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匿名で口臭を伝えられる「くちくさえもん」をホリエモンが作ったわけ

匿名で口臭を伝えられる「くちくさえもん」をホリエモンが作ったわけ
匿名で口臭を伝えられる「くちくさえもん」をホリエモンが作ったわけ

2019年4月18日、口臭が気になる親しい人に、匿名でそのことを伝えることができるWebサービス「くちくさえもん」が一般社団法人「予防医療普及協会」からリリースされました。岡山県岡山市北区にある、ちゅうりっぷ歯科院長の村上知先生は、「予防医療普及協会」の理事のなかで唯一の歯科医師で、「くちくさえもん」の監修を務めています。いったいなぜ「口臭を伝える」サービスを始めようと思ったのか、その背景にある思いを伺いました。


――口臭通知代理サービス、「くちくさえもん」は名前からインパクトがあり、ホリエモンこと堀江貴文さんがリリースをtwitterで紹介したこともあって、大きな話題となりました。

村上 ありがとうございます、堀江さんは予防医療普及協会の発起人の一人で、理事の中心となって活動しています。この団体は各分野の医師、起業家などからなる組織です。「予防できる病気を未然に防ぐ」活動を行っており、私はその主旨に賛同して設立当初から加わっています。

――堀江さんは、Twitterや著書でも病気予防や健康に関しての発言をよくされていますね。

村上 はい、堀江さんは以前から健康に強い関心を抱いていて、歯の健康の重要性にもたびたび言及されてきました。予防医療普及協会ではこれまで、胃がんの原因であるピロリ菌の検査や除菌、便潜血検査を定期的に受け、陽性の場合は大腸内視鏡検査でポリープの段階で発見できればほぼ予防できる大腸がん、HPVワクチンの接種や定期的な検診で防げる子宮頸がんなどの予防方法を、みなさんに知っていただく活動を進めています。そうした活動のなかで、多くの生活習慣病の原因となっている「歯周病」の予防が課題として上がったのが、この「くちくさえもん」というサービスの開発のきっかけとなりました。

――沢山ある病気のなかでも、歯周病が早期に予防目標に選定されたのはどうしてでしょうか?

村上 歯周病は日本人が歯を失う原因の1位ですが、それに加えて近年の医学研究により、糖尿病や心臓病、脳梗塞などさまざまな全身疾患、深刻な病気の原因となっていることがわかっています。口の中は健康な人でも何百億個という細菌が存在しますが、歯周病に侵された歯肉は、絶えず出血をしています。歯周病になると口腔内に悪玉菌が莫大に増え、その細菌が炎症を起こした歯肉から毛細血管を経て全身を回り、さまざまな悪影響を及ぼすのです。もし手のひらがジュクジュクになって慢性的に目や皮膚から出血していたら誰でも病気を心配しますよね。でも歯を磨いていて歯肉から出血があっても、「そんなものか」と多くの人は気にしません。30代以上の日本人の8割が歯周病に感染しているというデータがありますが、歯周病は痛みや自覚症状がないため、放置されて進行してしまうことが多いのです。

――「口臭を知らせる」ことが目的ではなく、歯周病予防の啓発のためのサービスなんですね。

村上 はい、口臭は歯周病にかかっているかどうかを判断する一つのポイントで、「くちくさえもん」のメールをもらった人が歯科で治療を受けてもらうことが目的です。歯周病は歯ブラシによるブラッシングや、市販のうがい薬だけでは予防、治療することができません。フロスや歯間ブラシを使った正しいホームケアと、歯科による定期的なプロフェッショナルケアが必要となります。口の中の環境が良くなれば悪玉菌が減って臭いもなくなり、全身の健康の向上にもつながります。

――「くちくさえもん」のアイディアを最初に思いついたのは誰だったのでしょうか?

村上 堀江さんが以前から、鼻毛が出ている人に匿名でそれを知らせる「チョロリ」というWebサービスのことを知っていて、「これと同じ仕組みで口臭を知らせたら面白いね」と思いついたのがきっかけです。 大阪にあるWeb制作会社の株式会社ZIZOと株式会社人間が「チョロリ」を共同開発していたことから、本サービスもその2社に開発してもらうことになりました。

――監修にあたって気をつけたことは何でしょうか?

村上 まずは医学的に正しい知識を啓発するということですね。ユーモアを意識したサービスですが、表示されるアドバイスにはすべてきちんとした医学的エビデンスがあります。「くちくさえもん」には「どんな臭い?」という質問項目がありますが、口臭にはいくつかのタイプがあって、歯周病にかかった人の口臭は、生ゴミのような強い臭いがします。「くちくさえもん」には臭い・症状別に10種類のキャラクターがいて、送られる相手別にそれぞれの「えもん」が匿名のメールで原因・対策を知らせる仕組みになっています。

――可愛らしいキャラクターですが、これ届いたらショック受けますね……。

村上 そのとおり、口臭は非常にデリケートな問題で、自分では慣れてしまっているので気づきにくいのですが、それだけに「口が臭うよ」と他人から指摘されたら大きなショックを受けます。そのため、「くちくさえもん」も嫌がらせや、いじめに使われることがないよう、開発に当たっては細心の注意を払いました。

――どんな工夫をしたのでしょうか?

村上 「くちくさえもん」のサイトを見てもらえればわかりますが、利用者が自由に記述できるのは、相手の名前だけです。「相手との関係性(上司、友人、恋人など)」「どう伝える?(ふつうに、強めになど)」の項目を選択すると、自動的に文章が形成されます。その文章は、例えば恋人に送る場合でしたら、「未来ある二人にとって、こんな問題は小さなことです。軽く乗り越えて仲良くやっていきましょう」といったように、相手をなるべく傷つけないポジティブな表現にしています。


「くちくさえもん」の入力フォーム。相手との関係や、においの種類を入力すると、医学的な知見をもった優しい文章で口臭を指摘してくれる。

――なるほど、「くちくさえもん」は相手に送る前に、文面を確認できるのも安心ですね。もらったほうは一時的にショックを受けるかもしれませんが、本当に相手の健康を気遣っているなら、「くちくさえもん」を通じてそっと知らせてあげることは本人の健康のためにも良いことだと思います。

村上 そう思ってもらえたら嬉しいですね。私が院長の「ちゅうりっぷ歯科」のネーミングは、キスを意味する「ちゅう」と、唇の「リップ」を合わせて、「キスしたくなるような素敵なお口」にしようという意味を込めています。口臭の原因には歯周病だけでなく、唾液の減少などの生理的な要因もあります。「くちくさえもん」によって、歯科医の健診を受ける人が増えれば、それはこの国の人々の健康寿命を伸ばすことにも直結します。家族や上司、友人や同僚など、親しい人の口臭が気になっている方には、ぜひこのサービスを活用してもらえたら幸いです。


■口臭通知代理サービス くちくさえもん
https://kusaemon.com/

■ちゅうりっぷ歯科
http://chulip-dc.com/

著者大越 裕

神戸市在住。
2社の出版社を経て、2011年フリーに。
ビジネス・サイエンスを中心に様々なテーマの取材記事を各種メディアに執筆。
理系ライターズ「チーム・パスカル」所属。
http://teampascal.jimdo.com
大越 裕

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