全国に約6万8000軒ある歯科医院のうち、一部は赤字で経営している状況です。
慢性的に赤字が続くと倒産し、「破産」「民事再生」といった法的手続きをとらなければらならないケースもあります。
今回は、歯科医院の赤字の実態や、その理由・背景、黒字化を目指すポイントについて解説します。
歯科医院の赤字の実態
2019年に発表された厚生労働省の「第22回医療経済実態調査」では、全国の歯科医院の12.2%は赤字であることが明らかになりました。
損益差額の平均値は、1,073万円でした。
また、2007年の「医療施設(静態・動体)調査・病院報告 - (表3)」および2017年の「医療施設(静態・動体)調査・病院報告 - (統計表7)」によると、2007年まで「開設・再会」を行う歯科医院の数が「廃止・休止」を行う歯科医院の数を上回っていましたが、2008年以降は「開設・再開」よりも「廃止・休止」が上回ることが目立つようになっています。
同調査によると、2017年には1日あたり約5.9軒の歯科医院が「廃止・休止」になっています。
※ただし、歯科医師の高齢化や個人から医療法人化など、赤字以外の理由も含まれています。
廃止・休止する歯科医院の中には、赤字経営から負債が残り、「破産」「民事再生」などの法的手続きを行わなければならない歯科医院も出てきています。
帝国データバンクの「医療機関の倒産動向調査」によると、2018年の倒産件数は23件で過去最高を記録しました。
このように赤字で経営難に追い込まれる歯科医院も増えています。
赤字の歯科医院が増えている理由・背景
いくつかのデータに基づき、赤字の歯科医院が増えている理由を考察します。
競合の歯科医院の乱立
今や国内には、コンビニエンスストアを上回る数の歯科医院が乱立しています。
厚生労働省の「医療施設(静態・動体)調査・病院報告」および日本フランチャイズチェーン協会「FC統計調査」によると、2017年の歯科医院数は6万6809軒、コンビニエンスストア店舗数は5万7956軒となっています。
コンビニ業界と同じく、歯科業界でも厳しい競争が繰り広げられることとなるでしょう。
また、歯科医師の数も増えています。 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」では、1994年以降、歯科医師数は年々増え続けており、2012年には10万人を突破しました。
齲蝕の患者さんの減少
文部科学省の平成29年度「学校保健統計調査 - (表8)」によると、齲蝕になる子どもの数は1997年から2017年までに半数近くまで減っています。
<1997年 → 2017年>
高校生:94.27%→47.30%
小学生:91.06%→47.06%
ただ、歯の痛みで困っている患者さんが減っているという事実は、本来、医療者としては喜ばしいことです。
また、国立社会保障の「人口問題研究所 日本の将来推計人口」(平成29年推計)によると、2053年には国内の人口が1億人を下回ると予測されています。
これは、現在の人口減少のペースを維持した場合の予測値です。
出生率がさらに低下すれば、人口減少のスピードは加速するでしょう。 人口減少によって、患者数が減ってしまうことが予想されます。
伸び悩む歯科診療医療費
厚生労働省の「国民医療費」によると、国民医療費総額では1995年から2016年までに1.56倍の42兆1381億円に増えています。
しかし、歯科診療医療費では1995年頃から2兆円強の水準を維持しています。
国民医療費総額は1.56倍に伸びているにもかかわらず、歯科診療医療費はほぼ1倍を維持していることとなり、歯科診療の市場は伸び悩んでいます。
しかも、限られた医療費のパイを6万6809軒の歯科医医院で分け合うこととなり、厳しい競争環境となっています。
歯科医院が赤字経営に陥らない・黒字化させるためのポイント
歯科医院における赤字経営の対策方法を解説します。
自費診療の割合を上げる
保険診療よりも自費診療の方が、患者さん1人あたりのレセプト単価は上がります。
医業収益や利益率も良くなるでしょう。 問題は、自費診療の患者さんをどうやって獲得するか?です。
自費診療を希望する患者さんを増やすために、以下のような仕組み作りに取り組んでみてください。
・自費診療を説明するウェブサイトを作る
国民の約8割がインターネットにアクセスする時代です。
インターネットで歯の悩みについて調べる患者さんにアピールできるウェブサイトを構築しておきましょう。
「インプラント」「矯正」といった治療別に専門のウェブページを作ることをおすすめします。
詳しく自費診療のメリットについて解説すれば、患者さんに理解してもらうことができます。
ウェブサイトの制作は、外部の制作会社に依頼して作ってもらうと、時間や労力を省くことができます。
・接客時に自費診療を勧める
歯科医院内の接客中にも自費診療を勧めることができます。
ただし、患者さんのニーズに合わせての提案を心がけ、ごり押しするような提案は控えた方がよいです。
現在治療している症状の再発防止、その他の症状を予防するという目的で、自費診療について説明してみましょう。
説明を行うタイミングは、初診もしくは治療をほぼ終えた頃です。
痛みのある治療中に提案しても、「聞いている場合ではない」「まだこの治療も終わっていないのに…」というのが患者さんの本音です。
ユニットの稼働率を上げる
自費診療のレセプト単価は魅力的ですが、高額になるため患者さんの獲得は容易ではありません。
事前の説明だけで30分〜1時間とかかることもあるでしょう。
そこで意識したいことは、ユニットの稼働率です。
ユニットの空き時間は、診療報酬点数を1点も稼ぐことができません。
空き時間を減らし、稼働率を上げることが診療報酬点数アップにつながります。
しかし、歯科医師だけで診療報酬点数を獲得するには限界があるため、歯科衛生士の力を借りることをおすすめします。
歯科衛生士は、歯科のメインテナンスや予防処置を行うことができます。
歯科衛生士の人件費も常に発生しています。
少しでもユニットの稼働率を上げ、人件費のカバーや診療報酬点数アップに努めましょう。
診療メニューを増やす
診療メニューを増やすことで、患者さんのさまざまなニーズに応えることができます。
対応できない診療メニューがあると、それだけで患者さんを獲得する機会を失ってしまうからです。
たとえば、歯のメインテナンスで来院した患者さんから「インプラントもできますか?」と聞かれて「できません」と答えれば、当然ですが他の歯科医院に通われるでしょう。
診療メニューによっては、自院で行うことにリスクを感じる方もいるかもしれませんが、院長自身が無理に手術を行う必要はありません。
診療メニューの得意な歯科医師に依頼して、代わりに手術してもらえば済むことです。
他の歯科医師に任せ、別の患者さんを対応することが歯科医院全体の売上アップにつながるでしょう。
赤字対策をして黒字経営を目指す
競合の増加や患者数の減少など、歯科医院を取り巻く環境は今後も厳しくなっていく可能性があります。
赤字経営から脱出し、黒字経営を安定化させるために、今回ご紹介した対策を行ってみてください。