今回は、歯科医院において言語聴覚士の活躍の場と機会を広めるために、何が大切なのか考えてみたいと思います。 まずいちばんの難題が診療報酬です。歯科医院の中で言語聴覚士がかかわることができる診療報酬は非常に少なく、雇用に踏み切ることを躊躇してしまう院長はいらっしゃると思います。実際、歯科からの言語聴覚士の活躍の場が遠のくことも起きています。保険医療機関等は、介護保険法による医療系サービスの事業者となることができ、みなし指定といわれます。歯科医院からのみなし指定による訪問リハビリテーションについては、平成30年度診療報酬改定で「医師の診察」とされ、居宅療養管理指導のみとなり、歯科医院からの訪問リハビリテーションの道が閉ざされてしまいました。 なぜ、歯科医師の指示で同じくお口を診る言語聴覚士の訪問が認められないのでしょうか。なんとか、これを復活させなければならないと思っていて、歯科医院で働く言語聴覚士に関する実績を出すべく奮闘中です。訪問については当院では歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士の3人一組で回っていて、それぞれの得意分野を生かしながら対応できるので、訪問歯科におけるベストチームだと感じています。 現在、歯科医院での言語聴覚士がかかわることのできるものには、脳血管疾患や廃用症候群のリハビリテーション料、摂食機能療法、口腔機能低下症や口腔機能発達不全症などがあります。また自費(保険適用外)になることもありますが、口腔筋機能療法(MFT)や小児の機能性構音障害、他にも顎関節症への対応でも活躍の可能性を秘めている気がします。読者の皆様で言語聴覚士に手伝ってほしいという分野があったら、ぜひともご意見お聞かせください。 ここまでは、診療に関する内容についてお伝えしてきました。最後に、経営者である開業歯科医の先生方にお願いしたい、人材マネジメントについて少しだけふれたいと思います。 言語聴覚士を歯科医院に雇用していただいたとしても、きっと一人だと思います。その言語聴覚士にとっては同職種が一人であるため、歯科医院が言語聴覚士にとっても働きやすい環境であるためには、教育や連携しやすい環境を整えていただくことも必要かもしれません。特に若手の言語聴覚士を雇用した場合、不慣れな診療報酬や地域連携に関する側面で苦労する可能性もあります。そのような側面のフォロー体制があると、言語聴覚士自身も働き続けることができると思います。 第一回で少しだけふれましたが、頭頚部がん術後の患者さんのリハビリテーションを受けられる環境が少なく、リハビリテーション難民の方が時々いらっしゃいます。歯科医院に言語聴覚士がいることによって、お口の機能に関するリハビリテーション難民を減らすことにもつながるかもしれません。 私は、歯科医院で言語聴覚士を雇用することは、長い目でみれば地域の高齢者のお口の機能の維持・向上につながると信じています。歯科医院にまつわる言語聴覚士のあれこれ。長文にお付き合いいただきありがとうございました(了)。
著者小島 香
こじまデンタルクリニック 言語聴覚士
略歴
- 2008年 言語聴覚士免許取得
- みなと医療生活協同組合協立総合病院、国立長寿医療研究センターに勤務
- 2017年 日本福祉大学大学院 医療・福祉マネジメン研究科修了
- 2018年 こじまデンタルクリニック
- 日本疫学会
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
- 日本在宅医療連合学会など