高齢者への歯科医療においては、気をつけることが多いです。
加齢による身体機能・口腔機能の低下により、他の世代には見られない口腔内の病気に罹患することもあり得ます。
本記事では、高齢者歯科医療・口腔ケアについて特徴や関連する口腔トラブルについて解説します。
高齢者歯科医療や高齢者口腔ケアとは
歯科治療を要する高齢者は急増しています。
2000年4月末では、要介護認定を受けている人口は218万人でした。
しかし2019年4月末の時点では、632万人。わずか19年で約3倍になっています。
【引用】介護分野をめぐる状況について-p.4|厚生労働省
歯科への通院が難しい要介護者が増加したことにより、訪問歯科診療の必要性が高まりました。
訪問歯科診療について
訪問歯科診療とは、歯科医師や歯科衛生士が高齢者の自宅へ訪問する診療方法です。
昭和63年に「常時寝たきり又はこれに準じる状態の患者さん」に対する「歯科訪問診診療」が新設され、訪問診療ができるようになりました。
【参考】在宅歯科医療について|厚生労働省
日本では高齢化が今後も進むと懸念されており、訪問診療のニーズはさらに高まっていくでしょう。
高齢者の口腔環境の特徴
次に、高齢者の口腔環境の特徴について解説します。
高齢者の口腔環境は、若年層とは違った特徴があります。
例えば、
・歯:すり減り短くなる、もろくなる
・歯ぐき:やせて歯とのすきまが空く、食物がつまりやすくなる、義歯の安定感が悪くなる
・唇:弾力性がなくなる、口を開けにくくなる、荒れやすくなる
などが挙げられます。
また、加齢により身体機能が低下するため、さまざまな症状が見られます。
ここでは、高齢者の口腔環境にどのような症状が見られるか解説します。
自浄作用や唾液分泌の低下
加齢が進むと、自浄作用や唾液分泌が低下します。
自浄作用とは、舌や粘膜についた細菌を唾液で洗い流し、口の中を清潔に保つ機能です。
加齢により唾液の分泌量が減少するため、自浄作用が弱くなります。
自浄作用が弱くなることで、食べたものが口の中の残りやすくなり、病気の原因となることもあるでしょう。
被せ物や詰め物
高齢者には、被せ物や詰め物が多くみられます。
自浄作用の低下により口腔環境が悪化することが原因のひとつです。
たとえば、自浄作用の低下で食物残渣が口腔内に残り、齲蝕・歯周病にかかりやすくなります。
そのため、歯の治療を重ねることが多くなり、被せ物や詰め物が多く見られるようになります。
高齢者に起こりうる口腔トラブルや関連する病気
このような高齢者の口腔環境から起こりうる、口腔環境のトラブルや病気について解説します。
口腔機能低下症
ささいな口の衰えを「オーラルフレイル」と呼びますが、これが進行すると「口腔機能低下症」と呼ばれる疾患となります。
口腔機能低下症には、次の症状が見られます。
・口の中が汚れる(口腔不潔)
・口の中が乾く(口腔乾燥)
・食べ物が口に残るようになる(咬合力低下)
・滑舌が悪くなった、食べこぼすようになる(舌口唇運動低下)
・薬を飲みにくくなる(低舌圧)
・硬いものが食べにくくなる(咀嚼機能低下)
・食事の時にむせるようになる(嚥下機能低下)
このような状態が続くと、う蝕や歯周病につながる恐れがあります。
咀嚼障害や摂食・嚥下障害
「ものを食べる」ことは、「食べ物を口に入れて、噛み、飲み込む」という動作によっておこなわれます。
このうち「飲み込む」動作に障害が起きている状態を「嚥下障害」と呼びます。
嚥下障害には、以下の症状が現れます。
・食事中にむせる
味噌汁やお茶などの水分を飲むときに、むせることが多くなります。
飲食物だけではなく、自身の唾液でも咳き込むこともあります。
・固形物を噛んで飲み込めなくなる
硬い食べ物はよく噛まないと飲み込めないため、噛まずに食べられる麺類などを好むようになります。
食べるものが偏ると、栄養が偏ってしまいます。
・最後まで食べきれない
時間をかけて咀嚼を行うため、食事に時間がかかるようになります。
食べることに疲れてしまい、食事を食べきれないこともあるでしょう。
ドライマウス(口腔乾燥症)
ドライマウスとは、慢性的な口の渇きを訴える症状です。
ドライマウス自体は病名ではありませんが、「唾液が出にくい」「口が乾いている」と自覚する症状のことを指します。
原因としては加齢や薬剤の影響、糖尿病、ストレスなどが挙げられます。
ドライマウスの症状は次のとおりです。
・口が乾く
・口臭が気になる
・しゃべりづらいくなる
・食べ物が飲み込みにくくなる
・味覚がわからなくなる
・醤油や酸味などがしみる
・よく水を飲む
・夜間に水を飲むために起きる など
口臭や歯槽膿漏、う蝕などの病気の原因となります。
睡眠時無呼吸症
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。
「睡眠中、呼吸が10秒以上止まる」「1時間あたり5回以上の無呼吸、もしくは呼吸が弱くなる低呼吸が発生している」場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
症状は次のとおりです。
・寝ている間に激しいいびきを伴う
・日中も眠気を感じ集中力が低下する
・起床時に疲れが取れていない など
歯科医院でできる治療として、オーラル・アプライアンスがあります。
オーラル・アプライアンスとは、下顎を上顎よりも前方に出るようにマウスピースで固定し、いびきや無呼吸を改善していく治療方法です。
誤嚥性肺炎(老人性肺炎)
誤嚥性肺炎とは、病原性細菌を誤嚥することで発症する肺炎です。
食べ物を飲むことを「嚥下」といい、嚥下時に口腔内の異物や雑菌が肺に入り込むことを「誤嚥」といいます。
異物を吐き出す気管支の機能が低下しているため、高齢者は病原性細菌を誤嚥しやすくなっているのです。
誤嚥性肺炎を防ぐには、口腔ケアが有効です。
口腔ケアで病原性細菌を防いでいれば、食べ物を飲み込んでも病原性細菌が肺に入る可能性が低くなります。
認知症
認知症は「物忘れ」や「徘徊」をはじめ、生活に様々な支障がでている状態をさします。
認知症は正式な病名ではなく、まだ病名が決まっていない“症候群”です。
つまり医学的には、まだ診断が決められず、原因もはっきりしていません。
しかし口腔ケアを行うことで、認知症のリスクが1.9倍下がることがわかっています。
愛知県の65歳以上の高齢者を対象に、2003年から4年間かけておこなった調査で明らかになりました。
この調査では、自分の歯が20本以上残っている人と、歯がなく入れ歯も使用していない高齢者では、認知症リスクが1.9倍の差があることがわかりました。
【引用】8020現在歯数と健康寿命|テーマパーク8020
まとめ
今回は高齢者の口腔環境について解説しました。
カラダの機能が衰えることにより、口腔機能の低下や自浄作用の低下が起こります。
また、口腔トラブルに関連した病気も併発しする恐れがあります。
高齢者に特有の症状を理解して、適切な治療を行うことはとても大切です。
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