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新型コロナウイルス感染症と鼻うがい

新型コロナウイルス感染症と鼻うがい
新型コロナウイルス感染症と鼻うがい
新型コロナウイルス感染症の第7波が収まりつつある時のお話です。とうとう私も新型コロナウイルス感染症に感染してしまいました。発症日(Day 0)の真夜中に咽頭痛があり、その日の午後まで発熱はなかったのですが、新型コロナウイルス感染症を疑って抗原検査キットを申請しました。その間にどんどん体温が上がり、38度の後半まで。次の日(Day 1)に抗原検査キットが届き、陽性が判明しました。



アセトアミノフェンをのんで解熱し、自宅療養を続けていると、その次の日の早朝(Day 2)に息苦しくて横になれなくなりました。倦怠感があるので横になりたいものの、呼吸のために横にはなれないというジレンマの中、自宅待機SOS(コロナ陽性者24時間緊急サポートセンター)に連絡すると、発熱外来へ行くようにとのこと。近所の発熱外来へ辿り着き、次の6剤が処方されました。

1. 葛根湯
2. 小柴胡湯加桔梗石膏
3. カルボシステイン 
4. トラネキサム酸
5. デキストロメトルファン
6. ツロブテロールテープ

服薬した後しばらく横になれたましたが、今度は痰が溜まって咳をすると制御できず、気持ち悪くて嘔吐してしまいました。胃が空っぽになって嘔吐が治まった後、ガラガラうがいをすると少し楽になりましたが、鼻の奥に溜まった痰のようなものが残ってまだ気持ち悪く、その時、ふと、以前にサンプルでいただいていた鼻うがいのことを思い出しました。念の為に鼻うがいの新型コロナウイルス感染症に対する効果をネットで調べてみることにしました。確か、2, 3年前に鼻うがいの新型コロナウイルス感染症に対する効果についてのランダム化比較試験をするというプロトコールを目にしていたので、その結果がもう出ているのでは? と。

すると、米国発のある論文が巷で話題になっていました。新型コロナウイルス感染症ハイリスク患者の重症化を、1日2回の鼻うがいで、国の平均値よりも1/8まで減少させているのです。

Baxter AL, Schwartz KR, Johnson RW, Kuchinski AM, Swartout KM, Srinivasa Rao ASR, Gibson RW, Cherian E, Giller T, Boomer H, Lyon M, Schwartz R. Rapid initiation of nasal saline irrigation to reduce severity in high-risk COVID+ outpatients. Ear Nose Throat J. 2022 Aug 25:1455613221123737. doi: 10.1177/01455613221123737. 


これなら試してみる価値はあると思って、鼻うがいをやってみると、その途端にスッキリ爽やか。効果があまりにも鮮やかで驚きました。その後はよく眠れるようになりました。使用頻度は1日1回就寝前に限りながら継続しましたが、症状が緩和してもういいかなとサボると、途端に夜寝られなくなるくらい痰が絡んで困りました。やはりこれを手放せない。。。

海外の友人に聞いてみると、新型コロナウイルス感染症に6剤も処方されたのは私くらいだったようです。本当にあの6剤が必要なのかはわかりませんが、それよりも何よりも、鼻うがいをした瞬間に救われました。因果関係はわかりません。論文にはウイルスの負荷を下げる効果があるのだろうと考察されています。しかし、私の場合は鼻腔と上咽頭に痰が溜まった気持ち悪さがなくなったことで睡眠が楽になり、それが免疫力のアップに繋がっているのではないかと推測しています。というのも、Baxterら(2022)の研究では鼻うがいの中に炭酸水素ナトリウムを入れた群とポビドンヨードを入れた群が調べられて、ウイルスを不活化しているのですが、私はどちらも使わず、「フローサイナスケア」に付属する粉末のみ使いました。

鼻うがいの中には、他に高張食塩水やベビーシャンプーなどを入れて、新型コロナウイルスに対する効果を調べる研究もされていますが、異議を唱える研究結果もあります。

Meyers C, Robison R, Milici J, Alam S, Quillen D, Goldenberg D, Kass R. Lowering the transmission and spread of human coronavirus. J Med Virol. 2021 Mar;93(3):1605-1612. doi: 10.1002/jmv.26514. Epub 2020 Oct 5. PMID: 32940907.

Esther CR Jr, Kimura KS, Mikami Y, Edwards CE, Das SR, Freeman MH, Strickland BA, Brown HM, Wessinger BC, Gupta VC, Von Wahlde K, Sheng Q, Huang LC, Bacon DR, Kimple AJ, Ceppe AS, Kato T, Pickles RJ, Randell SH, Baric RS, Turner JH, Boucher RC. Pharmacokinetic-based failure of a detergent virucidal for severe acute respiratory syndrome-coronavirus-2 (SARS-CoV-2) nasal infections: A preclinical study and randomized controlled trial. Int Forum Allergy Rhinol. 2022 Sep;12(9):1137-1147. doi: 10.1002/alr.22975. Epub 2022 Jan 31.

ちなみに、新型コロナウイルス感染症が登場する前に、鼻うがいの上気道感染症に対する効果のあることが2015年のコクラン・レビューで認められています。

King D, Mitchell B, Williams CP, Spurling GKP. Saline nasal irrigation for acute upper respiratory tract infections. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015.

本記事は、2022年10月3日の「日曜のフィーカ」の内容に基づいています。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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