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フッ化物配合歯磨剤の使用開始時期

フッ化物配合歯磨剤の使用開始時期
フッ化物配合歯磨剤の使用開始時期
「いつからフッ化物配合歯磨剤を使用すべきか」というご質問をいただくことがあります。このような臨床の場でのノウハウ的な問いには、各国の臨床ガイドラインが役に立ちます。現在、ガイドラインというと一般的にはエビデンスに基づいた臨床ガイドラインを指します。つまり、論文をシステマティックに調べて、推奨度をつけるという形式のガイドラインです。その他には公的な機関が出している一般の人向けのウェブサイトのうち、米国のNIHやCDC、英国のNHSのものはエビデンスに則って投稿されているので、参考になります。

ここで日本語だけの情報に限らず、海外の情報を取り入れたいのは「英語のススメ(1)英語が重要だと思うワケ」にも書きましたように、日本語だけの情報では偏ってしまいがちだからです。医療分野では、日本語はほぼ日本人にしか読まれませんが、英語は世界中の英語ネイティブの他に、非英語ネイティブも注目しますので、変な情報は淘汰されやすいのです。せっかく、インターネットで様々な国の情報が簡単に手に入る時代になったのですから、最大限、その利点を活かしましょう!

まず、世界保健機関(WHO)の文書(2021年)では、歯の萌出と同時に1,000~1,500ppmのフッ化物配合歯磨剤を使用することと明記されています。使用量は、3歳未満では米粒大かスメア程度(歯ブラシに薄い層が乗る程度)です。必ず介護者が行い、1日2回または、専門家の指示による回数歯磨きするよう勧められています。そして、歯磨剤を飲み込まないようにすること、吐き出すだけで漱がないことも書かれています。

https://cdn.who.int/media/docs/default-source/essential-medicines/2021-eml-expert-committee/applications-for-addition-of-new-medicines/a.14_fluoride-toothpaste.pdf?sfvrsn=4eb40f4c_4

ヨーロッパ小児歯科学会のガイドライン(2019年)も無料でダウンロードできます。

Toumba KJ, Twetman S, Splieth C, Parnell C, van Loveren C, Lygidakis NΑ. Guidelines on the use of fluoride for caries prevention in children: an updated EAPD policy document. Eur Arch Paediatr Dent. 2019 Dec;20(6):507-516. 

https://www.eapd.eu/uploads/files/EAPD_Fluoride_Guidelines_2019.pdf

最初に歯が生えた時から1,000ppmのフッ化物配合歯磨剤を1日2回、米粒大というほんの少量(0.125g)を使うよう推奨しています。

このガイドラインと同じ推奨を写真やイラスト付きで分かりやすく示した論文(2022年)があります。スウェーデンと台湾の合同グループによる論文で、この2国で支持されています。これも無料でダウンロードできますので是非、p1393のファクトボックスをご覧ください。

Ulla Moberg Sköld, Dowen Birkhed, Jian-Zhi Xu, Kai-Hua Lien, Malin Stensson, Jeng-Fen Liu,
Risk factors for and prevention of caries and dental erosion in children and adolescents with asthma,
Journal of Dental Sciences,
2022

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S199179022200054X

アイランドでは “Dental Health Foundation Ireland” という公的な組織が、フッ化物の使い方について情報を提供しています(2022年)。ちなみにアイルランドは0.6-0.8ppm のフロリデーションをしています。
Fluorides & Oral Health
https://www.dentalhealth.ie/professional/fluorides--oral-health/

フロリデーションをしているため、2歳未満では原則としてフッ化物配合歯磨剤を使用しないことを推奨しています。ただし、ハイリスク者は専門家の指導のもとで使用すべきとのことです。500ppm 未満のフッ化物配合歯磨剤は子ども用として市場に出回っているものの、その効果に関するエビデンスはないので、乳幼児から1,000~1,500ppm を使うように指示しています。

米国も小児歯科学会からガイドライン(2018年)が出ていて、これも無料でダウンロードできます。

American Academy of Pediatric Dentistry. Fluoride therapy. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. Chicago, Ill.: American Academy of Pediatric Dentistry; 2021:302-5.

https://www.aapd.org/globalassets/media/policies_guidelines/bp_fluoridetherapy.pdf

このガイドラインでは、飲料水に0.6ppm未満しかフッ素が含まれていない場合は、フッ素が足りないとして他から摂るように推奨しています。摂取源としては、ソーダ、ジュース、粉ミルクなどの飲み物、調理済み食品、歯磨剤が挙げられています。その場合にどのくらいフッ素を摂取すべきかは、飲料水のフッ素濃度別、年齢別に異なります。飲料水のフッ素濃度が 0.3ppm 未満ならば、生後6ヶ月~3歳まで 0.25mgのフッ素を摂るように、飲料水のフッ素濃度が0.3~0.6ppm ならば、3歳から 0.25mgのフッ素を摂るようにとのことです。歯磨剤に関しては何ppm のものを使うようにという指示はありませんが、量は3歳未満には米粒大かスメア程度を使うように写真付きで示しています。

シンガポールでは、以下の論文(2021年)で推奨が示されていました。

Hu, S., Lai, W.P.B., Lim, W. and Yee, R., 2021. Recommending 1000 ppm fluoride toothpaste for caries prevention in children. Proceedings of Singapore Healthcare, 30(3), pp.250-253.

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2010105820963291

1,000ppm 未満のフッ化物配合歯磨剤には効果が認められていないことが強調されています。1,000ppm 以上のフッ化物配合歯磨剤を、3歳未満ではハイリスク児のみに使用、3歳未満のローリスク児は専門家の指導下で使用することととしています。使用量は、米国小児歯科学会のガイドラインと同じく、米粒大かスメア程度の少量で、写真付きでわかりやすく説明されています。3歳以上には1,000ppm 以上のフッ化物配合歯磨剤を豆粒大使用することが推奨されています。

さて、日本はどうでしょうか。厚生労働省の「生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット」というのがあり、そこにフッ化物配合歯磨剤の使い方を示しています(2019年)。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-007.html

歯の萌出~2歳まで、切った爪程度の少量で500ppm(泡状歯磨剤ならば1,000ppm)のフッ化物配合歯磨剤を使うよう勧めています。1,000ppm 未満のフッ化物配合歯磨剤は、国際的には効果を示すエビデンスが認められないとして除外されているので、なぜ500ppm Fを推奨しているのか、その出典を辿ると、事実と異なる情報が散見され、その情報の根拠も明記されておらず正確性を調べることができませんでした。WHO、欧米やアジアの他の国々のように厳密に論文をレビューして客観的なエビデンスに基づいて改訂されることを望みます。

そして最後に、日本ではお茶を乳幼児に飲ませるご家庭が結構あるので、注意を促したいです。例えば、水だしした場合のフッ素溶出濃度は、ほうじ茶で 3.69ppm という報告があります。

林 文子, Udijanto Tedjosasongko, 粟根 佐穂里, 岡田 貢, 香西 克之, 長坂 信夫, 各種茶浸出液のフッ素濃度に関する研究, 小児歯科学雑誌, 1999, 37 巻, 4 号, p. 708-715

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd1963/37/4/37_708/_article/-char/ja/

もし1日に200mlのほうじ茶を飲むとしたら、0.7mg Fの摂取となります。これだけで、上述の米国小児歯科学会のガイドラインでフッ化物応用の限度が、6歳未満で超えてしまいます。問診をしてお子さんの全体のフッ素摂取量にも配慮し、場合によってはフロリデーションしている国のガイドラインに合わせてもいいでしょう。

本記事は、2022年7月10日の「日曜のフィーカ」 の内容に基づいています。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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