「暑い」というより「痛い」。東の山から夏の太陽が顔を出すと、焼き付けるような日差しが肌を刺し始める。夏だけではない。四季を通じて年ごとにその威力が増していることが実感できる。 夏、診療室での患者さんとの挨拶は「暑いですね」という会話から始まる。「今年は特に」と付け加える人も多いが、それに対して私は「来年はもっと暑いですよ」と返してしまう。今後、真夏の「屋外は危険」と考え、行動することが必要となるのだろう。 10年ほど前からワールドニュース(NHK BS放送)を見ることが朝の日課になっている。このところ各国のニュースのトップは、気温や気候に関することがほとんどで、それに続き戦争、紛争が取り上げられる。特に今年は、6月22〜28日の間、西欧を記録的な熱波が襲ったことで、気候変動、温暖化は緊迫した重要課題であることが再認識されている。欧州疾病予防管理センターと世界保健機関が支援する調査ネットワーク「ユーロMOMO」が公表したデータによると、この7日間で欧州連合(EU)加盟27か国において、暑さが原因とみられる死者数(過剰死者数)が1万650人に達し、これらの死者数の大部分は65歳以上だったという。そして科学者たちは人為的な気候変動がなければ、6月下旬の熱波は「事実上あり得なかった」と指摘している。 気象学者の今田由紀子氏(東京大学大気海洋研究所准教授)も、8月下旬の読売新聞の特集記事「ニッポンクライシス 気候変動」の中で、猛暑が深刻化していことは科学的にも示されており、強い危機感をもってほしいと訴えている。今年7月中下旬の記録的な猛暑は、温暖化が起きていない条件では1万年に一度、温暖化が進んだ現在の気象条件でも約37年に一度よりも頻度が少ないことが、スーパーコンピュータによる想定実験で示されたという。国内で発生している猛暑や豪雨は温暖化の影響によるもので、気候変動は専門家の分析が追いつかない速度で進みつつあるらしい。 同じ時期に「地球超解析『宇宙からとく!熱波と豪雨の謎』」(NHKスペシャル)をみて、地球の未来に不安を覚えるとともに、気候変動、温暖化対策の必要性を理解した日本人がどれくらいいただろう。人工衛星による計測や観測データは、現在の地球の状況を詳細に表していた。西欧を襲った熱波は偏西風の蛇行により生じており、北極の氷の融解速度が加速していることが、偏西風の蛇行の大きな要因の1つとなっていることが示されていた。 そもそも北極と南極は、地球全体の大気や海水の温度バランスを整える「地球の冷房装置(冷却装置)」の役割を果たしている。地球の気候システムにおいては、熱帯地域が「熱源」であるのに対し、極地はそこから運ばれてきた熱を宇宙へ逃がす「放熱板」として機能しているのである。地球を「家」とするならば、私たちは冷房装置の劣化が急速に進行している家に住んでいるわけである。しかも、その家から逃れることはできない。氷河期を一度経験しないと、その巨大な冷房装置は元には戻らない。そして多くの気候モデルでは、2030年代の夏には完全に氷がなくなる可能性があると考えられている。装置が完全に壊れないような知恵と早急な行動が不可欠であることに異論を唱える人などいるだろうか。 猛暑のなか、四国地方では梅雨明けからまとまった雨が降らず、香川県民は高知県早明浦ダムの貯水率を気にかけながら暮らしていた。第4次取水制限が始まり、5%となった日もあったが、その一方で千葉県、名古屋市などで発生した記録的な大雨による被害を伝える映像は、同じ日本ではないようにさえ思われた。 もちろん気候変動、温暖化は地球上の全生命に影響を与えている。身近な生物の分布が変わり、環境の変化に適応できないものは死滅する。最適な環境を求めて北上した生物が、従来で会うことのなかった種との間に交雑種を誕生させていることも報告されている。 まるで、火事現場に隣接していて焼かれたように葉を焦がしながら、強い日差しと暑さに耐えている木々の前で立ちすくむしかなかった日々、数日後に降り出した大粒の雨の中では、緑が踊っているように思われた。 その夜、暗闇の中を強い雨と風が駆け抜けた。早朝、診療所に面した県道の歩道には、なぎ倒された雑草をバックに麦わら帽子が1つ。その光景のなかで麦わら帽子が、人類が消滅した地球に残された遺品を連想させた。 「地球の悲鳴」はもう「地球の怒り」に変わっている。「日本、世界のリーダーたちそしてすべての人々へ、手遅れになる前に」、そんな感覚に囚われるのは私だけだろうか。
著者浪越建男
浪越歯科医院院長(香川県三豊市)
日本補綴歯科学会専門医
略歴
- 1987年3月、長崎大学歯学部卒業
- 1991年3月、長崎大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
- 1991年4月~1994年5月 長崎大学歯学部助手
- 1994年6月、浪越歯科医院開設(香川県三豊市)
- 2001年4月~2002年3月、長崎大学歯学部臨床助教授
- 2002年4月~2010年3月、長崎大学歯学部臨床教授
- 2012年4月~認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンド理事長。
- 学校歯科医を務める仁尾小学校(香川県三豊市)が1999年に全日本歯科保健優良校最優秀文部大臣賞を受賞。
- 2011年4月の歯科健診では6年生51名が永久歯カリエスフリーを達成し、日本歯科医師会長賞を受賞。
- 著書に『父母ヶ浜2000日』(近著)をはじめ『季節の中の診療室にて』『このまま使えるDr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』(ともにクインテッセンス出版)がある。
- 浪越歯科医院ホームページ
https://www.namikoshi.jp/













