数年前、小学校1年生の女児が、学校給食で窒息死したという悲しい事故があった。 駆けつけた救急隊員が喉から取り出したものは"ウズラの卵"であった。 "コンニャクゼリー"・"ナッツ類"・"白玉団子"・"プチトマト"などは窒息事故を起こしやすいことは知られている。 しかし"ウズラの卵"には驚いた。 いったい、どのような食べ方をして事故を起こしたのだろう? ふざけて食べていたのか?食材の問題なのか?あるいは、口腔機能の問題なのか? 残念ながら精細には公表されていない。 そのためか地域によっては、保育所や小学校の給食では"ウズラの卵"の使用を控えているという。 人口動態調査によると1~14歳の死亡原因の第1位は不慮の事故である。 なかでも"食品による窒息"が主要な位置を占め、その大半が4歳児以下である。 筆者も、窒息による低酸素脳症で重度の障がいに陥ったり、死亡した子どもを何人も診てきた。 昨日まで元気な子が、わずかの油断でこのような状態に陥る。保護者にとって、悔やんでも悔やみきれないだろう。 そこで消費者庁からは、"小さく切るように"、"よく噛んで食べさせるように"と通達されている。 しかし、"小さく切ること"が根本的な解決策にならないのは明白である。 また"よく噛んで食べさせる"ことができないから現場は困っている。 さて、母子健康手帳には、誤飲防止のしおりが付いているものがある。 これは、誤飲と窒息予防のためのもので、赤ちゃんの最大口径である39mmの穴があいている。 これより小さいものは、口に入ると危険なので、手の届く所に置かないようにするための目安としているのだ。 誤嚥事故を防ぐため、"消費者庁は小さく切って与える"と勧告しているが、"母子手帳は、小さなものは口に入ると危険"との記載がある。 これでは、保護者や教育現場の混乱が増すばかりである。 いずれにせよ、口腔機能発達不全と誤嚥とは関係が深く、事故の原因を探ることが再発防止の第1歩である。 現在、口腔機能の発達の"みちすじ"が明確になり、その段階に合わせた離乳食の指導がなされている。 一方で、このような事故が多発する背景には、ここに表記されていない "何か"が足りないのだろう。 今後、口腔機能発達不全症による誤嚥事故が増加することが予想される。 そのため歯科医師の立場からも、事故を未然に防ぐ手立てを考える必要がある。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
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人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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