歯科医院において、歯科助手の存在は非常に重要です。歯科医師や歯科衛生士などが治療行為に集中して取り組むことができる理由は、そのほかの雑務を歯科助手がこなしているからであるともいえます。近年は、歯科助手がより効率的に業務に取り組めるように仕事のマニュアルを作る必要性に注目が集まっています。ここでは、歯科助手の業務マニュアルの重要なポイントをご紹介します。
1.歯科助手の仕事とマニュアルの内容
歯科医院では、医療行為に従事する歯科医師や歯科衛生士とは別に、広範囲のさまざまな業務を行う歯科助手が働いています。 歯科助手の仕事は、受付から歯科医師のサポート、診療後の清掃など多岐に渡ります。明確な領域がなく、歯科医院によって仕事の内容が異なるのが実情です。歯科助手は、歯科医師や歯科衛生士のような国家資格を取得しなくてもなれるため、歯科助手の採用では能力に差がある人材が集まりやすい傾向があります。 安定した歯科医院経営を行う上で、業務に関する一定の知識やスキルを身につけた歯科助手の存在は欠かせません。特に、就職したばかりの新人の歯科助手であればわからない点も多いです。そのような歯科助手を育てるために、歯科助手の日々の仕事の指針となるような、詳しくわかりやすいマニュアルを用意する必要があるでしょう。
1-1.歯科助手の仕事
「歯科医院を辞める歯科助手への有効な対策とは?業務や理由と共に考察」でも紹介したとおり、歯科助手の仕事は多岐に渡ります。歯科医師のサポートだけでなく、病院経営にとって欠かせない重要な役割を担っているケースが多いという特徴があります。マニュアルの内容を紹介する前に、まずは歯科助手の仕事内容をおさらいしておきましょう。
<受付業務>
歯科助手は、診察を受けに来た患者に対応する受付業務を行います。来院した患者の健康保険証を確認して診察券を発行し、診察室へ案内します。さらに電話やメールでの問い合わせに対応する業務もあり、歯科医院の顔として明るく前向きな姿勢で仕事に取り組むことが求められます。
<会計業務>
診療を終えた患者に対し、診察料金を計算して請求する会計業務を行います。また、レセプトと呼ばれる診療報酬明細書を作成する業務も行います。業務が滞ることがないように、迅速かつ正確に対応することが求められます。
<予約業務>
新規の患者の問い合わせに対応し、予約の受付を行います。また、診察が終わった患者の会計を行なった後に、次の診察日の予約の受付を行います。歯科医院の診察が円滑に行われるように、効率よく予約の受付や調整を行わなければなりません。現在は、ほとんどの歯科医院が予約の受付にパソコンを使用しています。したがって歯科助手は、基本的なパソコンの打ち込み作業ができる必要があります。
<治療器具の管理>
歯科医院で使用する器具を管理します。一度治療に使った器具は歯科助手が丁寧に洗浄し、滅菌消毒を行います。治療器具が揃わなければまともなり治療を行うことはできません。在庫がなくならないように適宜個数管理を行い、収納場所へと収めます。
<院内の清掃>
朝出勤したら、歯科医院の中や周辺を清掃します。患者に気持ちよく来院してもらえるよう、清潔な空間作りを行います。またすべての診療が終わった後にも、1日の診察で散らかったゴミを収集し、院内を清掃します。
<サポート業務>
一般的に、個人経営の歯科医院は少人数の従業員で日々の業務を行なっているため、歯科助手も診療のサポート業務を行うケースがあります。患者を診察台に誘導してエプロンをつけ、口をゆすぐ指示をだし、歯科医師が来るのを待つよう対応します。さらに、歯科医師がすぐに診察できるように器具や椅子のセッティングを行い、治療の際は歯科医師に器具を手渡しします。歯科医院では、医療行為以外のさまざまな業務を歯科助手が担っているのです。
1-2.マニュアルの具体的内容
歯科助手のマニュアルには、以下のような項目を載せましょう。 ・器具や機材の名称 ・器具や機材の使い方 ・治療の流れ ・歯科用語の意味 ・滅菌や消毒の方法 ・薬液や材料の使用方法 ・電話対応の仕方 ・予約の受付方法 ・治療別の治療時間や期間の目安 ・会計方法 ・カルテ発行方法
2.歯科助手マニュアル作成のポイント
マニュアルに記載する内容は多岐に渡り、業務に関するすべての内容をマニュアルで網羅すると膨大な量となります。マニュアル作りは重要なポイントを押さえてシンプルに作ることが大切です。 ここでは、歯科助手の業務に関するマニュアルを作る際のポイントをいくつかご紹介します。
2-1.わかりやすい内容
マニュアル作成の際にまず心がけるべきことは、できる限りわかりやすく作ることです。特に歯科助手は、事前に専門学校などで歯科医療に関する知識を学んでいるわけではありません。歯科業界に関する知識がほとんどない方が歯科助手になるケースもあることから、素人目線で作成するとよいでしょう。また、文章ばかりだとわかりにくい内容もあるため注意が必要です。できるだけイラストや写真を用いて、視覚的な工夫をしながら作成することがポイントです。
2-2.定期的な更新
いきなり完璧なマニュアルを作るのではなく、時間をかけて徐々に作りあげることが大切です。歯科医院の成長とともにマニュアルの内容も定期的に更新し、数年かけて作っていくことをおすすめします。実際に活用していく中で、新人歯科医師の意見も取り入れつつ、ブラッシュアップしていきましょう。
3.歯科助手マニュアルの作成メリット
多くの歯科医院は、歯科助手の仕事に関するマニュアルを作成していないのが現状です。確かに、マニュアルを作成すること自体に手間がかかり、普段忙しく業務に取り組んでいる中でマニュアル作成の時間を捻出することは困難だといえるでしょう。しかし、歯科助手の仕事に関するマニュアルを作成することでさまざまなメリットが生じます。最後に、マニュアル作成によって得られるメリットをお伝えします。
3-1.業務の質の向上
仕事の内容ややり方を記載したマニュアルがあることで、歯科助手は仕事の指針をもつことができます。業務上よくわからなかった場合やどうすればいいのか迷った場合に、マニュアルを見ることで解決できます。そのため、曖昧な判断によるミスを減らすことができるだけでなく、他のスタッフに教えてもらうことなく、効率的に不明点を解決することができます。また、マニュアルを繰り返し見ることでいつの間にかその内容を身につけることができるため、歯科助手としての仕事の質を向上させる効果があります。
3-2.スキルの均一化
歯科医院に訪れる患者にとって、対応してくれる歯科助手が新人なのかベテランなのかは関係ありません。どんな歯科助手であっても、自分が求めたことに対して適切に対応してもらいたいのが患者側の本音といえるでしょう。マニュアルがあれば歯科助手のスキルの個人差をできるだけなくし、全員が一定レベル以上のスキルをもつことができるメリットがあります。また、歯科助手はほとんどが女性であるため、結婚・出産などのライフイベントを理由に離職する方も多く、新人歯科助手を採用する機会が多いです。新しいスタッフを雇用する際に、マニュアルが用意されていれば、教育の手間を少なくすることが可能です。
3-3.評価の基準決定
マニュアルは、スタッフの業務を公平に評価するための基準とすることができます。マニュアルを作り、基準に基づいてスタッフのスキルを客観的に評価することで、歯科助手同士の不公平感をなくす効果もあります。特に個人経営の歯科医院の場合、昇給や賞与が決められる際に、「院長の感覚で決められているのでは」「えこひいきしているのでは」などと不満を感じる歯科助手も存在します。マニュアルがあれば、歯科助手の仕事の習熟度を公平に判定でき、昇給や賞与の決定基準を求められたときに提示することができます。
まとめ
歯科助手がスムーズに仕事に取り組める環境を作るためにも、業務に関するマニュアル作りは大切です。しかしあまりに細かく作り込みすぎると、教科書のようになってしまい、せっかくのマニュアルが効果を発揮しない可能性もあります。マニュアルを作る際は、常に新人の目線を意識しながら、わかりやすさやシンプルさを心がけるといいでしょう。マニュアルを読めば歯科医院の経営方針がきちんと伝わるように、時間をかけて作りあげることをおすすめします。