歯科医師として勤務を開始するまでに、全員が共通して臨床研修を受けます。
国家資格取得者は受け入れ先での研修を経た後に、正式な歯科医師としてデビューすることができます。
臨床研修の期間は1年以上で、実際の症例などを受け持つ重要な職場体験のため、研修先選びはこだわりたいところです。
今回は、歯科医師における研修制度の概要や、研修先の種類、選び方のポイントについて解説します。
歯科医師の研修制度とは
歯科医師には、6年間の歯科医師養成機関での教育を受けた後に、国家資格にチャレンジできます。
合格後は、臨床研修をクリアしてから歯科医師としての勤務スタートです。
臨床研修は必須条件であり、いずれの歯科医師も通る道です。
※臨床研修後、大学院に進学してから勤務することも可能
歯科医師臨床研修制度の概要
厚生労働省は、歯科医師の臨床研修制度を以下の通りに定めています。
・研修期間:1年以上
・対象者:歯科医師免許の取得者
・臨床研修の実施場所:大学病院または厚生労働省の指定する病院や診療所など
詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
歯科医師の研修先の種類
研修先は、主に次の4つから選ぶことができます。
①出身大学の附属病院
所属している大学の附属病院です。
出身大学で連携やコミュニケーションが取りやすく、環境変化も少ないために好まれる研修先であると言えるでしょう。
②出身大学以外の附属病院
直接的なつながりのない大学の附属病院です。
「専門分野の臨床実績が多い」や「憧れの歯科医師が在籍している」など、他にはない魅力で選ばれます。
③医学部附属病院
一般歯科ではなく、口腔外科の臨床研修を受けることとなります。
「口腔外科で働きたい」や「難しい症例に触れてみたい」といった理由で選ばれます。
④一般開業医
歯科医院ごとのカリキュラムで進めます。
「そのまま研修先へ就職したい」などの場合に選ばれます。
研修歯科医師の給料
臨床研修では、受け入れ先から毎月の給料を受け取ることができます。
研修歯科医師の給料(基本給)は、一般的に10万〜20万円が目安となります。
国立の大学病院や口腔外科の研修先を選ぶと、基本給は高くなるケースも多いです。
開業医の場合は、経営状況にも左右されますが、50万円〜数百万円といわれます。
(※研修歯科医師の給料についての公的な統計データはないため、あくまで参考としてください)
基本給以外に、能力を評価して給料にプラスする「能力給」や、患者さんの保険診療・自由診療から数%を給料にプラスする「歩合給」などを採り入れている研修先もあります。
賞与(ボーナス)を支給している研修先では、給料の数ヶ月分を上乗せしてくれます。
ただし、「賞与があるため、基本給を低く設定してある」あるいは「賞与の代わりに基本給を高く設定してある」といった研修先ごとに待遇は異なります。
そのほかには手当てとして、残業代を支払う「時間外手当」や、職場までの交通費を支払う「通勤手当」、研修中の家賃を補助する「住宅手当」などを設けている場合もあります。
こういった給料待遇は研修先ごとに異なるため、募集要項をチェックしてください。
ただし、研修期間中は他のアルバイトで働くことが禁じられているため(歯科医師法第16条の2)、研修の給料や貯金でやりくりしていく必要があることを理解しておきましょう。
参考までにいくつか研修先の待遇を紹介します。
<三井記念病院>
月給:235,200円
賞与:年2回(6月・12月)
寮:月額40,000円(独身のみ)
<太志グループ>
月給:250,000円
賞与:記載なし
家賃手当て:上限50,000円
<済生会西条病院>
月給:320,000円
賞与:年間300,000円
家賃手当て:あり
宿舎:月額15,000円
それぞれの研修先により待遇は異なるため、十分に検討すべきでしょう。
研修修了後の給料
研修を修了してからの進路では、どの程度の収入を受け取れるのかも、気になるところです。
厚生労働省の「平成29年度歯科医師臨床研修修了者アンケート」によると、進路先での月収は次の通りとなりました。
約半数が月収20万円以上となっており、5.9%は40万円以上の収入を得ていることが明らかになりました。
(引用:平成29年度歯科医師臨床研修修了者アンケート|厚生労働省)
歯科医師の研修先の選び方
前述の厚生労働省調査では、研修先を選ぶ理由は、次の通りとなりました。
上から「経験できる患者数が多い(51.4%)」、「症例内容が幅広い(41.6%)」、「卒業大学のプログラムである(40.1%)」が挙げられており、歯科学生は“経験”や“所属大学”を重視する傾向にあると考えられます。
(引用:平成29年度歯科医師臨床研修修了者アンケート|厚生労働省)
以下では、研修先別に詳しいポイントを解説します。
出身大学の附属病院
大学でもともとつながりのある同級生や先輩、後輩たちと一緒に研修生活を過ごすことができます。
切磋琢磨し合える仲間がいて、学生生活の延長で研修に臨めることは心強いでしょう。
一方で、経験できる症例数・種類が少なかったり、患者さんからの要望も限られているため、研修医が負う社会的責任が小さく、甘えようとするとそれができてしまう環境ともいえます。
たとえ周りの学友が楽に走ろうとも、自分の目標を見据えて努力し続ける意思が必要となるでしょう。
出身大学以外の附属病院
大学の附属病院という点では、研修内容にさほど差はありません。
「実家から通いたい」といった通勤条件や「大学とは関係ない施設で働きたい」といった人間関係、「病院の得意症例を学びたい」といった学習環境などを理由に選ばれるようです。
学校とは異なる環境でゼロから挑戦できますが、気軽に悩みを相談できる学友がおらず、孤独を感じる瞬間もあるでしょう。
医学部附属病院
大学病院に比べ、個人にスポットが当たるのが医学部附属病院の特徴です。
大学病院では100名単位で研修生を受け入れますが、医学部附属病院では指導医と研修医のマンツーマン指導が一般的。
厳しい指導医に担当してもらったり、同年代と関わりのない環境となれば、成長の機会にも恵まれるでしょう。
また、一般歯科ではなく口腔外科での研修となるため、『全身麻酔による口腔外科手術』に興味を持つ方におすすめです。
ただし、研修医がいきなり外科治療や全身管理を任せてもらえるわけではなく、診療介助や手術の見学に終始することがほとんどです。
一般開業医
一般開業医のもとでの研修では、経験できる症例数・種類が多く、患者さんからの要望も高くなるため、研修医が負う社会的責任は大きくなるでしょう。
「とにかく症例数を経験したい」「周りよりも早く成長したい」といった成長環境を求める方におすすめです。
一方で、歯科医院ごとの治療レベルや研修カリキュラムに差があるため、適性を見極める必要があるでしょう。
たとえば、研修医の治療レベルに関係なく即戦力として扱われたり、反対に一定水準の治療レベルに達していなければ治療に携われないといったケースがあります。
歯科医師の研修先マッチングについて
これまで研修生の公募では、「内定辞退での欠員や過剰採用などによって、医療機関側の人数調整対応に手間がかかる」、「いくつかの内定を受けた研修生が回答締め切り日の関係で第一希望の医療機関を選ぶことができない」といった問題点がありました。
そこで活用したいのが、『研修先マッチング』です。
研修先マッチングとは、一般財団法人歯科医療振興財団が運営する、研修希望者と受け入れ先の医療機関をマッチングする仕組みです。
研修生側は、採用試験を受けた病院に希望順位をつけて、登録します。
医療機関側は、受験生から採用者のみを成績順に登録します。
研修生と医療機関側の希望を踏まえ、アルゴリズムを活用してマッチングを決定します。
これにより、双方の希望に沿うことができ、医療機関側は過不足なく研修生を確保できるシステムです。
令和2年には、3,853名の研修希望者が参加し、2,919名(約8割)がマッチングに成功しました。
受け入れ先の医療機関の内訳は、大学病院が35施設、それ以外が277施設でした。
参加条件は、次の通りです。
・研修希望者:翌年の国家資格受験者および既卒者
※これまでに臨床研修中の中断、研修先マッチングで参加を拒否した者は除く
・参加医療機関:厚生労働省からの指定を受けた臨床研修病院や大学病院
研修先マッチングを活用し、希望の研修先を見つけても良いでしょう。
自分のキャリアに合う研修先を選ぼう!
歯科医師における研修制度の概要や研修先の種類、選び方のポイントについてご理解いただけたでしょうか。
国家資格の取得に注力してきた学生時代とは違い、臨床研修を卒業すると基本的には社会人の仲間入りです。
研修先は「友達が行くから自分も行く」といった安直な発想ではなく、自分のキャリアの希望に応じた施設を選びましょう。
これをきっかけに将来のキャリアについて、考えてみてはいかがでしょうか。