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レーザーにより広がる
歯科治療の可能性
4種類のレーザー、
その違いと活用法

2020/12/4 臨床ライブラリ

歯科治療においてレーザーを活用するケースが増えてきました。その理由は大きく次の2点、レーザー治療がもたらすメリットに対する認知の高まりと、同治療の保険収載範囲の拡大です。今回はアカデミアの立場から、いち早くレーザー治療の活用について臨床研究を重ねてこられた東京医科歯科大学の青木章先生に、レーザーの原理や歯科治療における可能性などについて教えていただきました。

■レーザー、すなわち人工光を使った歯科治療

―そもそもレーザーとは、どのようなものなのでしょうか。

青木先生:レーザー(LASER:Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)とは、人工的に作られた光を意味します。自然光との大きな違いは次の3点です。第1の違いは波長が単一であること、第2は位相(波)が揃っていること、第3は収束性があるためどこまで行っても光がほとんど広がらないことです。これらの特徴により、弱い出力でも高いエネルギー密度を得られます。

―その高いエネルギー密度を利用して治療するのですね。

青木先生:レーザーを生体組織に照射したときの反応は、反射・吸収と透過・散乱の4つに分類されます。波長により反応は異なり、特に水への吸収度合いによって作用が大きく変わります。その違いを活用してさまざまな治療を行います。

―歯科治療で使われている4つのレーザーについて、波長や作用はどのように異なるのでしょうか。

青木先生:歯科用レーザーは、波長の長いものから炭酸ガスレーザー、Er(エルビウム):YAGレーザー、Nd(ネオジウム):YAGレーザー、半導体レーザーに分けられます。ちなみにYAGとは、Y:イットリウム、A:アルミニウム、G:ガーネットの結晶を意味します。
このうち炭酸ガスとEr:YAGは生体表面でエネルギーが吸収されてしまうタイプ、Nd:YAGと半導体は生体内部までエネルギーが透過するタイプです。Er:YAGレーザーや炭酸ガスレーザーの波長は水によく吸収されるため、組織表面でほぼ全エネルギーが吸収され、内部への透過は非常に少なくなります。一方で水に吸収されにくい半導体レーザーやNd:YAGレーザーは、内部まで光が容易に到達します。

 

―レーザーというと兵器=危険といったイメージがありますが……。

青木先生:確かにレーザーは兵器としても使われていますが、歯科治療で使うレーザーは高出力の兵器とは異なり低出力です。ただ低出力でもエネルギーを一点に集中させるので、組織を切削することができますが、傷害の発生する確率は極めて低く、安全です。

各レーザーの比較一覧

■4つのレーザーの特徴と応用範囲

―4つのレーザーはどのように使い分けられるのでしょうか。

青木先生:レーザー治療の対象となるのは基本的に軟組織ですが、Er:YAGレーザーだけは硬組織にも併用できます。軟組織に対する熱影響はレーザーによって異なり、炭酸ガス、Nd:YAG、半導体は切削時の止血効果を期待できます。この3つのレーザーを使って組織を切った場合は、熱凝固層や熱変性層が比較的分厚くできるため、ほぼ完璧に止血できるのです。そのためこれらのレーザーは歯肉組織だけでなく、口腔外科における腫瘍の除去などでもよく使われています。一方でEr:YAGは組織の熱変化が非常に少ないため、歯肉組織も効果的に切除できますが、止血効果はほかの3タイプに比べてやや劣ります。

―ほかにも各レーザーによる治療の向き・不向きなどがあれば教えてください。

青木先生:顎関節症の治療には、Nd:YAGや半導体など組織透過性の高いレーザーを使います。ただ、炭酸ガスやEr:YAGでも応用されている先生もおられ、照射距離を離して、非接触での低出力のディフォーカス照射を用いることにより、顎関節症の治療に効果が得られるようです。一方で炭酸ガスやEr:YAGは表面吸収型とはいえ、微弱な光がどこまで入っているのかまで完全に解明できているわけではありません。一般的に4つのレーザーの使い分けは下図に示すようになります。
※現在、Er:YAGレーザーには骨切削も含まれます。

各種レーザーの臨床上の適応範囲(文献1より)

―細胞にレーザー光を当てると賦活作用が起こると聞きました。

青木先生:細胞の増殖作用が多数報告されています。さらに炎症の抑制作用、石灰化(骨形成)の促進なども明らかになっています。こうしたレーザーならではの細胞/組織刺激作用を活用すれば、創傷治療の促進、上皮化の促進、再生治療を行った際の骨形成の促進などが期待されます。また、虫歯の治療法なども今後変わっていく可能性が出てきています。

■応用範囲の広いEr:YAGレーザー

―虫歯治療は硬組織が対象ですから、Er:YAGレーザーによる新しい治療の可能性があるわけですね。

青木先生:現状で齲蝕治療を行えるのは、Er:YAGレーザーなどのエルビウム系のレーザーだけです。Er:YAGレーザーは、注水により発熱を抑えながら組織に水分を補給し、小さく気化を起こして瞬時に微小に爆発させます。これにより組織が細かな破片となって飛び散り、硬組織を削るのです。

―軟組織に加えて硬組織にも使える、応用範囲の広さがEr:YAGレーザーの特徴といえるのでしょうか。

青木先生:歯周治療では歯石の除去などの根面のデブライドメントや、病的な組織の除去もできるのがEr:YAGレーザーの特徴です。歯周外科手術では、ほかの器具を使わず、Er:YAGレーザーだけで術野をすべてきれいにすることも可能です。齲蝕の治療はもとより、小帯切除など口腔外科的な処置もある程度できます。またインプラント周囲の治療についても、例えばNd:YAGレーザーではチタンが溶けるおそれがありますが、Er:YAGレーザーならチタン表面と周囲組織の掻爬のどちらにも使えるなど応用範囲の広さが特徴です。

―そして透過性が非常に小さいため安全性も比較的高いのですね。

青木先生:組織深部への影響を考慮する必要はほとんどありません。これがNd:YAGや半導体だと、仮に歯肉表面のメラニンを取っていても、その下にある骨膜や骨組織への影響を考えながら処置を行う必要があるなど、より経験が求められるといえます。

■新たな治療器具として確実に定着

―最新の研究で何か注目すべき成果があれば教えてください。

青木先生:まさにまだ研究段階ですが、Er:YAGレーザーで骨を削った後は、機械的な切削に比べ早期に良好に骨ができることが確認され、照射された骨組織が活性化して骨ができやすい状態になっていることがわかってきています。

―レーザー治療の臨床研究はかなり盛んに行われているのですか。

青木先生:学術講演会や論文発表などで臨床応用の報告自体は、それほど多く見かけないのですが、今後主要なトピックになっていくのではないでしょうか。歯周治療の領域でも、Er:YAGレーザーを併用した臨床研究は論文こそ多くは発表されていないものの実践はかなり進んでいます。アメリカ歯周病学会(AAP)でも、毎回必ずレーザーのセッションが入るようになり、歯周治療におけるレーザー応用の注目度は高まっていると思います。先日の日本歯周病学会のレーザー応用に関する認定医・専門医教育講演でも大きな反響がありました。

―レーザーが重要なツールとして認識されている証ですね。

青木先生:当初は単に軟組織を切って止血するツールだったのが、応用範囲が広がり、今はさまざまな効能を検証している段階といえるでしょう。なかでもエルビウム系のレーザーには、照射された歯周組織を活性化させる効果が最近の研究成果として出てきています。

―今後、ますますレーザーの導入が進みそうです。

青木先生:一気に広まるとは考えていませんが、新しい装置が出て機械が小型化されてより使いやすくなったり、コストが下がったりすればさらに普及していくでしょう。Er:YAGレーザーについては、当初歯周治療に使えるなどとは誰も考えていなかったわけです。ところが我々の教室で初めて歯石除去の可能性を発見し、さらに骨の切削実験から歯周外科治療における臨床応用へと実用化されていきました。さらにインプラント周囲の治療にも使えることが明らかになっています。さまざまなメリットのあるレーザー治療は今後、歯科治療の一つとして着実に定着し活用されていくでしょう。新たな波長が開発されたり、効果的な使い方が開発される可能性も高いと思います。

【参考文献】
文献1) 加藤純二・粟津邦男・篠木毅・守谷佳世子「臨床に使ってみよう」『一からわかるレーザー歯科治療』医歯薬出版、2003年、p.135

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