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コラム

スタッフに笑顔が生まれる! チーム力のある医院づくり実践術

スタッフに笑顔が生まれる! チーム力のある医院づくり実践術
スタッフに笑顔が生まれる! チーム力のある医院づくり実践術
診療の傍ら、新人教育などの講師としても活躍する角祥太郎先生のもとには、全国からセミナーの依頼が寄せられ、その数は年間140以上にものぼります。セミナー後は「スタッフに笑顔が生まれた」「院内が活気づいた」と喜びの声が数多く届くそうです。令和時代の歯科医院のあり方やチーム力を高める実践術を角先生に伺いました。

「問題解決型」から「価値提案型」へ

コロナ禍となり、離職者が多い医院と結束力が高まった医院との差が浮き彫りになったように感じています。両者にはどんな違いがあるのでしょうか。 私は“チーム力”がひとつの鍵だと考えています。 以前であれば、う蝕で困った患者さんを治療する、いわば「問題解決型」の歯科医療がニーズの大半でした。この場合、ある程度の正解が決まっているため、院長はスタッフに対して、「これをやっておいて」と指示を出すだけで十分でした。 しかし近年では、予防、あるいは呼吸や姿勢の改善、食事などといった、生涯を通じた健康のために歯科医院に通う患者さんが増えています。加えて、コロナ禍によって予防や健康に対する関心がより高まっています。そうした中、歯科医院に求められているのは健康を支えるための「価値提案型」の歯科医療です。価値提案型の場合、問題解決型のように決まった正解はありません。そのため、スタッフはドクターからの指示を待つのではなく、積極的に患者さんと関わり、正解のない提案をできるかどうかが大切になります。だからこそ、チーム力が鍵となるのです。

何丁目何番地に向かっているのか

医院は一艘の船、私はそんなふうに考えています。スタッフは船員で院長が船長です。 チーム力が弱い医院ではスタッフが不安を抱えているケースが散見されます。不安があるスタッフは「この船に乗っていても大丈夫なのか」と考え、いずれ離職の道を選ぶかもしれません。あるいはメンタルを保たせるために仲間を増やそうとし、他のスタッフにも不安が伝播していきます。 では、不安の原因はどこにあるのでしょうか。多くの場合、船長である院長が目的地(ミッション)を明確に示していないことが挙げられます。例えば、「信頼される医院になりたい」と院長が目標を掲げたとします。けれども、「信頼される医院」とはどんな医院でしょうか。 これはセミナーでの実例ですが、「信頼される」とは具体的に何を指すのかをその院長に質問していくと、「信頼とは情報提供」だということがわかりました。その瞬間、スタッフ全員が驚きました。現場では信頼といえば、「話を聞くこと」と考えていたからです。そのため、スタッフは患者さんの話をたくさん聞くようにしていました。しかし、院長にとっては「情報提供」が大事なのでスタッフの対応に不満が募り、スタッフも院長から評価されないために不安が募る。そんな悪循環に陥っていました。 今乗っている船の目的地は何丁目何番地なのか。スタッフに不安を与えないためには、曖昧な言葉ではなく、具体的に示すことが大切です。

歯科医院は「船」。船長である院長が向かう先である目的地(ミッション)を明確にしていないと、スタッフは不安になる。 また、目的地を明確に語れる船長であれば、荒波の中でもリーダーシップが発揮できる。

どのポジションにも価値がある

不安の原因のもう1つに、各スタッフが自分のポジションに価値を見出せていないことが挙げられます。これも実例ですが、歯科助手や受付スタッフに元気がない医院がありました。理由を探ると、診療に直接、携わっていない自分たちには価値がないと考えていました。 しかし、診療をスムーズに行うには、当然ながら、歯科助手の存在は欠かせません。あるいは、受付スタッフが待合室の患者さんの様子を院長に伝えるだけでも、診療時にさまざまな提案が行えるようになります。こうしたことは新人にも言えることで、片付けなど診療以外であっても活躍できるポジションを見つけると、途端に動きが早くなるものです。 各スタッフが自分のポジションを理解し、価値を見出すだけでチーム力は格段に上がります。

適切なフィードバックをしていますか?

スタッフが自分のポジションに価値を見出せない背景には、院長からの適切なフィードバックがないケースがあります。例えば、ホームランを打ってベンチに戻ってもハイタッチをされない。あるいは三振しても「ドンマイ」と言われない。そんな野球チームではモチベーションは保てません。ただ、効果的なフィードバックをするためには評価基準を整える必要があります。基準があいまいだと、いくらフィードバックをしたところで、かえって不満や不安が募るばかりです。以前、私が務める医院で評価基準を全面的に見直したことがありました。例えば、協調性の項目では、休日出勤などのシフトに協力をするかしないかで評価するようにしました。最初はどうなるかと思いましたが、予想以上にスムーズに運び、不平不満は一つも出ませんでした。このとき痛感したのが、評価基準は透明性や公平性が大切だということ。これが抜け落ちていると、どんなに口で褒めたとしても空々しく受け取られてしまいます。

ある一言を別の言葉に置き換える

院長がスタッフとのコミュニケーションを断ち切ってしまう一言をご存じでしょうか。例えば、広報の一環としてリーフレットを作ろうと決めたとします。1ヵ月後、スタッフに「あれ、できた?」と訊ねている先生はいませんか。広報活動に正解はありません。一方で院長は治療に際して、常に正解を導き出す仕事をしています。そのため、すぐに「あれ、できた?」という問いで答えを詰めようとしてしまいがちです。 そう問われたスタッフは「できました」と返すしかありません。  このとき、「どうだった?」という訊ね方に変えるだけで、「若い人にはSNSがいいかもしれません」という新しいアイデアが出てくることがあります。診療以外の業務の多くには正解がありません。診療時のように常に正解を求める思考のままスタッフと接してしまうと、意思疎通が図れなくなり、チーム力は弱まってしまいます。

ベースに「院長が見てくれている」という感覚をスタッフが持っていないと、指示だろうが叱ろうがミーティングだろうが、「どうせ見てないくせに」となってしまう。

不満は期待の裏返し

私が実施する院内セミナーでは互いに互いを褒めあったり、院長の理想に対してスタッフが自由に意見を述べたりするワークを行います。そうしたアウトプットを行うことで、それまで曇っていた顔が笑顔に変わる方がいます。不満を隠して働いている方ほど、不満が取り除かれたとき、笑顔になるものです。実は、不満というのは期待の裏返しでもあります。恋人が相手のことを怒るのは好意を抱いているからです。どうでもいい相手には怒る気持ちさえ湧きません。そして、最善とは何かとイメージする人ほど、自分の理想から離れた現実に直面したときに不満を感じます。一方で笑顔にもならない、不満もない。 そういうスタッフは遅かれ早かれ離職するケースが多いように思います。  不満が取り除かれ、スタッフが笑顔になった職場はチーム力が向上するものです。ですから、スタッフが不満を抱いていると感じ取ったときこそ、チーム力を上げるチャンスだと言えるかもしれません。

角先生が行う院内セミナーの様子。院長の想いを実現し、スタッフのモチベーション向上にもつながるセミナーとして人気が高い。 セミナー後には、それまで抱えていた不安が解消され、みんなが笑顔に。

価値提案型に必要なのは総力戦

健康な人がより健康でいるために通う医療機関、健康な人に定期的に医療情報が伝えられる医療機関、それが現在の歯科医院です。この傾向は今後も進み、気軽に健康に関する相談ができる中待合室的な存在に歯科医院はなっていくのではないかと思っています。逆に言えば、人々の健康でいたいと願う心に火をつけられる場所が歯科医院なのです。そう考えたとき、大切なのは価値提案型であり、それを実現するためのチーム力です。 口にしないだけで、痛みは取れたけれど、実は不安があるという患者さんは多いものです。その方にどんな背景があり、本当は何を望んでいるのか、そうした内面を引き出すには院長の力だけでは限界があります。例えば、みんなで協力して患者さんを笑わすようにするなど、スタッフ全員による総力戦で臨むことが大切です。

診療時と同じように細かいところばかりをみていると、リンゴ全体ではなく、スタッフの「足りていない」「欠けている」ところを日常から探してしまうようになる。最終的には欠けたところを埋めたくなる。院内のマネジメントでは、「まだ食べるところがいっぱいあるよね」という部分を見つけることが大事になる。

まわりはバカだと思っていた

私がチーム力の大切さに気づいたのは、私自身の失敗からでした。以前の私は口腔内の異常を探るのと同じようにスタッフと接していました。そして、すべての粗を指摘していました。そうすることで業績もスタッフのやる気も向上すると信じていたのです。 ところが、結果は正反対でした。「まわりはバカだ。もっと指摘しなくては」と考えるほど、スタッフとの溝は深まり、業績は下がる一方でした。 そうした時、ある仕事で「プラスの部分を見る」重要性を痛感する経験をしました。そして、ハッとしたのです。マイナスばかりを指摘する院長のもとでは、チームの連携などうまくいくはずがないと。 翌日の朝礼で私はみんなに謝罪と感謝を述べました。その日からスタッフとの関係性は徐々に改善されていきました。

歯科医院の数は多い?それとも少ない?

現在、歯科医院の数は全国で約6.5万軒と言われています。一方、寺社の数は約16万軒です。 歯科医院よりも多い数ですが、正月三箇日はどこもたくさんの人々であふれ返ります。歯科医院は一見すると多いようにも思えますが、日本中の人たちが健康でいるために一斉に通い出したら、到底、まかないきれるものではありません。健康寿命を伸ばすアプローチができる歯科医院の役割はこれからも増していくものと思います。 ですから、歯科医院の数が多いことを私は喜ばしいと思っています。そして、健康寿命を伸ばすというニーズに応えるためにも、チーム力を上げ、価値提案型の歯科医療を提供できる医院づくりが大切になるものと思っています。

歯科は楽しそうに働ける職業

歯科医院は他の診療科と比べて、患者さんへのタッチポイントが豊富にあり、最前線で健康寿命を支えることができる医療機関です。 だからこそ、歯科医療従事者は楽しそうに働いたほうがいいと思っています。  チーム力が足りない医院は、きっとスタッフが不安を抱えていたり、本来の能力を発揮できていなかったり、報われない働き方をしていたりします。 それはもったいないことです。せっかく楽しそうに働くことができる職業なのですから、多くの歯科医療従事者が笑顔になり、 チーム力を高め、その結果、よりたくさんの人々の健康寿命を支えられるようになれば、とてもハッピーなことだと思っています。今回の話がその一助になれば幸いです。

『最強の歯科ミーティングバイブル―院長の不安解消、スタッフのモチベーション向上』 (角祥太郎=著/デンタルダイヤモンド社)角先生による人気セミナーを書籍化。チーム力を高めるミーティング実践術などを紹介。

著者角 祥太郎

株式会社clapping hands 代表
医療法人社団海星会

角 祥太郎

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