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むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン2:魚心

むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン2:魚心
むし歯の少ない町の歯科医師の日常 シーズン2:魚心
長い雨が明けると、入道雲が立ち並んでいた夏の空は、小さな雲が並ぶ秋の空へと姿を変えていた。白く透き通ったこの雲は、「鰯雲」とよばれ、秋の青く澄んだ空に広がる白い小さな雲の群れが、魚のウロコのようだとか、イワシの群れに見えることが、その名前の由来である。正式には「巻積雲」とよばれ、上昇気流や下降気流といった対流が盛んに起こることで、雲が発生する対流圏の高層にできる雲である。

その日の朝、窓に接する机に腰掛け、山の緑の上に秋が作り出した青と白の色彩によるアートを、しばらく時間を忘れて見惚れていた。それからパソコンの電源が入る聞き慣れた音を耳にした後、ウェブ検索でニュースをチェックしていく。雲の名前が意識の片隅に残されていたためか、すぐに「魚」に関する記事が目に止まった。

「魚に『心』はある?“釣られた記憶”は2ヶ月以上保持 新潟大学・高橋宏司准教授が解き明かす『魚類心理学』水産業にも貢献」とある。以前、高橋先生の著書『ヒト心あれば魚心』(京都大学出版会)を読んだことがあった。これは『動物研究の最前線から届くドキュメンタリーシリーズ 新・動物シリーズ』(京都大学出版会)の1冊で、このシリーズ(現在12冊目)は動物に魅せられた若者たちが、彼らの世界に少しでも近づこうとする過程を描いたドキュメンタリーである。「動物や自然を愛好するすべての読者に」と紹介されていて、確かに読み始めると、止まらない書籍たちである。

少し横道に逸れるが、20年程前に高校の同級生のコネで、京都大学農学部の研究室を訪ねたことがある。生物好きの息子が見学したがっているとお願いしたが、実は私自身もおおいに興味があったのだ。そしていくつかの研究棟と研究室に招き入れられ、ある部屋のドアを開けると、蝶がゆっくりと飛び交っていた。医歯薬系の実験室しか目にしたことのなかった私にとって、その光景は衝撃的で、時間が止まったにようにそれを眺めていた。それ以来、京都大学の動物研究者たちによる著書には、特に注目するようになった。

「魚類心理学」に話を戻そう。魚類心理学とは、魚を観察することで、その振る舞いから魚類の心理を研究する学問である。そもそも日常生活において「魚に心などあるのだろうか?」と意識することなどないだろう。しかし哺乳類、特に長年連れ添っているイヌやネコに、心はあるという人は私の周りにも一定数はいる。

高橋先生は「魚も学習したり、心がわりしたり、まるでヒトの心のようなものをもっているような様子を見せることがある」と言う。ヒトは自分には心があると感じており、周囲の人にも同じように感じている。

たとえばそっけない素振りを見せられると、「何か怒っているのかな」と感じ、はしゃぐ子どもを見ると「喜んでいるのだな」と感じ、そこに心を感じている。つまり私たちは他者の「振る舞い(=行動)」を見て、相手がどのように感じているのか、どう考えているのかと心を想像していて、それは相手が魚であっても同じことがいえるという。また重要なのは、その振る舞いによって何を感じているのか、何を考えているのかということになる。さらに、より注目すべきは振る舞い(=行動)が変わる「学習」ということになり、魚の学習実験や行動実験を行い、その結果に解説を加えている。

心とは、多義的で抽象的な概念であり、人においてさえ不確かなもの、それが魚に存在するというのはとても難しい。しかし魚の研究においては、「心のようなもの」があるように感じられるというのだが、水槽の熱帯魚や金魚を眺めながら、また釣り糸を垂れながら、皆様はどのように感じるだろう。

さて「魚」と「心」という漢字が並べば、すぐ浮かぶのは「魚心あれば水心」ということわざ。相手が好意的な態度を示してくれると、自然とこちらも好意を返そうという気持ちなるということだ。いずれにしても自分の「振る舞い(=行動)」を見て、相手が「心」を想像していることを忘れてはならない。

著者浪越建男

浪越歯科医院院長(香川県三豊市)
日本補綴歯科学会専門医

略歴
  • 1987年3月、長崎大学歯学部卒業
  • 1991年3月、長崎大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
  • 1991年4月~1994年5月 長崎大学歯学部助手
  • 1994年6月、浪越歯科医院開設(香川県三豊市)
  • 2001年4月~2002年3月、長崎大学歯学部臨床助教授
  • 2002年4月~2010年3月、長崎大学歯学部臨床教授
  • 2012年4月~認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンド理事長。
  • 学校歯科医を務める仁尾小学校(香川県三豊市)が1999年に全日本歯科保健優良校最優秀文部大臣賞を受賞。
  • 2011年4月の歯科健診では6年生51名が永久歯カリエスフリーを達成し、日本歯科医師会長賞を受賞。
  • 著書に『父母ヶ浜2000日』(近著)をはじめ『季節の中の診療室にて』『このまま使えるDr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』(ともにクインテッセンス出版)がある。
  • 浪越歯科医院ホームページ
    https://www.namikoshi.jp/
浪越建男

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