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口腔外科診療のエビデンスを考える 第6回(最終回):多機関共同臨床研究のススメ

口腔外科診療のエビデンスを考える 第6回(最終回):多機関共同臨床研究のススメ
口腔外科診療のエビデンスを考える 第6回(最終回):多機関共同臨床研究のススメ
前々回のコラムで述べたが、口腔がんは人口10万人当たり6~7人の罹患率であり、どちらかというと希少癌である。わが国の「がん研究10か年戦略」では、希少癌として“口腔がん”が明記されており、重点研究領域とされている。したがって、口腔外科単施設での症例数ではエビデンスレベルの高い臨床研究を行うには限界があると考え、多機関共同臨床研究に積極的に取り組んできた。よりフレキシブルでスピーディーな研究を推進するために、2013年より日本口腔癌臨床研究グループ(JOOG:Japan Oral Oncology Group)というスタディグループを立ち上げ活動を開始している。2017年には、NPO法人として登記し、私は初代理事長として研究活動を行ってきた。

NPO法人に認可された後、さまざまな学会の開催に合わせて、空き時間を利用してミーティングを行い、臨床研究の実施状況の確認やアイデアを出し合い、実行に移してきた。これまでに臨床研究37件、うち後ろ向きコホート27件、前向き7件の多機関共同研究を行い、うち21編の論文発表を行ってきた実績がある。また、終了後は必ず懇親会で交流を深め、コロナ禍の以前では、皆で時には温泉旅行を兼ねた泊りがけのセミナーを企画したりしていた。そのおかげもあり、研究面のみならず、私自身も多くの施設との手術をとおした交流をもつことができ、地方にいながらも少ない症例数を補うだけの経験を積むことができたとも考えている。

最近では、地域の施設での共同研究なども多く見受けられるようになってきた。口腔外科領域のみならず歯科疾患そのものが、希少疾患が多いことから自然とそのような流れが生じてきているように思える。また、施設同士の交流を良しとする時代的背景も後押しになっていると思われる。施設同士の交流には、若手・中堅のつながりが重要であり、教授同士の交流は建前などが邪魔して真の交流につながりにくい点などもあると個人的には思っている。さらに巷で聞くマッチィングアプリのような研究者交流のツールを利用することも受け入れられるようになってきた。事実、われわれJOOGにおいても研究者交流会などにも招いていただく機会も増え、他領域の研究者との共同研究も進行中である。

さて昨年、人を対象とする医学系研究を対象とする倫理指針、いわゆる医学系指針と、ヒトゲノム・遺伝子解析研究を対象とする倫理指針、いわゆるゲノム指針の両指針が統合され、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が告示された。その統合指針の概要・主な変更点として、新たな用語として、これまで用いられてきた「多施設共同」ではなく、「多機関共同」とされ、多機関共同研究とは、「複数の研究機関で実施する研究」ということで定義づけされた。そして、多機関共同研究についての審査の一本化について、「研究代表者は、原則として一つの倫理審査委員会による一括した審査を求めなければならない」旨の規定が設けられた。研究代表者が一括審査を申請し、承認された場合、各共同研究機関の研究責任者は当該研究機関の長に実施の許可を受けることで研究実施が可能となり、各施設での倫理審査は必ずしも必要としない(図1)。

 
図1 多機関共同研究のイメージ。

一括審査の最大のメリットは、各研究機関において共通で用いる研究計画書などの作成や倫理審査委員会からの審査意見などへの対応は、一括して研究代表者が行うので研究マネジメントを行いやすく、研究代表機関以外の研究者は申請などにかかる手続きが軽減される点であるといわれている。一方、デメリットとして、研究代表機関や代表者は各研究分担機関の体制などを確認する必要があるため、実質負担が大きくなるということが指摘されている。さらに各機関で一括審査の委託依頼を出してくれるまでの時間も違いがあり、かえって時間を要してしまうことも懸念される。

私見になるが、自機関のプレゼンスを示すためか倫理委員会も本気で(厳しく?)審査する傾向もあるのではないかと思っている。そして研究代表者は疲弊して、「やっぱり各機関で審査を通したくなる」と考えることも懸念される。まだわれわれのJOOGでも一括審査をした経験がないが、これからの課題であると思っている。

口腔外科診療のエビデンス確立とは、難しい面もあるが、私自身以下のように考える。診療を通した臨床、特に診療ガイドラインに準拠した診療を行ったうえで生じる臨床的疑問(Clinical Question:CQ)を解決できるような臨床研究をデザインして、それを多機関共同研究で検証するという流れがもっとも現実的ではないだろうか? そして多くの共同研究者とともに多くの知見を得ることができ、臨床家としてのスキルアップにつながる。私も今なおon goingであるが、ぜひ読者の皆様もいかがでしょうか?(了)

著者柳本 惣市

広島大学大学院医系科学研究科口腔腫瘍制御学・教授

略歴
  • 1996年3月、長崎大学歯学部卒業
  • 1996年6月、長崎大学歯学部附属病院第一口腔外科・研修医
  • 1998年4月、長崎大学歯学部附属病院第一口腔外科・医員
  • 1999年4月、長崎大学歯学部第一口腔外科・助手
  • 2006年4月、長崎大学病院・講師
  • 2022年1月、広島大学大学院医系科学研究科口腔腫瘍制御学・教授
  • 現在に至る

【資格】
日本口腔外科学会認定「口腔外科専門医・指導医」 日本がん治療認定医機構「がん治療認定医(歯科口腔外科)」 日本口腔腫瘍学会認定「口腔がん専門医・指導医」 日本口腔インプラント学会認定「口腔インプラント専門医」 日本睡眠歯科学会認定「認定医・指導医」

柳本 惣市

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