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おしゃれの力で福祉の世界にイノベーションを。

コラム

おむつのファッションショーに車いすでのパリコレ出展。
おしゃれの力で福祉の世界にイノベーションを。

おむつのファッションショーに車いすでのパリコレ出展。<br>おしゃれの力で福祉の世界にイノベーションを。
おむつのファッションショーに車いすでのパリコレ出展。
おしゃれの力で福祉の世界にイノベーションを。
歯科医師であり、現代美術作家でもある長縄拓哉先生が各業界の第一線で活躍するクリエイターとともに歯の健康について考える当企画。
4回目のゲストは2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)で、未来のおむつをテーマにしたファッションショー「O-MU-TSU WORLD EXPO」を開催する一般社団法人日本福祉医療ファッション協会の代表理事・平林景さんです。「デンタルマガジン192号(2025年3月1日発行)」で採録できなかったこぼれ話や平林さんの歯磨きライフについて伺いました。

ソーシャルイノベーター、一般社団法人日本福祉医療ファッション協会 代表理事 平林 景 氏 / 歯科医師・現代美術作家 長縄 拓哉 先生

本対談は、兵庫県尼崎市にある平林氏の事務所にて開催されました。

<平林 景(ひらばやし けい)氏プロフィール>

ソーシャルイノベーター。1977年7月21日生まれ。
一般社団法人日本福祉医療ファッション協会代表理事/株式会社とっとリンク代表取締役/四条畷大学 客員教授
美容師を経て教職に就く。その後、2016年12月に起業し、株式会社とっとリンクを設立。わずか2年で3店舗に拡大し、現在は兵庫県尼崎市にて4つの放課後等デイサービスを経営。2019年11月には一般社団法人日本障がい者ファッション協会を設立し、代表理事に就任すると、翌2020年Next UD(Next Universal Design)ブランド「bottom’all」を展開。さらに、2022年9月には、パリ日本文化会館にてパリファッションウィーク期間にファッションショー開催を実現させる。

<長縄 拓哉(ながなわ たくや)先生プロフィール>

1982年愛知県生まれの歯科医師(医学博士)であり現代美術作家。
2007年東京歯科大学卒業後、東京女子医科大学病院、デンマーク・オーフス大学での口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)研究を経て、口腔顔面領域の感覚検査器を開発。IADR(ボストン、2015)ニューロサイエンスアワードを受賞。デジタルハリウッド大学大学院在学中。現代美術の特性を応用し、医療や健康に無関心な人々や小児のヘルスリテラシーを向上させ疾病予防をめざす。

誰もがはきたくなる圧倒的におしゃれなおむつ

長縄:おむつのファッションショーと聞いて、最初は驚きました。「O-MU-TSU WORLD EXPO」とはどんなイベントなのでしょうか? 平林:おむつをはきたい方って、どのくらいいらっしゃるでしょうか。例えば、車いすをお使いの方など下半身に麻痺があり、おむつを使用されている方の中には「友だちと旅行に行けない」とおっしゃる方もいます。理由はおむつ姿を見られたくないからです。介護の現場でもおむつをはかせたいお子さんと、はきたくない親御さんとで喧嘩になってしまうことがよくあります。従来の大人用紙おむつには、多くの方が抵抗感を抱いているんです。普通の下着には何万通りもの色や形の選択肢があるのに、使い捨て紙おむつにはほとんどありません。その状況を変えたいという思いから、未来のおむつをテーマにしたトークショーとファッションショーを2025年6月24日に大阪・関西万博のEXPOホールにて行う予定です。 長縄:未来のおむつとは、どんなものなのでしょうか? 平林:一言で言えば、圧倒的におしゃれな紙おむつです。それも排泄に悩みがあってもなくても、誰もが普段からはきたくなるようなデザインを目指しています。実際に僕も市販の紙おむつをはいてみたことがあるんです。そしたら、鏡の前でどんなにポーズをきめてもカッコよく映らないんです。どうしてこんなに抵抗感があるのだろうかと思い、市販の紙おむつを黒く染めてみました。すると意外と抵抗感がなくなり、問題は見た目にあると確信しました。そこでカラフルなものやレースがついたもの、スポーティーなものなど、さまざまなデザインの紙おむつを試作するようになりました。「O-MU-TSU WORLD EXPO」では、おむつメーカー7社に参画していただくことになり、製品化に向けても動き出しています。万博の大舞台で紙おむつの新たな可能性を示すことができればと思っています。 「かわいいカボチャパンツにストレッチレースを付ければいいかも」という発想から生まれた。 色はいろいろ試してみたが、ベージュ色が女性の一番人気だった。 ターニングポイントになったというアウターにもなるスポーティな「見せパン」をイメージ。配色は赤と黒のロックテイストに。 近未来や宇宙をイメージし、ブラックとシルバーのツートンカラーにしたおむつ。 まるでボクサーがはくトランクスのようで、一見しておむつとはわからない。

叶えたい夢があるなら、1万人に伝えないと叶わない

長縄:平林さんはパリ・コレクションで車いすモデルのファッションショーをされたことがあるそうですね。 平林:もともと美容師だったこともあり、「おしゃれの力で福祉を変える」というのが僕のモットーで、それをずっと公言しています。ある時、友人と雑談をしていたら、彼が「パリコレのランウェイは車いすのユーザーがまだ歩いたことがない」というのです。それを聞いてワクワクしちゃいました(笑)。「おしゃれで福祉を変える」と公言している僕がチャレンジしないわけにはいかないじゃないですか。翌日には「一般社団法人日本障がい者ファッション協会」という団体を立ち上げて、パリコレを目指す準備を始めました。 長縄:すごい行動力ですね。団体の立ち上げは2019年で、パリコレに出られたのは2022年です。わりと最近の話という点も驚きます。 平林:ファッションが好きな障がい者はいるはずですし、パリコレの長い歴史の中で一度もないなんて、僕もにわかには信じられませんでした。きっと何かしらの課題があるのだろうと、実際に車いすユーザーに話を伺いました。すると、車いすだと試着室に入れなかったり、デザイン性が高い服は一人で着ることができなかったり、いくつかの課題が見つかりました。胸が痛かったのは、もともとファッションが好きだったという男性の言葉です。その方は「俺はもうおしゃれをあきらめた」というんです。理由をたずねると、「おしゃれをしたいという自分の欲求のために誰かの手を煩わすことがしんどくなった」と。それを聞いて、障がいがあっても一人で着脱ができ、なおかつおしゃれで、しかも障がいがない人でも着たくなるような、そんな服をつくろうと決意しました。 この日、平林さんが着ていた服は車椅子ユーザーでも一人で着脱できる自身のブランド「bottom’all」の上下。 長縄:服をつくる知識や技術はもともとお持ちだったんですか? 平林:いいえ。協会を立ち上げたのはいいけれど、知識も技術もないし、そもそもどうすればパリコレに出られるのかさえもわかりませんでした(笑)。それで知り合いを介して、実際にパリコレでご自身のブランドの作品を発表したことがある方を紹介してもらいました。その方から説明を受け、「挑戦してみます」と伝えたら、驚かれたんです。これまでもパリコレに出展したいというアパレルの方がたくさん話を聞きに来たらしいのですが、本当に「やる」と言ったのは僕が初めてだったそうです。パリコレでは賞賛を受けることもあれば、酷評されることもあります。出展費用は最低でも1,000万円はかかり、その上で酷評されたら、ブランドの存続が危ぶまれます。皆さん、そのリスクを考えてあきらめるそうです。でも、僕の目的は社会に提案することであって、服を売って儲けたいわけではありません。そもそもアパレルの人間でもないので酷評されても問題はありません。むしろ、「酷評されたほうが話題になるぞ」くらいの感覚でした(笑)。 長縄:炎上ネタになるというか。パリコレ、まったく分かってねえなみたいな(笑)。 平林:まさにそうです(笑)。 長縄:実際に服はどのようにつくられたのですか? 平林:とにかく喋りまくりました。いろんな人に「こういうことをやりたいんだ!」と話しているうちに、手伝ってくれるデザイナーさんや型紙をつくるパタンナーさんなど洋服づくりのプロや医療・介護の専門家と巡り合うことができました。そうした仲間たちとアイデアを形にしていきました。「叶える」という字は“口”に“十”と書きます。だから、「叶えたい夢があるなら10回は口に出さないといけないのか」と思ったのですが、10回では無理でした(笑)。僕は“口”に“万”と書くのが正しいんじゃないかと思うんです。実際に1万人くらいには「パリコレに行きたい!」と夢を語ったと思います。 デザインする際はタブレット端末でラフスケッチを行い、イメージをデザイナーやメーカーに伝える。

歯科医院はおしゃれをして行くところ

長縄:この対談企画の目的のひとつに歯科とは直接接点がない職業の方たちと対談することで、歯の健康を意識する人たちが増えてくれるといいなという思いがあります。平林さんはお気に入りの歯磨きグッズはありますか? 平林:特にはないです。普通に磨いてはいますけども。 長縄:かかりつけの歯医者さんはありますか? 平林:近所にあります。でも、子どもの頃に奥歯はほとんど銀歯になってしまい、神経も抜いています。毎日、磨いてはいたのですが、むし歯になりやすかったんです。 長縄:どんな家庭環境だったのでしょう? 平林:共働きの両親がいて、きょうだいは4人で、祖母も一緒に暮らしていました。 長縄:経験則での話ですが、多くのお婆ちゃんは優しくて、甘いお菓子などをよく与えるので、お婆ちゃん子はむし歯が多い傾向があります。 平林:確かにお菓子をめっちゃくれました(笑)。おばあちゃん自身も甘いものが好きでしたね。 長縄:子どもの頃にむし歯が多かったのは、そういうことが関係しているのかもしれません。歯ブラシ以外の清掃グッズは使いますか? 平林:糸ようじは時々、使います。使わないと歯ぐきが痛くなるんです。それで、たまに糸ようじをすると歯ぐきから出血して、しばらくすると痛みがなくなるという繰り返しで、どうも歯ぐきが弱いようです。 長縄:医学的には、実は「⻭ぐきが弱い」という言い方はありません。ただ、⻭肉炎や⻭周病になると少しの刺激で出血するので、⻭ぐきが弱いように感じます。そういう方は柔らかい歯ブラシでやさしくブラッシングしたり、デンタルフロスを使ったりするなどの工夫が必要で、それを繰り返すうちに⻭ぐきが引き締まり、出血もしづらくなると思います。ただし、出血はさまざまな原因が考えられるため、長く続く場合には、歯科医院を受診していただけたらと思います。 平林:歯ぐきが痛くて磨けないことがあるのですが、どうすればいいですか? 長縄:歯ブラシの毛が硬いか、磨く力が強いのかもしれません。また、口の中も年齢とともに変わるので、特にこだわりもなく何年も同じ歯ブラシを使い続けているのなら、歯ブラシが原因で歯ぐきが傷ついている可能性もあります。最近はいろいろな歯ブラシがあるので、別のものを試してもいいかもしれません。ところで、歯科医院では、治療内容によっては水しぶきが服に飛ぶことがあります。歯科医院に行く時に、服装を意識されることはありますか? 平林:最近の歯科医院はおしゃれなところが多いし、治療中、歯医者さんと患者の距離は物理的に近いので、身だしなみは大事だなと思います。なので僕はおしゃれして行きますよ。 長縄:“歯科医院はおしゃれして行くところ”ってなんかいいですね。おしゃれして美容室に行くように、歯科医院も歯がきれいになる場所なので、全身のコーディネートのひとつとして、きれいで健康な歯があるみたいに思ってくださる方が増えると歯科医師として嬉しく思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。 平林さんにプレゼントした長縄先生の作品。タイトルは「トイレ探しにサンタ苦労する」。クリスマスの日に、やっとトイレを見つけて一息つくサンタクロースがモチーフ。 インタビュイー 平林 景(ソーシャルイノベーター、一般社団法人日本福祉医療ファッション協会 代表理事)/ 長縄 拓哉(歯科医師・現代美術作家)

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