「栄養」という言葉の意味を少し考えてみると「体に良いもの」「体に必要なもの」というイメージが浮かびやすいと思いますが、本来の意味はどういったものでしょうか。日本静脈経腸栄養学会『静脈経腸栄養ハンドブック』(南江堂刊)から引用すると、栄養とは「物質を取り入れて同化し、それにより組織を作り、エネルギーを産生する」という生物の生理機能を営むために備わった「機能」、さらに取り入れる「物質」自体と定義されています。取り入れる物質については「栄養素」と表現することもあります。 体に取り入れた、あるいはもともとある物質を分解し、生理機能を営むために都合のよい形のエネルギーと素材を作る過程を「異化」といい、この異化で得られたエネルギーと素材を用いて生体が必要とするさまざまな分子、分子を合成する過程を「同化」といいます。生存や活動といった生理機能は、すなわちこの異化と同化の組み合わせにより成立しています。 物質としての栄養(栄養素)は炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルといった五大栄養素としての分類が知られていますが、これらをその使い道から分類しなおすと「燃料源」「構成材料」「調整成分」の3つに分類できます。 燃料源からのエネルギー産生は、各物質からATP(アデノシン三リン酸)へと変換する過程といえます。たとえば代表的な燃料源であるグルコースは解糖系を経てピルビン酸からアセチルCoAとなり、さらにTCAサイクルに入り、ミトコンドリア内の電子伝達系を経て高エネルギーを有するATPへと変換されます。脂質を構成する脂肪酸は、β酸化を受けアセチルCoAに変化することでTCAサイクルに入り、以下は前述のグルコースと同じ経路を経てATPを産生します。 生理機能を持続するなかでエネルギーは常時消費されますが、食事は間欠的であるため、貯蔵エネルギーも活用されます。肝臓と筋肉内のグリコーゲンや脂肪組織が貯蔵エネルギーの代表ですが、飢餓の期間や、病気や手術などといった侵襲により優先的に利用される燃料源が変わります。「構成材料」であるタンパク質の元となるアミノ酸も糖新生の過程を経てATPを産生しますが、特に侵襲下においてはタンパク質も燃料源として利用されやすくなります。大病や手術の後に体が動かなくなる、というのは運動しないことによる筋力の衰えではなく、エネルギーとして利用された結果としての筋肉の分解によるところが大きいのです。 栄養、足りていますか?
著者光永幸代
神奈川県立がんセンター 歯科口腔外科 医長
略歴
- 2004年3月、東京医科歯科大学歯学部卒業。
- 東京医科歯科大学歯学部顎顔面外科教室ならびに
- 横浜市立大学顎顔面口腔制御学教室での口腔外科の修練ののち、
- 2014年4月より現職。
- 日本口腔外科学会
- 日本口腔腫瘍学会
- 日本がん口腔支持療法学会
- 日本静脈経腸栄養学会など。
運動とおいしいものを食べることが好きで、患者さんの食べることのお手伝いができる今の仕事に就いていることに喜びとやりがいを感じている。