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学校の自動販売機で不健康な食品を売ること

学校の自動販売機で不健康な食品を売ること
学校の自動販売機で不健康な食品を売ること
今、世界的に問題になっているのは肥満関連疾患(糖尿病、高血圧、心血管疾患など)の増加で、糖類の過剰摂取を抑制する必要があります。齲蝕も糖類の頻回な摂取が原因になりますので、歯科医療従事者も率先してこの予防活動に協力すべきです。

教育現場である学校は、食育にとって非常に重要な役割を担う場所であり、こういった時代に不健康な砂糖含有飲料やジャンクフードを学校で販売することには、多くの国や地域が厳しい目を向けています。特に、自動販売機で子どもたちが不健康な食品を手軽に買えることと、それらの摂取量には中学生において強い相関関係があるという米国の報告も示されています(Rovner et al., 2011)。

フランスでは2005年に全国の中学校・高校での自動販売機の設置を禁止する法律が施行されました(Capacci et al., 2018)。小学校ではそれ以前から自動販売機は設置されていませんでした。続いてオーストラリアでも2006年、公立学校でお菓子(チョコレートやドーナツなど)やソフトドリンクを販売する自動販売機を禁止する措置を講じました(Bell et al., 2013)。北米でも地域ごとですが同様の動きがあり、欧州の清涼飲料業界は、2017年、欧州全域の中学校と高校で清涼飲料の販売を自主的に中止することに合意しました。 これは、小学校で清涼飲料を一切販売しないという既存の方針を拡大したものです。

一方、教育現場から不健康な食品を排除することで、本当に子どもたちのそのような食品の摂取量を減らせる効果があるかどうかについては賛否両論あります(Capacci et al., 2018)。学校で飲食できない代わりに他の場所で入手するのではないか、自動販売機で売っていなくても食堂で購入するのではないかという懸念があります。一度不健康な食品への渇望が確立されてしまった後では、食習慣を変えることは大変困難でしょう。実際に、私の講演を聞いてくれた高校生たちの多くから、学校の自動販売機でのソフトドリンクの販売を止めないで欲しいという意見を聞きました。そのため、むし歯や肥満といった健康問題を予防するためには、不健康な食品への依存が形成される前の効果的な食育が重要です。

また、学校内の売店では、不健康な食品の売上が大きいため、これを減らすことには抵抗があります(Capacci et al., 2018)。

日本の状況はどうでしょうか。たとえば、ある私立女子高校と食品メーカーとのコラボレーションを紹介した記事がありました。今まで紹介してきた論文や記事とは、別世界の様相です。このプロジェクトでは、アイスクリームの自動販売機を学校に設置するための企業コラボ講座を生徒たちが受講し、自らデザインやコンセプトを考案して自動販売機を設置することが実現しました。単なるお菓子販売の枠を超え、生徒たちが自らの手で学校生活をより豊かにする体験となっているそうです。生徒たちが自動販売機設置に伴う課題やルールも自ら考え、販売場所のルール作りやゴミの処理など、学校内での秩序維持にも貢献しており、教育現場での自動販売機設置がただの利益追求ではなく、生徒の成長を促す手段としても機能しているとのことですが。。。

この記事の笑顔の女子高校生たちの写真を見ると、不健康な食品と幸せな気持ちが強くリンクしていることがわかります。おそらく、この学校の関係者である大人たちもこのリンクを否定できないのでしょう。このような不健康な食品の消費促進構造は、喫煙の依存性形成と類似しています。不健康な食品やタバコがなくても幸せな人生を送ることは可能ですが、依存してしまうとその選択肢を見失いがちです。

不健康な食品は巧妙なマーケティング手法によって、消費を促しているという複雑な社会の仕組みこそ、学校で子どもたちに教育するべきではないでしょうか。歯科医療従事者の皆様には、ぜひ、子どもたちの健康を守るための世界的な潮流を学校関係者に積極的に伝えて、その実践に貢献していただきたいです。


参考文献

BELL, C., POND, N., DAVIES, L., FRANCIS, J. L., CAMPBELL, E. & WIGGERS, J. 2013. Healthier choices in an Australian health service: a pre-post audit of an intervention to improve the nutritional value of foods and drinks in vending machines and food outlets. BMC health services research, 13, 1-7.
CAPACCI, S., MAZZOCCHI, M. & SHANKAR, B. 2018. Breaking habits: the effect of the French vending machine ban on school snacking and sugar intakes. Journal of Policy Analysis and Management, 37, 88-111.
ROVNER, A. J., NANSEL, T. R., WANG, J. & IANNOTTI, R. J. 2011. Food sold in school vending machines is associated with overall student dietary intake. J Adolesc Health, 48, 13-9.


著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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