今回は、言語聴覚士の歯科の中での取り組みと役割についてお伝えします。 言語聴覚士が歯科医院で働くには、いくつか課題があります。まず、言語聴覚士がどのような職種で、何ができるのか知っていただく必要があります。歯科医師や歯科衛生士の皆さんも、言語聴覚士が歯科医院でどのような活躍ができるのか、イメージがつかないのではないでしょうか。 じつは、当院の歯科衛生士さんにも、当初は「言語聴覚士ってどんなことをされるんですか」と聞かれたりしました。言語聴覚士が誕生(国家資格化)したのは1997年。それまでは言語療法士とよばれていて、失語症や聴覚障害、発達障害といった領域での活躍が多かったようです。しかし、言葉を話すためには、脳の働き・口や喉の動きといった部分がかかわっていますので、徐々に摂食嚥下分野も担当するようになったようです。これは、私の憶測なのですが、摂食嚥下リハビリテーション学会が1994年に設立され、徐々に浸透しはじめた頃と時を同じくして言語聴覚士が国家資格となったのかもしれません。少しずつ歯科領域の皆さんにも言語聴覚士のことを知っていただけるようになり、今回のように歯科領域での執筆をさせていただけるようになったことは、大きな一歩だと感じています。 現在、言語聴覚士の有資格者は約3万人。そのほとんどが急性期や回復期をはじめとする病院に勤務しています。近年は、老人保健施設や訪問看護ステーションなどで働く方も増えてきていますが、歯科医院で働く言語聴覚士は全国でも30名、もしかしたら20名にも満たないのではないでしょうか。歯科はまさにお口を診る場所なのにもかかわらず、なぜか言語聴覚士の在籍は少ないのです。もしかすると、歯科衛生士さんの業務領域と重複してしまうと感じる方がいらっしゃるかもしれません。 言語聴覚士は、歯科衛生士のように口腔ケアの専門的な手技、たとえばスケーリングなどはできません。恥ずかしながら、歯科機器に関する知識はありませんし、もちろん使用できません。歯科衛生士さんと言語聴覚士では、専門とする領域が異なるのではないかと考えています。 言語聴覚士が歯科医院にいることのメリットは、やはり摂食嚥下領域が最適ではないでしょうか。高齢者の死因の上位である肺炎の原因の一つである摂食嚥下障害を予防するうえで、お口のお掃除と一緒に機能を診られることは患者さんにとっても、今まさに問題となっている超高齢社会への対策としても、重要な意味をもつと感じています。昨今、口腔機能低下症という病名が保険収載され、歯科医院でも検査が行われるようになりました。そこには、検査だけでなく指導も行うことが前提となっていると思います。この指導こそ、まさに言語聴覚士が得意とする部分だと思います。これは口腔機能発達不全症でも同じことがいえると思います。 本連載をとおして、少しでも言語聴覚士について知っていただき、そして興味をもっていただけたらうれしいです。きっと歯科と言語聴覚士は相性が良いと思います。次回は、歯科での言語聴覚士を広めるために必要なことについてお伝えしたいと思います。
著者小島 香
こじまデンタルクリニック 言語聴覚士
略歴
- 2008年 言語聴覚士免許取得
- みなと医療生活協同組合協立総合病院、国立長寿医療研究センターに勤務
- 2017年 日本福祉大学大学院 医療・福祉マネジメン研究科修了
- 2018年 こじまデンタルクリニック
- 日本疫学会
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
- 日本在宅医療連合学会など