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医科歯科ボーダレスな診療を目指して 第6回(最終回):医科歯科ボーダレスな診療の実践

医科歯科ボーダレスな診療を目指して 第6回(最終回):医科歯科ボーダレスな診療の実践
医科歯科ボーダレスな診療を目指して 第6回(最終回):医科歯科ボーダレスな診療の実践
このコラムもあっという間に最終回になりました。第1回に書かせていただいたように、私は大学生の時に顎関節症と診断され、その後も数年周期で顎二腹筋の痛みや開口障害などが出現・消失を繰り返しました。

2011年に顎関節症治療の第一人者である木野孔司先生の『完全図解 顎関節症とかみ合わせの悩みが解決する本』(講談社)と出合い、そこに書かれていた「何にもしていないとき人間の上下の歯は接触していません」という一文には正直なところ驚愕しました。

私は上下の歯の接触どころか、意識して噛み合わせていました。それは幼少期より母親から「口を閉じてグッと噛んでおきなさい」と言われていたからです。何の疑問ももたずにそうして過ごしてきました。母親がそう言った理由を聞いたことはありませんので推測ですが、私の長兄が幼少期よりいわゆる「出っ歯=上顎前突」だったので、そうならないように育てたいと考えたのでしょう。

この本を読んだその日からTCH(Tooth contacting habit)を意識して、日常診療でもTCHに留意するようになりました。木野先生が歯科医師・歯科衛生士向けに書かれたTCH是正指導の本も購読しました。

現在、私の日常診療において、顔面の視診では顔面の左右差、口唇の形状、次に開口動作をみます。3横指開くか、ガクガクっと開いたなど……。開口後には、残存歯数、咬耗の状況、補綴の状況、歯肉などをみて、ざっくりと口腔衛生について評価します。舌については、形状・色調・歯の圧痕、頬粘膜の咬合線の有無など。次に、顎関節の動きをみたいので触ってもいいですか?とお断りしてから、両手をそっとこめかみ部に添えさせていただき、再度、開口と閉口をしていただきます。続いて顎二腹筋、胸鎖乳突筋、甲状腺などを触診していきます。

この取り組みを通常の内科診療と合わせていきながらやり続ける。それが現在の私の診療スタイルです。

以前は素人眼にみても治療の必要な歯があれば、すぐに歯科受診を促していました。しかし、実践しているうちにそれだけではダメだと気づきました。歯科受診をされていない患者さんには、その理由が実はしっかりあって、確信犯的に受診されていないことが少なくありません。そこを聞き出して、歯科受診やセルフケア向上のきっかけづくりと動機づけにつなげるようにしています。もちろん、いきなり歯の話をして拒絶されたこともありました。そのため初診時に気になっても当日はコメントを避け、再診時に少しずつ歯科口腔のお話をしていく場合もあります。

当院受診の主訴と関係あるのかないのか患者さんご自身にはすぐには理解しがたい場合もあるので注意深く観察しています。口腔内視診時に下顎智歯の埋伏歯を見つけると、患者さんご自身がそのことを認識しているかどうか、歯科ではどう説明されているかなど確認します。自分自身の経験もふまえて、内科診療の中でTCHの有無を確認し、TCH是正のための指導を行うことを始めてから10年の月日が過ぎました。

咽頭痛で受診された患者さんが、実は顎関節症にともなう顎二腹筋の痛みだったケース。これは自身の経験に基づいて気づきました。また別のケースでは、咽頭痛で来院、亜急性甲状腺炎だったこともあり、咽頭痛といってもさまざまな鑑別診断が必要だと再認識させられました。

TCHと頭痛には以前より報告があるようですが、自験例でも長年トリプタン製剤(片頭痛の特効薬)を常用していた患者さんがTCH是正指導でトリプタン製剤が不要になったケース。この1年間で3人いらっしゃいます。

またゲップや排ガスが多いと受診された双子の男子高校生、TCHがあることを確認し、是正指導を行いました。食生活の指導も同時に行いましたので、何が効いたのかわかりませんが、3週間後の再診時には自覚症状がかなり改善していました。いわゆる呑気症と噛みしめ癖、噛みしめ嚥下の関与は以前より指摘されていますが、内科医(消化器内科医)における認知度は低いと思います。

これらは日常診療で気づいたことのほんの一例です。もちろん現時点ではエビデンスレベルは低いと思います。このような視点でみている医師は圧倒的に少ない現状ですので、気づいていないだけかも知れません。

歯科医師・歯科衛生士の皆様には、歯科口腔にとどまらず全身を俯瞰していただきたいと思います。私たち医科医療者は歯科口腔にもっと眼を向けて診療して、日々の臨床で気づいたことや感じたことを共有することで、新たなエビデンスの発見とともに患者さんの健康・長寿を実現するお手伝いができればと思います。

医科歯科ボーダレスな診療はまだまだ進化していきます。医科でも歯科でも、できればこれが当たり前になってほしいと願っています(了)。

著者細田正則

ほそだ内科クリニック 院長・医師・医学博士

略歴
  • 1964年 米国ミシガン州生まれ
  • 1990年 京都府立医科大学卒業
  •     医師免許取得
  •     京都府立医科大学第三内科(現在の消化器内科)入局
  • 1998年 京都府立医科大学大学院修了 医学博士号取得
  • 2011年 ほそだ内科クリニック 開院
所属学会・専門医など
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本消化器病学会認定消化器病専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
細田正則

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