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親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん
第8回:親知らず 根ができる前は 抜き時です

2021/11/14 デンタル〇〇デザイン

親知らずを抜く、とはよく聞くと思いますが、なぜ抜かなければいけないのでしょう?特に、「親知らずがちゃんと生えてこなかったことが原因で、腫れたりむし歯になったりしているので、抜いた方がいいでしょう」と言われたとき(埋まっている親知らずのとき)を考えてみましょう。

こういう時は、生えてくるはずだった親知らずの頭が、生えるための骨のスペースが十分になく、前の歯にひっかかってしまって止まってしまい、出ることができなくなったことが多いです。

すべての歯は、顎の骨の中から生えてきます。顎の骨の中では、最初に歯の頭ができて、そこから根が生えてくるときに、その根が歯の頭を押し出すようにして、歯の頭が口の中に見えてきます。顎の骨は、外側の数ミリは硬い骨で覆われていますが、内側は骨髄などとよばれる軟らかい骨なのですが、歯の頭は生えてくるまでは肉のカバーがついており、歯の根が伸びながら押すことにより、動いて押し出されてきます。

親知らずも同じですが、生えてくる方向がおかしいと、押し出されてくる途中に歯の頭が前の歯にひっかかってしまい、それ以上押せなくなることがあります。そうすると、本来は伸びる根に押されて歯の頭が生えてくる方向に動くのですが、歯の頭が動いてくれないので、歯の根が奥に向かって伸びていくこととなります。



しかし、根が奥に伸びて行くと、下顎管という名前の、感覚の神経や動脈などが入っている骨の中のトンネルに近くなっていきます。結果として、歯を抜く必要があると判断したときに、「神経に近くてリスクが高いので、紹介しますから、病院で抜いてもらってください」と言われたりします。

この下顎管という名前のトンネルは、大切な神経や血管を守るために、顎の骨の外側と同じ硬い骨で囲まれています。また、親知らず自体の向きによっては、根が伸びて行くと骨から飛び出す方向に行こうとすることがあり、骨の端の硬い骨にあたっていくことがあります。根が伸びて行くときに、硬いところの骨にあたると、当然、硬いところを避けて進みますので、そこで根の先が曲がった形になったりします。



このようなことは、おおむね10代後半の数年間で起きるようですが、この時期にはほとんど症状はなく、問題が起きたりするのはそのだいぶ後です。ですから、この時期に「歯を抜きましょう」となるのは、歯並びなどが悪くなって歯の矯正をしようかと相談に行ってレントゲンを撮った、などの場合がほとんどに思います。

しかし、埋まっている親知らずを抜く側からすると、「頭がひっかかってちゃんと生えないけど、根はまだ伸びきっていない」という時期が、抜き時だと思います。もちろん、「頭が引っかかるのかどうか」は、ある程度歯が生えてこないとわからないですし、レントゲンを撮らないと判断はできません。ただ、何かのきっかけで、「この歯はちゃんと生えてこないだろうから、将来的には抜いた方がいいかもしれませんね」と言われたら、なるべく早く(歯の根が奥に伸びていってリスクが高くならないうちに)抜いた方がいいと思います。抜かれる側としてもリスクが高くないわけですが、抜く方としても抜きやすいので早くおわるし、おすすめです。

とはいえ、「抜く」とか言われると怖くなってしまい、「ちょっと考えます」と答えてしまうことも少なくないでしょう。もっとも、いきなり「抜きますか?」と聞かれても、答えられないものです。特に若い方は、多分に、自分の人生において自分の身体にメスを入れるかどうかを聞かれる初めての人生経験ではないかと思うので、そうすぐには決められないこともあるでしょう。

いまや小児期のむし歯は、フッ化物の応用などもあって極端に減ってきていますので、親知らずの抜歯で紹介されてくる20代の方で、「歯が腫れて痛くて、生まれて初めて歯医者に行ったら、親知らずを抜かないといけないからと紹介された」というような方は、少なくありません。そうなると、外来小手術としての「下顎水平埋伏智歯抜歯術」が、初めての歯科治療、初めての歯科の注射の麻酔となるわけで、なかなかいきなりの上級者コースでハードルは高いです。

「ちょっと考えさせてください」と答える方もいるでしょうし、あまり乗り気ではない雰囲気を察して「もう少し様子みてみましょうか」と言われる人もいるでしょう。しかし、「何を」「いつまで」様子を見るのかは、あまり明確に伝えてもらえない場合が多いようで、いまいち理解できないままその日は終わりとなり、そのまま放置してしまったという方もまた、少なくありません。

本来「様子を見る」というのは、まずは「どこがどうなる可能性がある」という想定があって、その想定どおりに進むかどうかによって方針が変わる場合に、どちらの方針が良いのかを見極めるための経過を追う時間、であるべきだと思います。

しかし、きちんとその方針を理解できるまで説明されている場合は多くなく、「『様子を見ましょう』とだけ言われました」と言う人は多いです。

親知らずの場合は、「生えてくる可能性があるかどうか」の経過を観察することになります。つまり、親知らずの角があたったけど、すり抜けて生えてくるのか、もしくは、そこを中心に水平の方向にまわっていって生えてこなくなるのか。そこの見極めをして、生えてこない、となったら、もうあとは、早く抜いた方が良いわけです。

なぜなら、待てば待つほど、前の歯の裏に突き刺さってきてひっかかりは大きくなって抜きにくくなりますし、前の歯のすぐ後ろの骨の条件も悪くなる。さらには、根は奥に奥にと伸びて、神経や血管に近くなっていき、根の先が曲がって抜きにくくなるからです。

親知らずが生えるかどうかの要因には、顎の成長度合もあります。顎の成長がよければ、もしくはまだまだこれから顎が大きくなるのなら、親知らずの生える骨のスペースが十分あるということとなり、待っていれば生えてくるかもしれません。しかし、顎の成長が悪い、もしくは、もう成長は止まっている、既に顎が小さい、というような場合は、もしも親知らずが生えたとしても、頬の肉の裏のようなところになってしまい、上の歯にかみ合わないうえに歯がみがきにくく汚れもたまりやすくなり、「やはり、抜きましょう」となる可能性が高いと思います。

それならば、それを待たずに抜いたほうが抜きやすいし、リスクも負わなくて良いこととなります。

もともと、東洋人(モンゴロイド)はつぶれた顔をしているわけで、顎の骨の奥行は短いわけです。ですから、なかなか親知らずが生えてくるスペースがない場合が多いです。対して、背が高く体のがっしりした白人や黒人(コーカソイド)は前後に長い顔をしており、親知らずがきれいに生え揃ってしっかり噛める状態の人も少なくありません。日本にも、世界中のさまざまな地域の方々が来て生活するようになりましたので、それぞれに応じた方針が必要となるかもしれません。

この顎の骨の成長には、刺激があることも影響しているようです。つまり、よく噛むことにより、顎の筋肉が動き、その筋肉を支える骨が成長するようで、昔の人ほど筋肉のついている「顎のえら」「頬骨」がしっかりと張っている顔をしていたりするようです。今は、顎の形もすっと小さい「小顔」が望まれるようですが、つまりは、筋肉が弱く、骨の成長も悪いということで、そういう方々は、親知らずの生えるスペースもないということにはなります。ちなみに、弥生時代の卑弥呼の食事を再現して食べてみたら、1食あたりに噛む回数は約4,000回だったとのこと。かたや現代食では約600回と、実に6分の1だったそうです。この50年でも食事はどんどん柔らかくなり、子どもが噛む回数は半分以下になったといわれているそうです。なるほど、親知らずが生えるスペースがなかったり、歯並びが悪い人が多くなったりするのも、うなずけます。

「親知らずが××ですが、少し様子を見ましょう」と言われたら、まずは、「何を、どうなるかを見極めるために様子を見るのか」を確認し、「次回の予約はいつごろとったらいいのか」などと具体的に確認してください。そのうえで、「これは待っても生えてこない」、もしくは「生えても役にたたない」と判断されたら早く抜いた方が、血管や神経、前の歯が痛むようなリスクも負わずに抜けるので、心配でも早く受診していただきたいと思います。よくわからない場合や、心配な場合は、まずは具体的な話を聞いてみなければ判断もできないでしょうから、親知らずの抜歯に対応している口腔外科などに、お早めにご相談ください。

ちなみに、親知らずの根は25歳までに完成しているという統計がありますので、25歳を過ぎた方は、もうこの限りではありません。親知らずは、歯の中でいちばん最後に生えてくる歯です。25歳になれば、すでに身長も伸びなくなり体は完成しているでしょうから、あとは、いかに死ぬまでその体を大切に使い続けるか、ということとなります。その戦略の1つとして親知らずの抜歯が勧められる時も少なくないですが、それはまた次回お伝えしたいと思います。