経営の収支バランスの健全化を図るために、経費の削減は重要です。 しかし、短絡的な経費削減は、患者さんやスタッフの不満、業務の非効率を招く恐れもあります。 今回は、歯科医院経営における経費の計算方法や経費削減のポイント、注意点、スタッフのコスト意識などについて解説します。歯科医院経営における経費とは?
事業を行う上で使用した費用のことを「経常費用」と言いますが、これが略されて「経費」と呼ばれています。 総収入金額から必要経費を差し引くことで、事業の利益である「事業所得(医業所得など)」を計算します。 事業所得=総収入金額–必要経費 この事業所得に課税されて税額が決まるため、基本的に事業所得が多ければ多いほど、税額は高まります。 つまり必要経費を増やして事業所得を減らすことで、税額は少なくなるということです。 しかし、税額が減ったとしても増えた経費で経営を圧迫することもあります。 財政状況を踏まえて、経費の削減・増加の対策を行いましょう。歯科医院の経費として計上できる費用
歯科医院で必要経費として扱える費用について解説します。 一般的な事業における必要経費とは、 ・総収入金額に応じた売上原価や総収入金額を得るために直接使った費用 ・その年に生じた販売費や一般管理費、業務上の費用 です。 これを歯科医院に当てはめて考えると、 ・医科医業収入を得るために直接使った費用 ・医科医業収入を得るためにその年に発生した販売費 ・歯科医院を維持管理するための一般管理費 が必要経費となります。 具体的には、以下の費用が経費にあたります。 ・治療で使った医薬品、歯科材料代 ・チェアユニットやインテリアなどの減価償却費 ・歯科医院の賃料・テナント料 ・水道光熱費 ・スタッフの給与 ・業務用の電話やインターネット回線などの通信費 ただし、歯科医師の生活費や私的な交際などの個人が使った費用は、必要経費として認められません。歯科医院にかかる経費の削減方法
歯科医院にかかる経費のうち、削減可能なものは大きく以下3種類に分けられます。 ・人件費 ・材料費 ・水道光熱費・消耗品費 歯科医院で経費を削減する方法についてそれぞれ解説します。人件費
人件費の削減には、主に2つのアプローチがあります。 1.スタッフの残業時間をチェックする まずは、タイムカードや賃金台帳で残業時間を調べてみましょう。 特に残業時間の多いスタッフについては、その業務内容をチェックします。 日ごと・月ごと・年ごとの3つの区分で、各業務に何時間費やしているのかを本人に聞いて洗い出します。 該当スタッフへの聞き取りだけでは分からない場合は、その上司や管理者から1ヶ月ほど期間を設けて、業務内容・時間を調査してもらいましょう。 実態を把握した上で次のような対策を行います。 ・偏った業務、苦手な業務などを他のスタッフとバランスを取って割り振る ・能力不足の場合は、個別研修や育成を行う ・そもそもの業務フローについて見直す 2.スタッフの給与を見直す 給与を減らすことは、スタッフのモチベーションや生活費に関わるため、安易に行うことは危険です。 次のポイントを押さえて、慎重に給与を見直してみましょう。 1点目のポイントは「社会保険料」です。 たとえば、給与229,999円と230,000円では1円しか違いませんが、年間の社会保険料は約65,000円違います。 230,000円と249,999円では約2万円違いますが、年間の社会保険料は同額です。 給与に対する社会保険料を意識しながら見直しましょう。 2点目のポイントは「各種手当て」です。 スタッフ全員の給与カットではなく、各種手当ての必要性の有無を見直してみてください。 支給意義を持たない手当て、根拠のあいまいな手当てを洗い出して継続するかどうかを検討します。 もし手当てを廃止する場合は、必ずスタッフ全員に周知の機会を設けなければなりません。 また、スタッフの代表者を公正な方法で選んで「意見書」を提出してもらい、同意を得られた場合は労働基準監督署に届出します。材料費
治療で使う材料費の削減には、主に2つのアプローチがあります。 1.単価やロスを減らす 購入の単価やロスのタイミング・量などを把握し、対策しましょう。 ポイントは次の通りです。 ・1回あたりの購入量を増やして、単価を引き下げる ・無駄なロスを減らすためにスタッフ教育・指導を行う ・複数の歯科医院を経営している場合は、全体で一括購入してから歯科医院ごとに必要量だけを供給する 2.在庫数や品目数を減らす 歯科医院で常時キープしている在庫数が多すぎると、廃棄量の増大につながります。 必要以上の在庫数を抱えるのは避けましょう。 また、在庫の品目数を減らすことも効果的です。 似た医薬品や同じ製品の規格違いなど、品目数を増やしすぎないよう注意しましょう。水道光熱費・消耗品費
普段からのコツコツとした積み重ねで、水道光熱費・消耗品費を削減できます。 区分ごとに対策のポイントをお伝えします。歯科医院の経費削減の注意点
経費削減のために、何でもかんでも費用を削減すればいい訳ではありません。 歯科医院全体を俯瞰してみて、最適なアプローチをすべきです。 続いて、歯科医院で経費削減に取り組む際に注意すべきポイントをお伝えします。満足度を無視しない
独断的な経費削減は、患者さんやスタッフの不満を招きかねません。 たとえば、エアコンの設定温度です。 夏の暑い季節に、経費削減のために温度設定を28度にしていたとします。 しかし、その温度設定では暑さを感じてしまう患者さんがいたり、暑くてウォーターサーバーを利用する方が増えたりするとします。 1ヶ月数万円の電気代削減と不満による患者さんのリピート減を比べると、トータルでは経費削減どころか売上減を招く恐れもあります。 さらに、「院長は指示出しだけだが、現場のスタッフの気持ちを理解していない」とスタッフの不満を招き、モチベーション低下による業務非効率化につながる恐れもあります。効率や手間を考える
費用面だけではなく、業務の効率やスタッフの手間も考慮しましょう。 たとえば、「紙コップや洗剤などの日用品を最安値で買うために何時間もかけて小売店を渡り歩いた」、「プリンターのインクカートリッジを自分たちで中身を補充する『詰め替え式』にしてからインク漏れで手が汚れてしまう」といったケースです。 経費削減のためにスタッフの時間・労力を割くことになれば、人件費の観点では損していたり患者さんの接客もおろそかになる可能性があるでしょう。歯科医院スタッフにコスト意識を持ってもらうには?
院長一人の取り組みだけでは経費削減は成功できません。 スタッフの協力が不可欠です。 そのため院長から一方的に経費削減の指示を出すのではなく、「なぜ経費削減が必要なのか?」「どれくらい経費がかかっているのか?」などについて、定期的にスタッフへ説明することも必要です。 普段何気なく使っている医療機器や材料などの費用を知るだけでも、スタッフの意識は変わるでしょう。 経営者の視点として、「スタッフの給与を上げるためには歯科医院の売上を上げる必要がある」ことも理解してもらってもいいでしょう。 ただし、「高い給与を払ってやってるんだ」という上から目線の言い方はかえって不満を招きかねないため、注意してください。患者さん・スタッフ・歯科医院にとって良い経費削減を
それぞれの立場にとってプラスに働く経費削減を行うことが、歯科医院全体の収支バランスの健全化につながります。 会計士や税理士といった専門家に相談して経費削減を進めることも良いかもしれません。 スタッフとのコミュニケーションを取りつつ、歯科医院一丸となって経費削減に取り組みましょう。