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超高齢時代に役立つ 歯科に必要な全身疾患の基礎知識―病気をもった患者さんが歯科医院に来たらどうする?―第6回(最終回):骨吸収抑制薬内服中の患者さんへの対応

超高齢時代に役立つ 歯科に必要な全身疾患の基礎知識―病気をもった患者さんが歯科医院に来たらどうする?―第6回(最終回):骨吸収抑制薬内服中の患者さんへの対応
超高齢時代に役立つ 歯科に必要な全身疾患の基礎知識―病気をもった患者さんが歯科医院に来たらどうする?―第6回(最終回):骨吸収抑制薬内服中の患者さんへの対応
骨吸収抑制薬を内服されている患者さんの抜歯の際、どのように対応されていますか?2003年にMarksら 1)によってはじめてビスフォスフォネート(以下、BP)関連顎骨壊死が報告され、その後抗RANKL抗体(以下、Dmab)や血管新生阻害薬によっても、BPと同様に顎骨壊死が起こることが明らかになりました。現在は、骨吸収抑制薬や血管新生阻害薬に関連する顎骨壊死を総称して薬剤関連顎骨壊死(以下、MRONJ)と総称されています。顎骨壊死を発症すると治療に難渋することが多いため、われわれ歯科医師には、適切な予防を行い、発症した場合も適切に治療を行うことが求められています。今回は、骨吸収抑制薬内服中の歯科治療について取り上げます。



骨吸収抑制薬とは?

骨吸収抑制薬は骨修飾薬(以下、BMA)ともよばれ、主に骨粗鬆症やがんの骨転移に用いられます。BP、Dmab、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、ビタミンD3アナログに大別されますが、このうちMRONJの原因薬剤となるのはBPとDmabです。また、BMAの他に、抗がん剤のひとつである血管新生抑制薬でもMRONJの発症が報告されています。 BMA使用中の患者さんは、侵襲的歯科治療時に注意が必要とされています。ここでいう侵襲的歯科治療とは、抜歯やインプラント埋入、根尖あるいは歯周外科手術、骨縁下SRPなどが該当します。現在の診療ガイドラインである2016年版の本邦ポジションペーパー(以下、2016PP)では、4年以上のBMA投与患者では2か月程度の休薬を推奨しています。しかし、本邦の多施設共同後ろ向き研究によるBP投与患者の抜歯に関する調査ではBP休薬によるMRONJ発症率は低下しなかったことが報告されています 2)。また、骨に長期残留する薬剤の性質や、BMA休薬による骨折リスクの増大の面から、休薬の意義については懐疑的とされているのも現状です。

骨吸収抑制薬内服中の侵襲的歯科治療はここに注意!

では、MRONJの原因となりうる薬剤を使用中の患者さんに対して抜歯などの侵襲的歯科治療を行う場合、どのような対策をしたら良いでしょうか? 重要なのは患者さんへの十分なインフォームドコンセント(以下、IC)です。BMA投与期間が1年程度でも、また2か月以上休薬した場合でもMRONJを発症することがあり、治療前のICをきちんと行うことが推奨されています。例えば、BMA長期内服中の患者さんが歯性感染症を繰り返しており抜歯適応と判断した場合は、①感染巣の放置によりMRONJを発症することがあるのできちんと適切な治療を受けていただきたいこと②顎骨壊死のリスクはあるが勝手にBMAの内服を中止しないこと③仮にMRONJを発症した場合は当院できちんと対応すること、などをお伝えし書面による同意書を取得しています。 侵襲的歯科治療の際の対応については、まだ一定の見解は得られていません。当院では処方医に対し、BMA投与期間の確認および当院での治療予定に関する事前連絡は行いますが、基本的にBMAの休薬は依頼していません。抜歯前に十分に消炎治療を行い、術前に抗菌薬を投与し、抜歯操作の際には周囲組織の損傷をできるだけ避け、抜歯窩にアテロコラーゲン製剤などを填入したうえで可及的に縫合閉鎖するようにしています。施設によっては、粘膜骨膜弁を剥離し創を完全に縫合閉鎖する場合もあります。 4年以上の長期BMA投与例では、2016PPに従って休薬依頼をされても良いと思いますが、日本骨粗鬆症学会の調査によると、歯科医師からの休薬依頼のうち実に30%近くがBPやDmab以外であることが報告されています。歯科医療者側は、骨粗鬆症治療薬の中でどの薬剤が顎骨壊死に関与するのか正確な知識を得たうえで医科と連携する必要があると考えます。また、2016PPでは全身状態や骨折リスクが許容される場合のみBMA休薬について処方医と協議することと明記されており、けっして歯科側から休薬を強要することのないようにすべきです。 一般歯科診療所で対応が困難な場合はそのまま放置するのではなく、病院歯科口腔外科や大学病院歯科部門と連携し、適切な歯科治療を受けるようにしていただきたいと思います。歯科の対応不備でBMA投与中の患者さんが歯科治療難民になることは避けなければいけません。 高齢化は今後ますます進み、病気をもった患者さんが一般歯科診療所を受診される頻度はさらに高くなります。患者さんが来院されたときに慌てないためにも、歯科医療者は日頃から全身疾患に関する基礎知識を身につけておくことが重要です。本連載が少しでも皆さまの臨床のヒントとなれば幸いです(了)。 参考文献 1.Marx RE.Pamidronate(Aredia)and zoledronate(Zometa)induced avascular necrosis of the jaws: a growing epidemic.J Oral Maxillofac Surg 2003;61(9):1115-1117. 2.Hasegawa T,Kawakita A,Ueda N,Funahara R,Tachibana A,Kobayashi M,Kondou E,Takeda D,Kojima Y,Sato S,Yanamoto S,Komatsubara H,Umeda M,Kirita T,Kurita H,Shibuya Y,Komori T;Japanese Study Group of Cooperative Dentistry with Medicine(JCDM).A multicenter retrospective study of the risk factors associated with medication-related osteonecrosis of the jaw after tooth extraction in patients receiving oral bisphosphonate therapy:can primary wound closure and a drug holiday really prevent MRONJ? Osteoporos Int 2017;28(8):2465-2473.

著者松村香織

公立八女総合病院歯科口腔外科 医長

略歴
  • 2005年、九州大学歯学部卒業。
  • 同年、九州大学病院第一口腔外科に入局。
  • 2011年、九州大学大学院博士課程修了(歯学博士)。
  • 2016年、九州大学病院顎口腔外科助教。
  • 2018年より現職。
  • 日本口腔外科学会専門医、日本有病者歯科医療学会専門医、
  • 日本小児口腔外科学会指導医、日本抗加齢医学会専門医、
  • 日本顎関節学会暫定指導医、日本口腔科学会認定医、
  • 日本化学療法学会認定歯科医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、
  • 日本口腔ケア学会評議員。
松村香織

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