梅雨が明けて夏休みが近づくと、吉田拓郎が1971年に発表した「夏休み」の歌詞が浮かぶのは、昭和生まれ、とりわけフォークソングブームの中で育ったせいだろう。あれから55回の夏が過ぎたが、「夏休み」という特別な時間の恩恵にどっぷりと浴せるのは大学生までだったことは間違いない。人生を振り返り、同じように感じる人は少なくないと思う。そしてこの暑く長い休みは、午前中に笑顔で来院する子どもの数が増えることから始まり、「やっと夏休みが終わりました……」という母親たちの安堵の言葉を耳にして終わりを告げる。 夏を迎える前、周囲では梅雨空を見上げ、雨の降り方や蒸し暑さにふれながら会話を始めることが多い。今年梅雨入りをしていた沖縄で開催された第75回日本口腔衛生学会学術大会総会において、フッ化物応用研究奨励賞(ウォーターフロリデーションファンド アワード賞)が制定され、私が認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンドを代表して、学会の山本龍生理事長にその目録を贈呈する機会をいただいた。大会初日には線状降水帯が沖縄の空を覆い、参加者の多くが豪雨の洗礼を浴びたのである。 学会のポスター発表会場で、ある大学の先生から興味ある話をうかがった。フッ化物洗口の効果として、う蝕予防以外に「口腔機能低下症」「口腔機能発達不全症」の予防効果が確認できるという。 口腔内にフッ化物洗口溶液を含み1分間ほど「ブクブクうがい」をして吐き出すわけだが、実際に実施してみると確かに1分間というのは、思っていたよりも長く感じられる。口唇をしっかり閉じ、頬を膨らませたり凹ませたりを続けることは、口唇周囲で筋トレをやるような感覚でもある。 さらにその先生は、「その成果を論文として投稿をしようとすると、海外の研究者に『ブクブクうがい』というのが通じないのです」と付け加えた。初めて知ったその事実に驚きながら会場を後にした。 6月から実施されている歯科診療報酬改定では、「口腔機能低下症」および「口腔機能発達不全症」の管理・指導が大幅に強化・再編されている。たとえば「口腔機能低下症」または「口腔機能発達不全症」の患者さんに対し、主治医の指示を受けた研修受講済みの歯科衛生士が実地指導を行う「口腔機能実施指導料」が新設された。それにつながる情報である。 診療所に定期的に通う患者さんには、30年前から年齢を問わずフッ化物配合歯磨剤の使用と、毎日のフッ化物洗口を継続すること推奨し、ほとんどの患者さんはそれを心がけている。沖縄での学会で耳にしたフッ化物洗口が口腔にもたらすもう一つの効果を患者さん一人ひとりに伝えると、年齢に抗う女性は特に良い反応を示し、子どもの発達に関心のある母親も目を輝かせ耳を傾ける。市内全施設で集団的フッ化物洗口が実施されているが、夏休みになると当然中断されるため、家庭でのフッ化物洗口を続けるための後押しにはなりそうである。 先日、歯科衛生士によるメインテナンス処置のために来院した、欧米人と結婚されている女性に「ブクブクうがい」のもう一つの効果と、海外の研究者がそのうがい法を理解できないらしいと話してみた。すると彼女は、笑みを浮かべながら「そうなんです。彼らはそれをできない、しないのです」と返してきた。水道水フロリデーションなどの全身応用を実施していれば、う蝕予防のために「ブクブクうがい」のフッ化物洗口を実施する必要はない。 さらに夏休みという言葉は、私にハスの花の姿も連想させる。診療所が建つこの土地は55年前にはハス畑だった。夏休みの自由研究を「ハスの観察」とした私は、将来自分が歯科医師としてこの場所で人生の長い時間を過ごすことになるとは知らずに、畔に立ち画用紙に蓮の絵を描いていた。 その頃すでに新潟県では、集団応用フッ化物洗口の「ブクブクうがい」が始まっていて、それを知ったのは歯学部生となってからだった。
著者浪越建男
浪越歯科医院院長(香川県三豊市)
日本補綴歯科学会専門医
略歴
- 1987年3月、長崎大学歯学部卒業
- 1991年3月、長崎大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
- 1991年4月~1994年5月 長崎大学歯学部助手
- 1994年6月、浪越歯科医院開設(香川県三豊市)
- 2001年4月~2002年3月、長崎大学歯学部臨床助教授
- 2002年4月~2010年3月、長崎大学歯学部臨床教授
- 2012年4月~認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンド理事長。
- 学校歯科医を務める仁尾小学校(香川県三豊市)が1999年に全日本歯科保健優良校最優秀文部大臣賞を受賞。
- 2011年4月の歯科健診では6年生51名が永久歯カリエスフリーを達成し、日本歯科医師会長賞を受賞。
- 著書に『父母ヶ浜2000日』(近著)をはじめ『季節の中の診療室にて』『このまま使えるDr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』(ともにクインテッセンス出版)がある。
- 浪越歯科医院ホームページ
https://www.namikoshi.jp/













