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歯病救急24時 ~休日夜間の急患対応から教えられたこと~第1回:一期一会の対応は、むずかしい

歯病救急24時 ~休日夜間の急患対応から教えられたこと~第1回:一期一会の対応は、むずかしい
歯病救急24時 ~休日夜間の急患対応から教えられたこと~第1回:一期一会の対応は、むずかしい
歯科病院には、当直があります。いわゆる夜間の宿直と、休日の日直。本来、入院されている体調の整わない方や急に状態の変わった方に対して対応するための当直ではありますが、どうしても、と、夜間休日にいらっしゃる方もいらっしゃいます。それほど至急ではない場合もありますが、当直があってよかった、と思うこともあります。

休日に、「今朝、前歯が折れてしまい、痛くもなんともないのですが、午後からどうしても外せない人と会う用事がありまして」という方、来院されて聞いてみたら、孫の結婚式でした。それは大変だ!と、急いで仮歯を作って接着し、そして式場へ向かって行かれました。昨晩上京し、朝、ホテルでごはんを食べていたら前歯が折れてしまい、地元でもないからどこに行ったら診てくれるかもわからず、藁をも掴む気持ちで電話をくださったそうでした。

前歯と言えば、夜に、「今タクシーでそちらに向かっているところなのですが、子供が転んで歯が2本とれて血がとまらなくて」という動転した電話の直後に、来院した家族もいました。お母さんもお父さんも、服のあちこちが血だらけでしたが、当の本人は疲れて寝てしまっていました。どうやら歯が抜けただけで骨や唇に大きな損傷はなく、抜けた歯を戻して固定しました。

今後、歯がきちんとつくのか、根の治療が必要になるのか、大人の歯が生えるときには抜歯が必要になるのか、いろいろな可能性についても説明しました。お母さんもお父さんもよく理解してくださる方で、処置するときに子供が少し泣いてしまったら頑張って応援してくれて、そして子供もそれなりに頑張ってくれました。今後の経過に不安はあるものの、「このお母さんとお父さんのもとに産まれてよかったね、いい子に育ちなよ」と思いました。

「根の治療するために銀歯を外して根だけになったら、舌が痛くて話せないし食べられない」という人も来ました。確かに、奥歯の銀歯をはずしたところに、舌側にとても鋭敏な歯根の端が出っ張っていました。こりゃ、痛いわけです。

しかし、これからこの歯を使うのだろうから、下手に削って丸めるわけにもいかず、仮着用のセメントを硬く練っておだんごを盛り上げるようにして突起を隠してみました。うまいこといき、「これで話せるし食べられるわ!」と喜んでいただけました。そして、「先生、面白いわね、楽しかったわ」「歯医者にきてこんなに笑ったのは、はじめてだわ」と、えらい笑って、さらーっと帰って行きました。結果的に配慮が足りなかった治療により急患来院する羽目になったというのに、楽しかったなんて言われてびっくりしましたが、こちらも嬉しい気分にさせていただきました。

「仮歯が割れた」と来院された方。診たら上顎全ての歯にかかる仮歯で、もう何年もその調整を繰り返し、既に土日夜間の当直帯に来院すること20回ほど。しかも、その数回が、「異常ありません」と言われてお帰りになっている方でした。確かに仮歯は割れてはいましたが、はずれてはおらず、口の中で本人が「良い」という位置で接着しました。

これでよし、と思ったら今度は、「違う歯の頭の先が大きすぎて食べられない」と言います。いや、ギリギリしても全くあたらないところだから、そんなことはないはずなのですが……。
やや怪しい雰囲気を感じはしましたが、ほんのちょっと触る程度に削って、どうですか?と聞いたところ、「だいぶ違う、すごい楽になった、下の歯も痛くなくなった」と大絶賛され、もうほんのちょっと、合計0.5mmくらい、全く歯があたらないところを彼女の言う通りに削ったところ、「すごい楽になって、これで食事も食べられる」と大喜びし、大感謝をし、帰って行かれました。

客観的所見のない主観的な訴えに対応するのはとても危険な判断とは思いますが、もともと担当医は訴えに付き合い続けるという対応をしており、その担当医に対し、「いつも丁寧に少しずつ調整してくださって感謝している」とのことで、当直医としてはその方針にあわせて対応したつもりです。

しかし、独特な考え方のある方だとしても、一生歯医者に通い続けなければいけない状態とする落としどころとしてしまってよかったのかどうか、自問するところでもあります。

著者中久木康一

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野非常勤講師

略歴
  • 1998年、東京医科歯科大学卒業。
  • 2002年、同大学院歯学研究科修了。
  • 以降、病院口腔外科や大学形成外科で研修。
  • 2009年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野助教
  • 2021年から現職。

学生時代に休学して渡米、大学院時代にはスリランカへ短期留学。
災害歯科保健の第一人者として全国各地での災害歯科研修会の講師を務める他、野宿生活者、
在日外国人や障がい者など「医療におけるマイノリティ」への支援をボランティアで行っている。
著書に『繋ぐ~災害歯科保健医療対応への執念(分担執筆)』(クインテッセンス出版刊)がある。

中久木康一

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