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親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第3回:親知らず、CT撮影、必要ですか?

親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第3回:親知らず、CT撮影、必要ですか?
親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第3回:親知らず、CT撮影、必要ですか?
埋まっている親知らずの抜歯にあたり、たまに、CTを撮ることがあります。

レントゲン写真で、埋まっている歯の根が神経や血管が通っている顎の骨の中のトンネルのようなものと絡み合っていそうな時などには、それが傷つかないように、もしくは傷ついた時のために、準備(全身麻酔や入院)して対応することが必要になるかもしれないからです。

絡んでいる血管や神経を傷つけないためには、抜歯中ずっと口を最大に開けたまま、呼吸もせずにじっと動かないでいてくれる全身麻酔が、もっとも安全かつ確実に作業できるため、リスクは減るはずです。また、絡んでいる神経は感覚の神経ですから、注射の麻酔だけで痛みをなくすのも難しくなります。

「3Dで評価して判断するのに、病院に行かないと撮影できないからと紹介された」という方がいらっしゃいました。紹介状には「前の歯の治療のために親知らずを抜いてください」と書いてありますが、CTについての記載はありません。

「3Dというのは、きっとCTのことなのだろう」と思いながら、レントゲンを撮影したところ、親知らずの根は神経や血管に接するくらいに近いものの絡んでいることはなく、親知らずを抜く目的のCT撮影は必要ありませんでした。

しかし、歯科医院にてCT撮影が必要と言われ、それを理由にわざわざ病院に来たと本人が理解している場合、「CT撮影の必要はないですよ」と方針を覆す説明をするのには、気を遣います。この方の場合は、紹介状には書いてありませんでしたから、歯科医院の先生の説明の中で「CTを撮影することもあります」という説明をされたのを、勘違いされたのかもしれません。

逆に「埋まっている親知らずを抜くのに、歯科医院でCTを撮影した結果、病院に紹介になった」という方も、紹介されてきます。そう言われるからにはたいへんな歯なのだろう、と思ってレントゲンを撮ると、拍子抜けするくらいに神経や血管から離れている、特別にリスクの高くない親知らずの場合もあります。





もしかしたら、他の目的にCTを撮影し、それにあわせて、親知らずの診断もしたということだったのかもしれません。

ほとんどの場合、レントゲンのみで、「抜いた方がいいかどうか」もしくは「歯科医院で抜くにはリスクが高すぎるかどうか」の判断はできると思います。また、レントゲンのみでも、ご本人に抜歯の必要性、抜歯にまつわるリスクと、紹介の必要性を説明するのに、それほど困ることはないと思います。

ですから、歯科医院での対応が難しい場合は、CTは撮影せずに、そのまま紹介していただいて構いません。病院を受診していただいて診察し、さらに必要があればCTを撮影して情報を追加したうえで、ご本人とご相談させていただきます。

そうはいっても、なかには親知らずの診断には、まずはCTを撮影してから、というような方針の歯科医院もあるように感じています。

放射線は自然界からも放射されていますので、日常生活だけでもある程度は受けています。撮影に使う放射線量は、1年間に受ける自然放射線量と比べて少なく、歯科の顎全体を撮影するレントゲンは50分の1、歯科用CTは15分の1程度と言われています。

とはいえ、検査は侵襲のリスクを必要性が上回る場合のみ行われるべきですので、まずはレントゲンを撮影して、それだけでは診断できない場合や、抜歯にあたってリスクが高い場合のみ、CTを撮影するべきでしょう。

もちろん、リスクが高い抜歯を病院に依頼する場合に、病院でCTを撮影するのはたいへんだろうからと自院でCTを撮影し、病院での診断のためにCTデータをCD-ROMに入れて紹介状とともに提供くださる場合は、この限りではありません。

親知らずの抜歯は、歯科医院でできる場合とできない場合がありますが、それは主に、歯科医師の経験と本人の抜歯に関わるリスク、そして、歯科医院の設備や場所によって決まってきます。

かかりつけ歯科の歯科医師が埋まっている親知らずの抜歯に精通していない場合、本人にリスクとなる持病のある場合、または、本人が病院で抜きたいと思っている場合などは、ただ紹介状だけ書いていただければ、病院側で必要に応じてCTを撮影してご説明しますので、心配なさらずに受診されてください。

多くの歯科医院は小規模で、スタッフも多くありません。特に救急病院まで時間がかかる場合などは、「もしも」が歯科医院内で起きた時の対応を考えると、何も起きない可能性のほうがはるかに高くても、最初から病院で対応したほうがよいという考え方もあります。

病院に紹介されたからといって、自分が特別に珍しいほどにリスクが高い、という場合は、実は多くありません。心配な場合は、まずは診断と説明のあと、方針をよく相談させていただきますので、遠慮なく歯科医師や他のスタッフにお伝えください。

著者中久木康一

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野非常勤講師

略歴
  • 1998年、東京医科歯科大学卒業。
  • 2002年、同大学院歯学研究科修了。
  • 以降、病院口腔外科や大学形成外科で研修。
  • 2009年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野助教
  • 2021年から現職。

学生時代に休学して渡米、大学院時代にはスリランカへ短期留学。
災害歯科保健の第一人者として全国各地での災害歯科研修会の講師を務める他、野宿生活者、
在日外国人や障がい者など「医療におけるマイノリティ」への支援をボランティアで行っている。
著書に『繋ぐ~災害歯科保健医療対応への執念(分担執筆)』(クインテッセンス出版刊)がある。

中久木康一

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