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むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン3:評価

むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン3:評価
むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン3:評価
もし、あなたの仕事や行動・活動が、同業者や周囲から「驚きはしないが感心している」と評価を受けた時、心にはどんな感情が浮かぶだろう。これは今シーズンのMLB(メジャーリーグベースボール)での話である。

大谷翔平選手が2度手術を受けたトミー・ジョン手術(T J手術)という言葉が、記憶に残っている人も多いと思う。T J手術は投球の負担により、損傷および断裂した肘の腱や靭帯を切除し、患者自身の手首や太ももなどから採取した正常な腱を移植して作り直す外科手術である。トミー・ジョン投手が初めてこの手術を受けたことから、一般的にはTJ手術という名称が定着している。開始当初は成功率1%未満とされていたが、現在ではリハビリテーションの知識と方法の著しい進歩と改善により、成功率が向上している。そのことは、進化を続ける大谷選手の投球内容を見れば納得できるだろう。

今MLBにおいて、私の最大の望みは、昨春TJ手術を受け復帰したニューヨーク・ヤンキースのゲリット・コール投手が、ストイックに勝利を求める姿を1試合でも多く見ることである。

彼のマウンド上での鋭い眼光、堂々とした佇まい、「省エネ」で美しい投球フォームは、現代MLBにおける最高峰の投手といっても過言ではない。力強さとクレバーさ、精密なコントロール(コマンド)と圧倒的な球威を兼ね備え、高い三振奪取率とフォアボール(四球)の少なさを両立させている。

思い起こせば、以前その研ぎ澄まされた投球術と圧倒的支配力を見たのは、大谷選手を擁するロサンゼルス・ドジャースと対決した2024年のワールドシリーズ第5戦だった。コール投手が4回までドジャース打線をノーヒットに抑え、ヤンキース5点のリードで迎えた5回表のドジャースの攻撃中、味方の失策が重なり無死満塁のピンチを迎える。それでもギャビン・ラックス選手(現タンパベイ・レイズ)、大谷選手を連続三振に抑えた姿には「現代の最強エース」としての風格が漂っていた。

しかし、2死満塁からの一塁へのゴロの際、コール投手が一塁ベースカバーに走らず、一塁はだれもいない状態になった。打ったムーキー・ベッツ選手が一塁を駆け抜けてセーフになり、その間に三塁走者が生還して1点を失う。これに動揺したのか、さらに連続して2点適時打を浴びて一気に5点を失い、同点に追いつかれてしまった。このワンプレーは、この年のワールドシリーズの勝敗を左右したといわれている。

マスコミは、コール投手を「怠慢」だと非難し、戦犯扱いした。確かに、一塁ベースカバーに走っていれば、第5戦はヤンキースが勝った可能性は高い。「コール投手ともあろうものが、なぜ?」。私が最初に浮かべた疑問だった。

それについて小宮山信夫氏(立正大学教授・犯罪学)が、科学的に見れば、コール投手のプレーは異常なものではなく、怠慢でもない。このワンプレーは「プライミング効果」で証明できると述べている。その一例が「シカ、シカ……」と10回言った後に、「サンタクロースの乗っているのは?」と質問されると「トナカイ(正解はソリ)」と応えてしまうという現象だ。「シカ」という言葉を唱えているうちに、関連する言葉が意識のすぐ下に集まってくる。その存在意識をつつけば、「トナカイ」が浮かぶ、それが「プライミング効果」らしい。

コール投手は1回表、ベッツ選手の一塁へのゴロを、一塁ベースカバーなしでアウトにし、その記憶が意識のすぐ下に保存された。5回表に、たまたままったく同じ光景がコールの目の前で展開される。最初、投手としての脳の自動化プログラムにより一塁を目指して走り始めた。しかし、「プライミング効果」が発生し、潜在意識が送ったメッセージは、「一塁ベースカバーは不要」であり、それが脳の自動化プログラムが出した最終的な結論だった。すなわち1回表にベッツ選手の打球をどう処理したか、その記憶がコール投手の潜在意識に入っていたのである。偶然1回表は打球速度が遅く、5回表は打球速度が速かったのだと解説していた。この効果がスポーツ界でも生じることを聞くと、コール投手への思い入れはさらに強まった。

今年5月22日、ようやくコール投手自身が「効率的かつ最適」と表現しているリハビリを経て、手術から569日目にヤンキース対レイズ戦のマウンドに復帰登板を果たす。ヤンキースファンが注目したその試合では、6回を無失点、2安打に抑えるという結果が示された。さらに5月27日に行われた復帰第2戦の対ロイヤルズでは、6回2/3、70球(ストライク59球)を投げ、無失点、10三振、無四球という圧巻の投球を披露した。しかもカウントが3ボールに達したのはわずか2度のみである。野球経験者ならこのすごさが理解できるだろう。

そして、試合後のインタビューの席でヤンキース・ブーン監督は、コール投手が見せたこの2試合の内容について質問を受けると、「効果的で、まるで外科手術のような精密な登板だった」さらに「驚きはしないが感心している」と語った。それは「専門家」や「職業人」にとっては、同業者、同僚から発せられる最高の評価に違いない。

今朝彼は、いつものように勝利だけを目指し復帰第4戦のマウンドに向かう。私はその姿を、真摯に仕事に向き合っている人たちへのエールと受け取りたい。

著者浪越建男

浪越歯科医院院長(香川県三豊市)
日本補綴歯科学会専門医

略歴
  • 1987年3月、長崎大学歯学部卒業
  • 1991年3月、長崎大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
  • 1991年4月~1994年5月 長崎大学歯学部助手
  • 1994年6月、浪越歯科医院開設(香川県三豊市)
  • 2001年4月~2002年3月、長崎大学歯学部臨床助教授
  • 2002年4月~2010年3月、長崎大学歯学部臨床教授
  • 2012年4月~認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンド理事長。
  • 学校歯科医を務める仁尾小学校(香川県三豊市)が1999年に全日本歯科保健優良校最優秀文部大臣賞を受賞。
  • 2011年4月の歯科健診では6年生51名が永久歯カリエスフリーを達成し、日本歯科医師会長賞を受賞。
  • 著書に『父母ヶ浜2000日』(近著)をはじめ『季節の中の診療室にて』『このまま使えるDr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』(ともにクインテッセンス出版)がある。
  • 浪越歯科医院ホームページ
    https://www.namikoshi.jp/
浪越建男

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