インフルエンザのシーズンが到来しました。今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延しているために、両者が相まって「ツインデミック」という大混乱が起きるのではないかと危惧されています。各国は例年よりも多くのインフルエンザワクチンを準備しているようです。日本も過去5年間で最大量の約6,300万人分が供給されているそうです。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou18/index_00011.html ところが、南半球で今年の冬が終わろうとしていた2020年9月7日のCNNニュースで、この冬にインフルエンザの罹患者数が歴史的に少なかったことが報告されました。2019年のインフルエンザ流行期(4~9月)には、オーストラリアで61,000人の罹患数だったのが、2020年のインフルエンザ流行期には107人だったのです。南アフリカ共和国も、チリも、アルゼンチンも同様の状況でした。ちょうどCOVID-19が流行し始めたことで、フィジカルディスタンシングなどの公衆衛生施策が徹底したこと、いつもより多くの人びとがインフルエンザワクチンを受けたことが関係しているだろうとのことです。 https://edition.cnn.com/2020/09/07/health/covid-flu-season-fall/index.html 2020年10月22日にオンライン先行で発表された医学雑誌「The Lancet」と「The Lancet Respiratory Medicine」にも、南半球での極端に少なかったインフルエンザ罹患者数についてコメントが掲載されました。下図は、 Hills T et al.(2020)のSupplementより改変したものです。2018年1月1日からのインフルエンザ感染者数の推移を示しています。赤丸が今年の冬を指しますが、ほとんど感染者数が認められません。 Influenza control during the COVID-19 pandemic Hills, Thomas et al. The Lancet https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32166-8/fulltext Double threat of COVID-19 and influenza Burki, Talha Khan The Lancet Respiratory Medicine https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30508-7/fulltext 日本でも、実は、これと同じような兆候が見られました。今年の2月にインフルエンザの流行が急に終息したのです。COVID-19が1月16日に日本に上陸して次第に大きな話題になり、手洗いやマスクの着用が徹底されたおかげだと考えられます。そして、厚生労働省の「インフルエンザの発生状況」の最新(2020年10月12日~10月18日)の報告数は20人で、昨年の同時期では約180倍の3,550人でした。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html これらを考慮すると、この冬、「ツインデミック」は避けられるのではないかと楽観的な気持ちになります。国境が封鎖されていることも、この楽観を後押ししてくれます。毎年南半球で流行したインフルエンザが、冬を迎える北半球にやってくるのですが、今年は南半球で流行がなかった上に、国境を超える人の行き来が極端に制限されています。 そして、日本でCOVID-19禍のために起こったプラスの社会的変化として挙げたいのが、風邪症状がある人が仕事場に行き辛くなったことです。以前は、咳が出ていても、少々発熱していても、出勤するのが普通でした。そして、この非科学的風潮のおかげで、密度の高い部屋で次々と感染が起き、全体の生産性が落ちたものでした。今年の2~5月ですら、62%の人が風邪症状がありながら出勤していたという調査結果がありますが、それでも、今、そんな人が外出してクラスターが発生しようものなら大事件ですから、以前よりずっと抑止力がきいているはずです。 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62312430V00C20A8CE0000/ 日本では、毎年インフルエンザで約1万人の人が亡くなっているそうです。これが、南半球の国々が体験したように限りなくゼロに近づくとしたら画期的な出来事で、今後のインフルエンザ対策に影響するでしょう。 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html
著者西 真紀子
NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー
略歴
- 1996年 大阪大学歯学部卒業
- 大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
- 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
- 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
- 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
- 2018年 同大学院修了 PhD 取得
- NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP):
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