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一般診療所で実践する
睡眠時無呼吸症候群の
口腔内装置治療はおもしろい!
第四回:歯科の本領を発揮するチャンス

2020/2/14 臨床ライブラリ

「ちゃんと使えてますよ」

杖をつきながら診療台に座るなり、手慣れた手つきで口腔内装置(以下OA:Oral Appliance)をケースから出して、左手だけで器用に着脱してくれました(一般的な着脱法と当患者の比較:①~⑦)。持参された紹介医からの報告書には、先日、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)の重症度を評価した結果、OAを装着することで中等症から軽症に改善を認めたため、経鼻的持続陽圧呼吸療法(以下CPAP:Cotinuous Positive Airway Pressure)は中止して経過を診ることになったと記載されてました。そのため当診療所では、今後たとえOAが破損したり、口腔内に異変を感じるようなことがなくても、半年に一度は経過を連絡するように指示しました。 患者さんは50代の男性で、10年前にOSASを指摘されてからCPAPを使い続けていたそうです。2年前に脳梗塞を発症されて、その後遺症で右半身麻痺が出現しました。杖さえあればなんとか歩けるようになりましたが、退院してから誰の手助けもなくCPAPを片手で着脱することに苦労が絶えなくなってしまったようです。そこで紹介医に相談して数年ぶりにOSASの重症度評価を行ったところ、入院中に10kg痩せたためか、脳梗塞発症前は重症であったのが中等症まで改善していたそうです。しかし、脳梗塞再発防止のためにも中等症のOSAS管理を中断するわけにもいかなかったため、OAを試してみてはどうか紹介医に提案されて当診療所に来院されました。 一般的なOAは、スプリント全体がまるで洗濯ばさみのように、歯列弓を挟み込むことで口腔内に維持されます。この力が強すぎれば痛いうえに着脱が難しくなりますし、逆に弱すぎると睡眠中に外れることでまったく役目を果たさなくなります。これらは、製作時にシートを圧接する前に模型上で行うブロックアウトやリリーフの仕方次第で決まるため(写真⑧~⑪)、残存歯の本数や動揺度だけでなく、患者さんの手つきや習癖まで考慮して設計する必要があります。この患者さんの場合、幸いにも口腔内に特筆すべき所見は認めませんでしたが、左手しか動かなかったため、OAの維持源は上下とも左側の負荷を強くし、右側は斜め方向にも着脱できるようにブロックアウトとリリーフを模型上に行って製作したのです。その結果、難なく毎日装着することが容易になったうえに、起床時まで勝手に外れないOAを完成させることができました。しかもOAは小さいので、旅行のときにリュックサックにCPAPまで入れることができなく持ち運びに困っていたことも解消されたとのことでした。

「ちゃんと忘れずに使ってますよ」

この患者さんは90代の男性で、診療台に座るといつも通り口から部分床義歯を外しつつ、ケースから出したOAを手慣れた手つきですんなりと着脱してくれました(写真⑫~⑭)。このOAを装着することで、重症のOSASが軽症へと著しく改善することが紹介医に認められてから早3年、見た目は悪くなりましたがすっかり生活の一部として、毎朝外してから自分でていねいに洗って、どこへ行くときもポシェットの中に保険証と一緒に入れて持ち歩いておられるようです。 3年前に喘息と間質性肺炎の検査で入院したとき、紹介医から重度のOSASを指摘されてCPAPを試したそうです。ところが、軽いアルツハイマー型認知症の影響か、1人ではどうしても装着することができなくて断念、OAなら何とか使えないかと紹介医から相談を受けて製作することとなりました。初診時に、20年前から使用している部分床義歯はどのように着脱されているのか観察したところ、まるで何か食べているかのごとく、口腔内に義歯を放り込んでから軽く咬んで装着され、外すときは大きく口を開けてクラスプの付着部を床ごと指でつまんで外されていたのです。そこでOAも同じように、装着時は口腔内に入れて咬むことにより、顎位が適切な位置に誘導されながら装着できるように設計しました。そして強めに口を開ければ下顎だけ外れ、指でつまめば上顎も外せれるように設計することで、ただ使いこなせるだけでなく、OSASに著効するOAとなったのです。 たとえば著明な顎堤吸収を認める無歯顎の患者さんが「今使っている入れ歯が具合悪いので新しく作ってほしい」と初診時に訴えてきたとしましょう。皆さんも歯科医師としてのプライドにかけて、どうしたら勝手に外れることなく快適に咀嚼や嚥下ができる総義歯を作ることができるか、口腔内だけでなく旧義歯や模型をよく観察しながら試行錯誤するかと思います。CPAPと違ってOAは義歯と同じくオーダーメイドであり、患者さんをみてから臨機応変に素材や形態を変更して製作できるため、じつは適応症例が非常に幅広く万能な治療法なのです。そして、それは街中の診療所で実行できる歯科の技術であり、そこにある材料を工夫して使えば十分な対応ができます。 「"従来の治療でよくならなかった病気が、ここの診療所で作られたマウスピースで治った"と友達から聞いて相談しに来た」 このように受付のスタッフに訴えてきた患者さんもいらっしゃいます。詳しく話を聞いたところ、確かにOSASの可能性があると判断できる内容であったため、日頃頻回にご紹介をいただく近隣病院内科医に依頼を出して評価を行っていただき、当院でOAを製作して装着した結果、改善に至ることができました。このように、いかなるOSAS患者さんのOA製作依頼も断らずに改善を目指し続けていると、ときに思わぬところからこのような患者さんが来院されるようにもなります。見えないところで口コミが広がるだけでなく、近隣の医療機関で働く医師とともに一丸となって診療できる地域医療連携へ発展するきっかけにもつながるのです。 参考文献 横溝一郎,星作男,高坂晋哉,大川原亨,中久木康一.はじめよう!保険でできるOSAS患者のOA治療 医科・歯科の連携による治療の流れから技工操作、難症例の対応まで.the Quintessence 2018;37(2)64-84.