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発達期における咬合の変化 その25 睡眠障害とIQ

発達期における咬合の変化 その25 睡眠障害とIQ
発達期における咬合の変化 その25 睡眠障害とIQ
“寝る子は育つ”というが、正しい睡眠は、成長発達に欠かせない。 
睡眠は、疲れた脳を休めるだけでなく、小児では“脳や身体を育てる”役割もある。
脳下垂体からの成長ホルモンは、睡眠に依存し就寝直後の深いノンレム睡眠時に分泌される。
しかし睡眠障害は、そのリズムを阻害し、成長障害だけでなく脳の発達にも影響する。
そして、注意欠陥、多動、攻撃性、夜尿、学業成績不良などの問題につながる。中でも、いびきをかく小児の、1/3人はADHD(注意欠陥・多動性障害)の傾向がある。
しかし、子どもは、酸素不足による症状を訴えることはない。また保護者もイビキは単なる個人差の一つと捉えることに問題がある。(図1)


さて睡眠障害と学業成績に関する研究は多く、
1:小学校1年生の成績低位者(10%)のうち18%に睡眠障害があった。そのうち治療を行ったものは1年後、学業成績が20%改善したが、何もしなかったものは改善しなかった。2:2-6歳児にイビキがあった児童は13・14歳時の成績が低いものが多い。(成績低位者12.9%に対し、高位者5.1%でイビキの既往がある)。3:レビュー論文でも12中11の論文に、睡眠呼吸障害群は知能指数の低下に影響するという結果であった。(図2)


ここで、ラットを用いた動物実験を紹介する。
まず実験群としてスポンジと接着剤で片側の鼻孔を閉鎖し、口呼吸を誘発させる。(両側閉鎖すると、鼻腔の構造上死に至る) 
そして、8方向放射状の迷路(空間作業記憶の評価として利用)の端にエサを置き、ラットが食べる平均時間を計測する。(図3・4)



ラットは、効率的にエサを得るには、取った場所を記憶し、新しい道を探さなければならない。その結果、実験群(7・ 11・15週齢)は、すべてのエサを取り終える時間は、対照群の約2倍を要した(図5・6)。



また、組織学的にも、記憶を司る海馬の錐体細胞数が減少した。この研究から口呼吸は、成長期ラットの記憶・学習能力を低下させることがわかる。

参考:
1)Gozal D : Sleep―Disordered Breathing and School Performance in Children. Pediatrics 、 102 : 616―620、1998.
2)Gozal D : Snoring during early childhood and academic performance at ages thirteen to fourteen years. Pediatrics、 107 : 1394―1399、2001.
3)Beebe DW: Neurobehavioral Morbidity Associated With Disordered Breathing During Sleep in Children: A Comprehensive Review, SLEEP, Vol. 29( 9), 2006.
4)Noriko Tsubamoto-Sano:Influences of mouth breathing on memory and learning ability in growing rats 、Journal of Oral Science, Vol. 61(1) 119-124, 2019.

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識 「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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岡崎 好秀

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