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歯病救急24時 ~休日夜間の急患対応から教えられたこと~第3回:救急隊からの「一生のお願い?」

歯病救急24時 ~休日夜間の急患対応から教えられたこと~第3回:救急隊からの「一生のお願い?」
歯病救急24時 ~休日夜間の急患対応から教えられたこと~第3回:救急隊からの「一生のお願い?」
夜になって、「転倒で若い女性の前歯が折れたのを受けてくれないか」という、救急隊からの電話が来ました。本人のバイタルも安定していて、付き添いの友人もいるといいます。一応、当院は救急病院ではないので、エックス線写真も撮れないからできる処置は応急処置のみで、後日診断後にやりなおしとなったりすることなどを説明するも、「それで問題ありません!」と即答でした。

受けない理由も特にないので、どのくらいかかるか聞いたところ、1時間半くらいかかるとのことで、びっくり!聞けば、東京に隣接する県から来ると言う話で、もっと近くの病院もあるでしょう?と聞いてみたら、「どこの病院も受けてくれなくて・・・」とのこと。きっと口腔外科のある病院がわからないのだろうと、そちら方面の口腔外科のある病院をいくつかあげてみるも、「そこは断られました」「そこも断られました」「そこも……」とのことで、結局、遠路はるばる来ていただくこととなりました。「ありがとうございます!なるべく早くうかがいます!」とのことで、救急隊の方も、呼ばれて乗せたら最後、どこかしらの医療機関に降ろさないといけないわけで、こりゃ大変だなあと思いました。

いらしてみたら、歯の脱臼と歯冠破折でしたので、病棟にあるワイヤーとスーパーボンドで固定しつつ歯冠修復をしました。

当院は比較的、酔った、倒れた、殴られた、が多いかなと思います。場所柄、学生や会社員が飲み過ぎたり口論になったり、駅で貧血になって倒れたりとか、そういう方が多くいらっしゃいます。かつて、東京ドームに日本ハム球団の本拠地だった時にはプロ野球選手も来ましたが、今でも、後楽園ホールを使っているレスラーとボクサーは定期的にいらっしゃいます。逆に、熊に襲われたとか、工場や農器具で怪我したとかは、あまりいらっしゃいません。

いちど、遠方からの出張だったか単身赴任だったかの方が、飲み過ぎてドロドロになって運ばれて来たことがありました。転倒したのか顎骨骨折をしており、そのまま入院して数日後に整復術をしました。会社の方とも相談し、いったん地元に戻って療養することとなりました。

経口摂取は可能となったので、食事指導をし、奥様にも電話をして説明しました。退院時には会社の方が迎えに来てくださり、どこかまで送って行ってくださいました。

翌日、奥様から電話が来て、「ふつうの食事が食べられない状態で退院させるとは何事だ!」と、怒り心頭でした。どうやら、退院前に電話したときに、僕が「柔らかい物や小さく刻んだものなら、口から食べられます」と表現したものを、奥様は「ふつうに食べられる」と受け取っていたようでした。僕たちにとっての経口摂取可能は「口から食べものを入れられて安全に飲むことができる」という意味ですが、一般の方にとっては「食べられない」という表現と近いことを知り、それ以来、特に食事に関しては、「ふつう」という表現は避けて、なるべく具体的に説明しています。

旦那さんが遠方で怪我して手術となり、戻って来るのを迎え入れる奥様もさぞかし心配されて不安だったのでしょう。もう少し配慮が必要でした。

著者中久木康一

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野非常勤講師

略歴
  • 1998年、東京医科歯科大学卒業。
  • 2002年、同大学院歯学研究科修了。
  • 以降、病院口腔外科や大学形成外科で研修。
  • 2009年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野助教
  • 2021年から現職。

学生時代に休学して渡米、大学院時代にはスリランカへ短期留学。
災害歯科保健の第一人者として全国各地での災害歯科研修会の講師を務める他、野宿生活者、
在日外国人や障がい者など「医療におけるマイノリティ」への支援をボランティアで行っている。
著書に『繋ぐ~災害歯科保健医療対応への執念(分担執筆)』(クインテッセンス出版刊)がある。

中久木康一

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