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むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン2:春、土匂う

むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン2:春、土匂う
むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン2:春、土匂う
集団登校をする子どもの列が、春を越えるごとに短くなっている。私が学校歯科医を務める小学校でも、6年生が卒業すると4月からは各学年単クラスとなる。隣町でも4つの小学校が統合されるために、新校舎が建設中である。日本では、2025年4月1日現在の子ども(15歳未満)の数は1,366万人となり、44年連続で減少し、前年に比べて過去最少を更新した。

総人口に占める子どもの割合は11.1%、私が生まれた年では約30%、開院した頃が約16%だったという数値を提示されると、日本で少子化が急速に進行している状況が再認識できる。国家の存続を脅かす少子化への対策が喫緊の課題であり、意味のある対策に期待したいものである。

新学期になれば、年少をかばうように並び小学校を目指す子どもたち、新入生の保護者らしき人がその列に寄り添う組み合わせは、春の光景の1つである。

景色、気候、食べ物、行事など、春の訪れを感じる場面や瞬間は多くの人が共有しているだろう。しかし実はその人が育ってきた状況や、暮らしている環境によって、微妙に異なっている。

寒暖差がまだ激しい3月早朝、浜の入口の駐車スペースには、モグラ塚が作られ、その上には霜が降りていた。うっすらと白を載せた土の盛り上がりは、大きなケーキを並べたようで、その後ろに咲くハマダイコンの花を眺めながら、春の訪れを感じていた。都会ではモグラ塚を目にすることはほとんどないだろう。モグラは8時間周期で就寝と活動を1日3サイクル繰り返す、きわめて規則正しい生活をしていて、実は12時間餌を食べないと餓死してしまう動物である。春になって大好物であるミミズの活動が活発化すると、繁殖期になるモグラがそれを追って動き回り、そこにモグラ塚が次々と作られていく。

春の土の匂いがする。それは地面が春の日差しで温められ、微生物の活動再開することなどで生じる、他の季節では明確に感じ取れない匂いである。土の上に立ちその匂いを感じ取れということは、花粉症患者には酷かもしれないが、生命力のある匂いという表現がふさわしいかもしれない。
一般的に春を感じる風景として、桜、花桃、菜の花など色鮮やかな花々や、青空に現れる積雲、巻雲などが紹介されることが多い。しかし、春は足元、土からも訪れている。

そもそも、農林業従事者や研究者を除けば、私たちは普段土について着目する機会はほとんどなく生活している。家庭菜園を始めれば、少しは興味をもち始めるかもしれないが。

昨年、土の研究で有名で、マスコミにも登場する藤井一至氏の書籍を手に入れ、読み始めると止まらなくなった。その書籍には「現代の科学技術を持ってしても作れないものは『生命』と『土』。土がなければ地球上に生命は誕生しなかったかもしれない。土は動植物の進化と絶滅、人類の繁栄、文明の栄枯盛衰までに大きく関わってきた。それなのに我々は、土のことはほとんど知らない」と書かれている。岩石砂漠ばかりの地球は5億年かけて土の惑星になった、自然の営みによって1cmの土が作られるのには100年〜1000年もかかることを知ると、目の前の土を手に取ってみようとは思わないだろうか。指摘されればなるほどと思うことだが。私たちの食卓に並ぶ食べ物の95%は、統計上、土に由来する。摂取する栄養バランスは植物を介して土の養分供給量に大きく左右されている。

十年前だったか、母親と話していると3、4歳頃の私は、近くのみかん畑に入り、土を掘りミミズを捕まえて観察するのが日課だったと笑っていた。そう言われてみれば、微かにその記憶もあり、何に惹かれていたのかと思い返すと「蠕動運動(ぜんどううんどう)」、あれが不思議でずっと眺めていた。

前世がモグラだったということもないだろうが、春の土の匂いは特別である。



著者浪越建男

浪越歯科医院院長(香川県三豊市)
日本補綴歯科学会専門医

略歴
  • 1987年3月、長崎大学歯学部卒業
  • 1991年3月、長崎大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
  • 1991年4月~1994年5月 長崎大学歯学部助手
  • 1994年6月、浪越歯科医院開設(香川県三豊市)
  • 2001年4月~2002年3月、長崎大学歯学部臨床助教授
  • 2002年4月~2010年3月、長崎大学歯学部臨床教授
  • 2012年4月~認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンド理事長。
  • 学校歯科医を務める仁尾小学校(香川県三豊市)が1999年に全日本歯科保健優良校最優秀文部大臣賞を受賞。
  • 2011年4月の歯科健診では6年生51名が永久歯カリエスフリーを達成し、日本歯科医師会長賞を受賞。
  • 著書に『父母ヶ浜2000日』(近著)をはじめ『季節の中の診療室にて』『このまま使えるDr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』(ともにクインテッセンス出版)がある。
  • 浪越歯科医院ホームページ
    https://www.namikoshi.jp/
浪越建男

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