの実践集である。本書から思い起こしたのが、WHOから出された「オタワ憲章」と「食事と身体活動、健康についての世界戦略」である。前者は1986年に出されたすべての人の健康づくり(ヘルスプロモーション)のための憲章で、後者は2004年に出されたガイドラインである。小児の健康は、小児と保護者だけでは達成できない。個人の行動を手助けする社会環境要因こそが重要である。
ヘルスプロモーションの特徴をいくつか挙げると、①健康上の課題の解決ではなく、Quality of Lifeの向上にゴールを設定すること、②主役は住民であり、そのライフスタイルに着目する必要があること、③本人に対する健康教育だけでなく、環境の整備にも視野を広げる必要があること、④生活のあらゆる場を健康づくりの場とすること、などであるが、本書にはヘルスプロモーションの実践例がいくつも書かれている。いくつか紹介をしておこう。●①診療内容は主としてう蝕治療、メインテナンス、矯正治療としているが、「栄養(食)指導」、「口腔衛生」、「咬合・姿勢」の3つの観点からその支援を行っている(=小児歯科の目標を疾患ではなく、小児の生活改善に置いている)。②食と姿勢などへの相談に取り組む「健康 噛ミング教室」に加えて、子どものメディア接触時間の長時間化の問題にも警鐘を鳴らしている(=現在の多くの子どもが置かれている環境の改善に取り組んでいる)。●③企業主導型保育園を医院に併設し、「斎藤公子メソッド」を取り入れ、子どもの全身の運動発育を支援している(=子どもの昼間の生活の場から、小児の健康づくりを通じて、口腔健康の質の向上をめざしている)。④助産院と連携して赤ちゃんの理想的な発育を促す育児支援を行う。また、母乳育児支援のために、おっぱいに優しいベジフルランチなどを提供している(=他の専門家との連携での具体的な食改善を実践している)。⑤糖尿病予防として、低糖質自販機の設置を展開していること(=医師との連携で、地域の生活環境そのものの改善に取り組んでいる)。
白秋の歯科医師に、小児歯科の明るい展望をもたせてくれた1冊である。ぜひ、多くの歯科医師および小児にかかわる人たちに本書を読んでもらい、それぞれの地域でヘルスプロモーションの実践に繋げてほしい。
評者:有田信一
(長崎県・ありた小児矯正歯科)
柿崎陽介・著
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:7,200円(税別)・148頁
「スタッフの本音を理解したマネージメント」の効果に納得する一冊『院長必読! 働きたい働き続けたい歯科医院 歯科衛生士のホントの気持ち』
人材不足やスタッフ育成に頭を悩ませることが多い現在、さまざまな求人対策やシステム構築を試みる医院も多い。その一方で、「今どきの子は理解し難い」とあきらめ混じりの声もよく耳にする。「万策尽きた」といった空気が漂う今、解決の一助となる一冊が出版された。
本書は、歯科医院の問題を本質的解決に導くための指南書である。著者の濵田先生は、歯科衛生士・歯科臨床コンサルタントとして全国の歯科医院において20年にわたり数多くの実績をあげており、本書のなかでは離職や雇用問題を改善するための、"スタッフが安心して働くことができる環境づくり"の重要性を述べている。また、スタッフのやりがいを生み出すマネージメントが、安定した歯科医院経営につながるとし、具体的な方法も詳述されている。
人材不足やスタッフ育成に悩む院長をはじめ、開業間近の先生、スタッフとのコミュニケーションを円滑に行いたい先生も必読の書である。
本書の魅力は、副題にもあるように『歯科衛生士のホントの気持ち』が包み隠さず述べられている点である。スタッフの本音を理解して行うマネージメントがいかに効果的か、読み進めることで納得できる。また、スタッフ雇用や評価制度の具体的な紹介もあり、すぐに実践できる点もうれしい。さらに、イラストや図解が非常にわかりやすいため、頭にスルリと入ってきて、楽しく読み進めることができるのもよい。
本書は「歯科衛生士の本音を知る、育てる、評価する」の3部構成である。第1部では、問題解決には相手の本音を知ることが大切であると痛感した。「あるある事例」を現状と照らし合わせることで、これまでうまくいかなかった原因が明確になる。また、「歯科衛生士が集まる採用」は、求人方法の見直しに役立つ。
育成のコツが示されている第2部では、「やる気がない」と決めつける前に、やりがいをもってもらえるような育成法が必要だと学ぶことができた。評者自身も「自分で考えて学べ」といった体育会系の教育を受けた経験から、つい同じ指導をして失敗に至った過去がある。自身の行いをかえりみる貴重な内容であった。
第3部では具体的な評価制度が紹介されている。単なる制度では、スタッフの不満や疲弊もともなうことがある。そのリスクを避け、互いに納得する制度づくりは、医院のアップデートに欠かせないと確信した。
コラムに掲載されている写真から、著者の穏やかな人柄と、凜とした姿をうかがうことができる。濵田流スタッフマネージメントの真髄は、個々を理解したうえで行う「人の魅力を引き出すこと」だと感じた。
本書の読後には、多くの気づきと解決の糸口がみつかるであろう。著者も最後にふれているが、新型コロナウイルスの蔓延により、ささいな価値観の違いによる "ほころび"が生まれつつある。大切なことが詰まっている本書は、今こそ医院の未来を拓くための鍵となるに違いない。
評者:柴原由美子
(長崎県・柴原歯科医院)
濵田智恵子・著
クインテッセンス出版
問合先 :03‐5842‐2272(営業部)
定価本体:5,000円(税別)・88頁