哺乳類の顔面表情筋は、皮筋の一つとして発達した。 (図1) 皮筋は、顔や首それに胴に付着している筋肉で片方が骨、他方が皮膚に付き、収縮すると皮膚が動く。 例えば、ウマの脇腹にハエがとまると、皮膚を動かして追い払う。 ラクダやウマでは砂嵐が鼻に入らないように鼻孔を開閉する。 また、動物の耳が動くのも皮筋によるものだ。 (図2) さて顔面表情筋は、それぞれが独立したものでなく、複雑に筋線維が入り組んだものである。 例えば、口輪筋は頬筋に由来する筋肉の一つと考えられる。 ここで頬筋の走行について調べてみよう。 まず左右頬筋の最上部と最下部は、口唇の上・下を走る。(図3A-B) 次に、頬筋の中央で口角より上の線維は、口角から下方に入り下唇に移行する(図3-C)。 そして口角より下の線維は、上唇に移行する。(図3-D) その他、口角挙筋は下唇に線維を送り、口角下制筋は上唇に繊維を送っている。これらの筋肉群は、"巾着袋の紐"のように口を小さく閉じるように走行する。 (図3) すなわち当初、口輪筋は口の周囲を一周する筋肉ではなかったのである。 では、頬筋はどこから来たのだろう? さて肉食動物と草食動物を比べると、肉食は頬がなく口が裂けている。 この方が、捕獲するためには有利である。 しかも肉はエネルギー効率が高いため、食べこぼしをしても問題は少ない。 (図4) では草食動物はどうだろう? 植物は、肉よりエネルギーが乏しい。 そこで草の落下を防ぐため、頬を作りだしたのだ。 また咀嚼時、頬筋を収縮させることで食塊を舌側に送ることができる。 これも効率よくエネルギーを得ることにつながる。 (図5) また、よく噛むと頬筋を収縮させる回数が増える。 これは、口輪筋さらには顔面表情筋の発達に影響するだろう。 そう言えば、乳児は丸く、ぽっちゃりした顔をしている。 いわゆる"赤ちゃん顔"だ。 しかし1歳を過ぎると、幼児のしっかりした顔つきになる。 離乳食を通じて、咀嚼や嚥下が上手になる。 この過程で、乳児の頬部の脂肪が、顔面表情筋に置き換わる。 口腔機能の発達は、顔面表情筋にも表れるのだ。 (図6) 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
- 岡崎先生ホームページ:
https://okazaki8020.sakura.ne.jp/ - 岡崎先生の記事のバックナンバー:
https://www3.dental-plaza.com/writer/y-okazaki/