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親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第12回(最終回):親知らず 先手先手で 対応を

親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第12回(最終回):親知らず 先手先手で 対応を
親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第12回(最終回):親知らず 先手先手で 対応を
本連載も、最終回となりました。親知らずに関するいろいろな観点を、お伝えさせていただきました。まだまだ細かいところはたくさんありますが、戯言へお付き合いいただきありがとうございました。

早いうち、骨もしなやかで、歯と骨もくっついておらず、根が変に曲がったりしないうちならば、わりと簡単に抜けます(「わりと」ですけどね(笑))。そうであれば、神経や血管へのリスクも少ないです。若ければ、傷が治るのも早いし、トラブルも少なくなります。唯一、歯が埋まっている場所がとても深い場合は、抜歯後感染は起きやすくなります。

年齢を重ねるにつれ、からだの病気になるかもしれません。麻酔の注射で心臓がおかしくなったり、歯を抜いたあとの血が止まりにくかったり、傷が治りにくかったりするかもしれません。骨が治りにくい薬を飲んでいると、抜歯が必要となってもすぐには抜けないかもしれませんし、もしも気づかずにすぐに抜いてしまうと、なかなか傷が治らなくてたいそう苦労するかもしれません。顎の骨にあたる範囲に放射線治療をしていたりすると、これまた治りにくいどころか治らないこともあります。

親知らずをずっと放置しておくと、影響が大きくなったりします。口の中なので、なかなか注射の麻酔でやるのはたいへんになってきて、入院・全身麻酔での対応が好ましい場合も増えるかもしれません。高齢になると、たまーに、悪い病気になったりもします。「親知らずを抜いたあとの傷が治りません」と紹介されて来た方が、調べてみるとがんだったりもします。なかなか、一般の歯科でのレントゲンだけでは、親知らずの炎症なのかがんなのかは見分けられません。親知らずによる炎症が長い期間刺激し続けていたことも、がんとなった誘発原因かもしれません。

そんなにいろいろ言われても、どの治療が自分に、そして自分の親知らずに合っているのかを判断するのは、なかなか難しいですよね。困ったことは、先生に相談してみましょう。

もし、「様子みましょう」と言われたときには、ぜひ、具体的に「いつまで」「何がどうなるのか」を様子見たうえで「どう判断するつもりなのか」を聞いてみましょう。はっきりした答えが返ってこなかったり、どうも納得できなかったりしたら、他の歯科を受診して、意見を聞いてみましょう。

セカンドオピニオンは、患者のもつ権利として保障されています。いまや、治療や手術についての説明と同意の書類には、セカンドオピニオンを求める権利や、同意を保留したり取り消したりすることができる権利について説明して明記することが求められる時代となりましたので、遠慮はいりません。ただ、話が長くなるのは禁物です(笑)。端的に、要点を絞って、聞きましょう。

「インターネットにこう書いてあったので、こうしてほしいんです」と頼んでも、専門外であったり、考えが違ったりすれば、断られるでしょう。無論、その治療の経験が少ない先生に治療してもらうのは、先生側にとっても患者側にとっても、リスクでしかありませんので、お互いやめたほうがいいです。どうして先生はその考えに同意しないのかを聞き、納得できなければ、他の歯科で相談しましょう。何か所か行ってもだれも同意してくれなければ、それはインターネットの情報が間違っているということでしょう。

「自分は専門外だからできない」という場合、適切な先生は「他の歯科に行くように」と指定してくれたり、紹介状を書いてくれたりするでしょう。もしくは、「自分にはわからない」という先生は、「大きな病院で相談してみてください」などと言うでしょう。

このような、「診断がつけられない」「その治療法がわからない」という先生に対して、否定的なことを言う人がいますが、それは間違いです。自分で責任をもてる治療ができない場合、他のできる先生に頼む・任せるとする先生は、誠実な先生です。

批判すべきは、「わからないし・できない」治療を、「わかっている・できる」と豪語し、あまりにレベルの低い治療をする先生です。歯科治療のほとんどは、絶対に取り返しのつかない体の一部を削るわけで、もはや過失傷害罪(刑法第209条)に値すると思いますが、「30万円以下の罰金又は科料」しかありません。

日々、そういった批判すべき先生方の被害者たちが、相談に来ます。とはいえ、本来的には弁護士に相談するしかなく、僕たちにできることは、暗に違う歯医者に行くように促し、不運な子羊が彷徨っているので助けてほしいと診療情報提供書を書き、次こそは誠実な歯科に通えるようにと祈ることくらいです。

皆さんが加入している「国民健康保険」は、"健康"に対する保険となっているでしょうか? 答えは、否です。これはなぜか、国民"医療"保険にしかなっておらず、病気になってからでなければ適応されず、かつ、作業報酬でしかありません。もちろん、不幸にして病気になったり怪我をしてしまったりした方にとっては、とても助かる制度です。しかし、「国民健康保険」なのであれば、本来は、国民が健康に過ごせるための保険でなければいけません。

人間は、だれしも死ぬことにおいては平等だと言われます。当然、年を取れば病気にならないわけがありません。しかし、それをなるべく予防することに対しては、国民健康保険は使えません。あくまでも、病名があって、その治療に使えるのが、国民健康保険となっています。

歯科における、むし歯や歯周病の予防処置についても、多くは保険適応ではなく、むし歯や歯周病になって初めて、その治療や重症化予防に対して保険が効くこととなっています。いわば、ワクチン接種に位置付けられるような「発症しないこと」に対しては、歯科においてはほとんど保険が効かないわけです。

結果的に、自分の健康は自分で守るしかありません。ぜひ、予防に対して国民健康保険が適応されるように要望を出すこととともに、現状では、より正確な健康情報に触れていただく機会が増えればいいなと思っています。幸い、インターネットが、それを可能としてくれてきています。

もし、皆さんが親知らずの抜歯を勧められているものの延ばし延ばしにしているとしたら、早めに抜歯することをお勧めできれば、目的は達したといえるでしょう。日々、親知らずの抜歯に関する質問を受け続けている身として、本連載が皆さんのご判断の一助になれれば幸いです。

必要時はお近くの歯科にいつでもご相談ください。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました(了)。

著者中久木康一

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野非常勤講師

略歴
  • 1998年、東京医科歯科大学卒業。
  • 2002年、同大学院歯学研究科修了。
  • 以降、病院口腔外科や大学形成外科で研修。
  • 2009年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野助教
  • 2021年から現職。

学生時代に休学して渡米、大学院時代にはスリランカへ短期留学。
災害歯科保健の第一人者として全国各地での災害歯科研修会の講師を務める他、野宿生活者、
在日外国人や障がい者など「医療におけるマイノリティ」への支援をボランティアで行っている。
著書に『繋ぐ~災害歯科保健医療対応への執念(分担執筆)』(クインテッセンス出版刊)がある。

中久木康一

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