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発達期における咬合の変化 その5 リーウエイスペースの利用

発達期における咬合の変化 その5 リーウエイスペースの利用
発達期における咬合の変化 その5 リーウエイスペースの利用
乳歯から永久前歯への交換の際、少し側切歯の萌出スペースが不足したケースでは、まず早期に下顎乳犬歯の近心をスライスカットする。



そして側切歯の萌出力により、下顎乳犬歯間距離の成長を促す。

次に、下顎の乳犬歯が脱落後、永久犬歯のスペースがなければ、下顎第1乳臼歯の近心をスライスカットし、萌出スペースを確保する。



下顎第1乳臼歯は、近心根が長いので下顎犬歯の萌出に伴い、根の吸収が進んでいると考えられる。

こうして、前歯部のスペース不足を乳臼歯部に移行させる。

そしてさらに、リーウエイスペースを利用する。

リーウエイスペースとは、乳歯と永久歯の側方歯群における歯冠幅径の差である。

実際、永久歯が大きいのは犬歯であり、乳歯が大きいのは乳臼歯、第1乳臼歯と永久歯の差はわずかである。

従って、両者の歯冠幅を比較すると乳歯群の方が大きく、なかでも下顎では約3mm大きい。




そこで第1乳臼歯にスペース不足が認められた場合には、下顎の第2乳臼歯の近心をスライスカットする。

すると後継の第2小臼歯の近遠心幅径は、第2乳臼歯の歯冠幅径より小さいので萌出スペースが確保できる。



一方上顎では、リーウエイスペースの差は約1mmと小さい。

上顎においても、第2乳臼歯の近心をスライスカットすることもあるが、その頻度は多くない。



上顎では、霊長空隙が咬合の調整に関与することが多いためである。

ところで霊長空隙は、上顎では乳側切歯・乳犬歯間、下顎では乳犬歯・第1乳臼歯間に存在する。

これはヒトへの進化の過程で、牙を収める場としてのスペースであった。

すなわち乳歯の霊長空隙は、この名残といえる。




以上の様に、筆者が前歯部のスペース不足を臼歯部で補う処置を多用していたのは、2000年以前であった。

その後、さらにスペース不足が進み、この方法が通用するケースが激減した。

現在、このような例は少ないが、該当するケースには応用していただきたい。

続く

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!


岡崎 好秀

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