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コラム

口腔機能発達不全症 その5”むし歯になった手”

口腔機能発達不全症 その5”むし歯になった手”
口腔機能発達不全症 その5”むし歯になった手”
小児の口腔機能の発達の"みちすじ"の研究が進むとともに、それに合った離乳食の指導や食べる訓練が行われている。


なかでも、最も恩恵を受けたのが、脳性麻痺などの障害児であろう。


かつて施設における上手な介助者とは、"上を向いて寝たまま"の障害児に"短時間で食べさせる"ことだったという。
そもそも寝た状態で、うまく食べることなど不可能だ。
ヒトの体は、脊柱の上に重い頭蓋が乗っている。
この状態で口腔周囲筋がスムーズに働き、咀嚼や嚥下を行うことができるのである。
彼らにとって、"食べさせられる"ことは、最も苦痛な時間であったに違いない。

さて現在、保育現場でも"噛まない"・"いつまでも飲み込まない"ことが大きな問題になっている。
そこで、某保育協議会より口腔機能に関する調査と今後の取り組みについて相談を受けた。
その結果、①日頃から口が開いている園児は30%以上、②食事の時、常に口の中に食べ物が見える園児は約20~30%もいた。


しかも不思議なことに、この割合は年齢が上がっても変化しない。
通常、年齢とともに口腔機能が発達すれば減少するはずだ。
これが減少しない理由の一つとして、環境要因が考えられる。

そこで、他の部位の発達について調べると"手指の機能"に行きついた。
驚くことに"むし歯になった手"という言葉があった。
もちろん、"手がむし歯"になるのではない。
手指の機能が"蝕まれている"の意味である。
1970~80年代にかけて、手の不器用さが問題になっていた。
"箸が使えない"・"生卵が割れない"・"雑巾がしぼれない"・"リンゴの皮がむけない"・"靴のヒモが結べない"などである。
これらは、便利な生活がかもしだした可能性がある。
そこで"子どもの手の労働研究会"は、1973年に"日常生活"や"遊び"などについて調査を行った。

ここで、その結果の一部を紹介する。
子どもの手指機能の発達には、2つのタイプがある。
短期習熟型は、"手を拭く"や"積み木を積む"などで、未熟であっても2歳位までに90%以上ができるようになるパターン。


もう一つの長期習熟型は、"石鹸を使って体を洗う"や"ズボンのバンドをしめる"など幼児期を通じて徐々にできるようになるパターン。


前者は、手指機能の発達と深く関係する。
しかし後者は、日常生活での機会の有無に影響を受けやすい。
これを端的に示されるのが、"ハサミで布を切る"の習熟度である。
5歳を境にして"できる子"と"できない子"が見事に分かれている。


手指機能の発達だけでなく、それ以前の環境要因が深く関わるのだ。
小児の口腔機能発達不全も、底辺には同じ問題が潜んでいるのではなかろうか。

続く

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識 「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!


岡崎 好秀

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