TOP>臨床情報>イートロス医学のススメ第3回:COVID-19について 続報

臨床情報

イートロス医学のススメ第3回:COVID-19について 続報

イートロス医学のススメ第3回:COVID-19について 続報
イートロス医学のススメ第3回:COVID-19について 続報
皆さんこんにちは。米永一理(よねなが かずみち)です。
歯科においてもCOVID-19による深刻な影響が出ているため、今回も予定を変更して、前回(第2回参照)に引き続き、COVID-19についてお話しします。

前回述べたように、無症候感染者による感染拡大が事態を深刻化させており、歯科医院においてもエアロゾル対策に頭を痛めているかと思います。そこで、COVID-19について発表された情報の中から、口腔領域においても関連のありそうな論文を紹介します。ちなみに「SARS-CoV-2」は「新型コロナウイルス」を、「COVID-19」は「新型コロナウイルス感染症」のことを指します。
(注:本文は2020年4月29日に執筆しています。COVID-19に関しては今後情報が変わる可能性があります。最新の情報は、学会ホームページなどで随時ご確認ください)

Lancet系の雑誌には、「SARS-CoV-2は、ウイルスに適した環境下では安定性が非常に高い」とする報告1)があります。ここでは、①サージカルマスクの内側では4日後まで、表側では7日後まで、感染力をもつウイルスが存在している ②ウイルスは、低温(4℃)に高い安定を示し、温度が高くなるにつれて感染力が早期になくなる ③家庭用漂白剤100倍希釈、ハンドソープ液50倍希釈、消毒用エタノール70%、ポビドンヨード(7.5%)、クロロキシレノール(0.05%)、クロルヘキシジン(0.05%)、ベンザルコニウム塩化物液(0.1%)のいずれでもウイルスは感染力を失うことなどが報告されています。マスクに付着したウイルスにも長時間の感染力があることは驚きですが、一方で、温度を高くすることや、特定の消毒薬に限らずさまざまな消毒薬や洗浄剤が有効であることは、感染対策の一助になるかと思います。

そして、Nature系の雑誌には、「エアロゾルが発生するような手技前に、イソジンガーグルで含嗽することにより毒性をなくす」とする報告2)があります。歯科診療前に何かしらの含嗽を行うことは、医師やスタッフの方が曝露する機会を減らす可能性があるかもしれません。

また、まだ詳細は不明ですが、歯科医師によるPCR検体採取が特例で認められることになりました。基本的には、どこででも検査ができるようになるわけではなく、専門医療機関などで対応できる歯科の先生方が出てくることになるかと思います。しかしながら、ニュースで大々的に流れたこともあり、検体採取に関しての知識は必要だと思います。そのため、検体採取の概要をお話しします。

SARS-CoV-2の検体採取では、鼻咽頭拭い液を用いたPCR検査のほうが、咽頭拭い液を用いた検査よりも陽性率が高かったとの報告3)があり、的確な鼻咽頭拭い液の採取と、感染防御を身につけることが重要となります。

鼻咽頭拭い液を採取する際には、綿棒をウイルスの多い鼻咽腔後方までしっかりと到達させ検査することがポイントになります。若手医師にありがちなことですが、検査の際に患者に遠慮してしまい、適切な検体が採取できずに、偽陰性となってしまうことがあります。一方で、きちんとした防御をしておかないと、検査によるくしゃみなどで、検査者が顔面から曝露してしまうことがあります。けっして難しい手技ではないですが、何事もしっかりとした作法のうえで、的確な検査ができるようになりたいものです。

なお、鼻咽頭拭い液でPCR検査した結果が陰性だとしても、100%非感染者といえるわけではありません。SARS-CoV-2陽性患者の検出率は、鼻咽頭拭い液が60%台(咽頭拭い液は30%台)と報告4)されており、たとえ1回の検査で陰性だったとしても、臨床所見として怪しいときには、2回目、3回目の検査が必要となります。

この度、経営や雇用などで、安定的な歯科医療が提供できない状態の先生方もいらっしゃるかと思います。すでに各所に相談などされているとは思いますが、下記のような情報が参考になるかもしれません。


■雇用調整助成金について
社会保険労務士の解説動画
https://www.youtube.com/channel/UCus0YVSYC2xrdD-XVctviVw

厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

■新型コロナウイルス対策融資・保証まとめ
https://www.startuplist.jp/alliance_posts/6


前回の繰り返しになりますが、正しい情報が皆さんを支えます。しかしながら、緊急時はなにが正しい情報なのかまだ誰にもわかりません。そのようなときだからこそ、歯科医療者として、的確に行動できる姿勢を示したいものです。

次回は、COVID-19の状況次第で、お届けする内容を決めさせていただければと思います。今回、「医科歯科連携のメリット」の配信をお楽しみにされていました先生方には、心よりお詫び致します。

ではまた次回お会いしましょう。
ありがとうございました。

参考文献:
1.Alex Chin, Julie Chu, Mahen Perera, Kenrie Hui, Hui-Ling Yen, Michael Chan, Malik Peiris, Leo Poon.Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions.Lancet Microbe 2020.

2.Peng X,Xu X,Li Y,Cheng L,Zhou X,Ren B.Transmission routes of 2019-nCoV and controls in dental practice.Int J Oral Sci 2020;12(1):9.

3.Ai Tang Xiao,Yi Xin Tong,Chun Gao,Li Zhu,Yu Jie Zhang,Sheng Zhang.Dynamic profile of RT-PCR findings from 301 COVID-19 patients in Wuhan, China: a descriptive study.J Clin Virol. 2020.

4.Wang W,Xu Y,Gao R,Lu R,Han K,Wu G,Tan W.Detection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimens.JAMA. 2020 [Epub ahead of print] .

著者米永 一理

東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座特任准教授

略歴
  • 鹿児島大学歯学部・東海大学医学部卒業、博士(医学)(東京大学)。
  • 東京大学医学部附属病院顎口腔外科・歯科矯正歯科助教、
  • 十和田市立中央病院総合内科医員、
  • JR東京総合病院総合診療科医長・地域医療連携相談センター長、
  • 十和田市立中央病院附属とわだ診療所院長を経て現職。
  • 現在、日本大学歯学部兼任講師、十和田市立中央病院総合内科兼任
  • 日本内科学会認定医、日本抗加齢医学会認定専門医、
  • 日本医師会認定産業医、日本再生医療学会認定医、
  • 日本口腔外科学会認定医、日本口腔科学会認定医、
  • 日本口腔内科学会指導医、口腔医科学会指導医/専門医、認知症サポート医、
  • 医師臨床研修指導医、歯科医師臨床研修指導歯科医など
米永 一理

tags

関連記事